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「すっかり長居しちまって申し訳ないことをしたな。」

『まぁ、良いんじゃないか?
今夜は嬉しい酒だったのだし、ネイサンも飲んで騒ぎたかったんだろうな。』

「……そうかもしれないな。
しかし、本当に良かったよ。
あのままだったら、ネイサンの子供は父親の顔を知らずに育つことになるとこだったんだもんな。」

『おまえがネイサンに言った嘘のアメジストの言い伝えが本当になってしまうとは…
面白いものだな。』

「確かにな。
まさか、俺もこんなことが起きるなんて思っちゃなかったよ。
結婚して5年経っても出来なかった子供ががたまたまこのタイミングで出来たなんて、不思議なもんだよな。
とにかく、これでやっと俺も安心して眠れるよ。
だけど、あの鉱山は土砂に埋まっちまったことだし、この町にいる必要はなくなっちまったな。」

『では、どうする?
明日経つか?』

「別に明日でなくても構わないが、近々、発つことにするかな。」

『そうか…やはりそうなるのだな…』

「……エレス…どうかしたのか?」

『……別に…
そんなことより、早く寝たらどうなんだ?
ただでさえ、おまえは寝坊なんだからな。』

「言われなくても、もう瞼がくっつき始めてるさ。
じゃあな、おまえも早く寝ろよ…ってのもおかしな話か…」

ジュリアンは、ベッドに横になるなり、静かな寝息を立て始めた。



(寝起きは悪いが、寝付きの良さは天下一品だな…)


エレスは無邪気な顔で眠るジュリアンに目を落とした。
口には出さなかったが、実は、エレスの心の中にはひっかかるものがあった。
いつもとは違う事への妙な胸騒ぎ…
ジュリアンが時を遡り、彼に関わった者を救った後にはいつも嬉しい変化が起きていた。
エレスは今回もまたいつもと同じようにそれが起きるものと思っていたのだが、今回に限り、それがなかったのだ。



(なぜだ…?
なぜ、今回だけは違うのだ?)



それが何を意味するのか…それとも、今までの出来事が、むしろ、偶然起こったことだったのか…
その答えはエレスにはまだわかってはいなかった。
そして、すやすやと眠るジュリアンは、エレスがこんな心配を抱えていることさえ気付いてはいない。

 
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