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side 香織

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「どうして?
どんな事情のある人だって、人を好きになることは自由でしょう?」

 「そうとは限らないよ。
 男なら誰だって、好きになった人を幸せにしてあげたいって思うはずだけど……
僕には、お金も時間もない。
 朝、起きてから仕事に行って、夕方になったら病院に行ったり、家のことを片付けて……
深夜から朝まではバーテンのバイト。
それでも、稼いだお金は少しも残らない。
まだ足りないくらいなんだよ。
そんな僕に、愛する人を幸せになんて出来ると思う?
 出来るわけないよね…だから、本当は君と会うべきじゃなかったんだ。
こんなことも話すべきじゃなかった。
かおり……ごめんね。
 僕が弱いから、こんな話、聞かせちゃって……」

 智君は私に身を寄せて、すすり泣く……



きっと智君は心身共にヘトヘトになっていて、抱えた荷物に押しつぶされそうになってたんだと思う。
そんな状況だったら、男の人でも誰かに甘えたいって気持ちになるのは当然だ。
 特に私は智君より少し年上だし、もしかしたら頼れるって思われたのかもしれない。
 今は誰かを好きになってる場合なんかじゃないって思えば思う程、智君の心の中は反対の気持ちに傾いてて、それで、今日だってこんなことになってしまったのかもしれない。
そんな風に思うと、智君への愛しさが込み上げた。



 今まで、誰にも必要とされなかった私……
学校でも職場でも家庭でも……取り柄なんてなかった地味な私は、特に誰かに必要とされることなんてなかった。
でも、智君は私を必要としてくれている。
しかも、私のおかげで救われたって言ってくれた。



 「かおり……僕のこと、嫌いになった?」

 「どうして?
 話してくれたかげで、私、智君のことがますます好きになったよ。」

 「無理しないで。
こんなお金も時間もない僕なんて、好きになってくれる人なんていないよ。」

 「ここにいるってば!
お母さん想いで頑張り屋さんで……そんな智君が大好き!」

 「かおり……本気で言ってるの?」

 「もちろん!
 私、智君のことが大好き!」

それは心の底から出た、嘘偽りのない言葉だった。
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