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木枯らしの向こう

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(今日はいつもよりなおさら寒いな…)



 冷たい氷の刃のような木枯らしが、僕の体を突き刺す。
 冬の洗濯は辛い仕事だ。
 指先が真っ赤になって、感覚さえなくなってしまう。



 「お前、またサボって!」

 咳が出て苦しくなって、ちょっと休んでたら、ちょうどそこへレイナードさんがやって来た。



 「す、すみません。
せ、咳がとまら…なくて…」

 「言い訳なんか良い!
さぁ、今からこの荷を領主様のところに届けて来るんだ!
 急ぎのものだから早く行け!」

 「は、はい。」



 空はもう薄暗い。
 今から出発したんじゃ、帰りは夜中になってしまうだろう。



 重い荷車をひきながら、僕は領主様のお屋敷を目指した。
 冷たい風が吹く度、僕の顔は切り裂かれるようにひりひり痛む。
いろんなところが痛くて、苦しくて…
それでも、僕には休むことは許されなくて…



自分でも気付かないうちに、僕は涙を流していた。
 辛いことにはもう慣れたはずなのに…
どうして、僕は泣いているのだろう…



多分、体の調子が悪いせいだ。
 風邪でもひいてしまったのか、単に寒いからなのか、ここ数日、僕の体調はとても悪い。
 体調が良くないと、人は心細くなるものだ。
 気にすることはない。
とにかく、今はこの荷物を領主様に届けることだけを考えよう。



 心を無にして…ただ前を向いて一歩ずつ、僕は歩いて行った。
 町を行き交う人々は、厚手のコートを着込み、襟を立てている。
あんなに分厚いコートがあれば、きっと寒さはずいぶんしのげるんだろうな。



 通りがかったお屋敷の窓から、赤い暖炉の火が見えた。
 火の周りに人が集まり、みんな、笑顔を浮かべてた。
きっと、あの部屋の中は春のように暖かいのだろう。
 僕は暖炉にあたったことはないからよくわからないけれど…



息が切れ、暑いのか寒いのかよくわからず、体がふらふらし始めた。
 頑張らなきゃ…
届けるのが遅くなったら、またレイナードさんに叱られる。
そう思うのに、僕の体からは力が抜けて行って…







 「どうした!しっかりしろ!」

 大きな声が、僕の意識を呼び戻した。
 暖かい…さっきの木枯らしが嘘みたいに思える程暖かい部屋に僕はいた。



 「気が付いたか!」

 「は、はい…ここは?」

 「ここは俺の家だ。今、医者を呼びにやってるからな。」

 僕はふかふかしたベッドに横になっていた。
こんな気持ちの良いベッドは初めてだ。
あまりの気持ちの良さに僕は目を閉じた。



なんて暖かい部屋なんだろう?
そして、ふかふかのベッド…



冬でもこんなに暖かくて気持ちの良い場所があったなんて…



『アーロン…』



 母さんだ!母さんが、僕に向かって手を振っている。
 僕は母さんのところに向かって駆けだした。

 
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