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プレゼント

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(……困ったな。)



 公園のベンチで、僕は小さな溜め息を吐いた。



 商店街の福引であたったのは、可愛い花の鉢植え。
 名前は聞いたけど、ややこしい名前だったから忘れた。
 確か、四月の誕生花とか言ってたな。
 鮮やかな赤やピンクの八重咲の花だ。



 綺麗だとは思う。
だけど、僕はきっとこの綺麗な花を枯らしてしまうだろう。
そう思ったら、なんとも言えない罪悪感に心が痛んだ。



 (……ん?)



 不意に、視線を感じた。
 少し離れたところから、小さな女の子が僕を見ている。



なぜだろう?
 特にこれといった特徴のない僕を、なぜあの子はみつめて…



(あ……)



 少女が見ているもの…それが僕ではないと気が付いた。



 「あ…あの、君……」

 声をかけ、僕は手招きをした。
 少女は、僕を見てちょっと戸惑ったような顔をしたけれど、素直に僕の方に近付いて来た。



 「……花、好きなの?」

 「うん…お母さんがね。
 今日、お母さんの誕生日だから、お花を買ってあげようと思ったんだけど、買えるのなかったんだ。」

 「そう、じゃあ、これをあげるよ!」

 「えっ!で、でも……」

 「福引きで当たったんだけど、僕は男だし一人暮らしだから、きっと枯らしてしまうだろうなって困ってたんだ。もらってもらったら、僕もすごく助かる。」

 「本当に?」

 僕が頷くと、少女は10円玉と5円玉を僕に手渡した。
 全部で115円あった。



 「いいよ、お金なんて。」

 「ううん。ただでもらったら、プレゼントにならないから。」

 「……そう。」



 (……困ったな。)

 僕は再び、悩んだ。
ただでもらった花に、お金をもらうのはなんかひっかかる。
だけど、きっと、この子は僕がお金を受け取らなかったら、悩むだろう。



 (……あ!そうだ!)



 「じゃあ、お金もらうね。
ねぇ…ちょっとついてきてくれる?」

 僕は、その子と一緒に、公園の近くの洋菓子店に向かった。



 「……本当に良いの?」

 「うん。」

 僕は、洋菓子店でショートケーキをふたつ買い、少女にもたせた。
これなら、僕もただの花でお金をもらったという引け目はなくなる。



 「お母さんに、お誕生日おめでとうって伝えてね。」

 「うん、ありがとう、おじちゃん!」



 (うっ!)



 『おにいちゃん』じゃなかったことはショックだったけど…
綺麗な花を枯らすはめにならずに良かった。



 何度も振り返りながら、手を振る少女が曲がり角を曲がって、見えなくなって…
僕は満ち足りた気分で、家路に着いた。
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