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窓辺にて

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(暖かい……)



まるで春のような季節外れの暖かな日…
私はいつものように、職場に向かっていた。



 部屋の掃除を済ませ、濃い化粧をし、夜の帳が下りた頃……
私は、窓辺に立つ。
いかがわしい衣装を身に着けて…
赤い電灯に照らし出される私を、男たちが邪な視線でみつめる。



 今夜はどんな男がやって来るのだろう?
そんなことを気にしていた時期もあったけど、最近はもうどうだって良い。



 若くても年寄りでも…不細工だろうが、美男だろうが、どんな男であろうとも、私には拒むことは出来ない。
 私は、ペットにも劣る存在だから。



 扉を叩く音がする。
 早くも今日最初のお客が来たようだ。



 「いらっしゃい。」

 「やぁ。」



 扉を開けると、初対面の男はずかずかと部屋の中に足を踏み入れた。
 大きなベッドで占領された狭い部屋。
 男は突然、私を抱き締めた。



 名も知らぬ男にくみしだかれる最中、私は、ふと、昔のことを思い出していた。



 父は、ある国の領主をしていた。
 大きな屋敷に住み、ほしいものはなんでも与えられた。
 町の人々は、小さな私にも敬意を払い、とても丁寧に扱ってくれた。



 庶民からすれば、羨ましいような暮らしだったのだと思う。
でも、私にとってはそれはごく当たり前のことでしかなく、感謝をすることも、幸せだと思うこともなかった。
そして、それは当然ずっと続くものだとも思っていた。



しかし、そうではなかった。
ある時、そんな当たり前の生活が崩れてしまったのだ。



 詳しいことはわからないが、使用人から聞いた話によると、父が知り合いに騙されて、途方もない借金を背負ってしまったせいだということだった。



 私達は、着の身着のままで町から逃げた。
 今までとはまるで違う厳しい生活…
普段身に着けていた絹のドレスは、いつしか薄汚い木綿のものに変わっていた。
 屋敷になど住めるはずもなく、狭くて雨漏りのする納屋に住んだり、時には野宿することさえあった。
その時は、最低の暮らしだと思っていたが、その後、それ以上酷い境遇に見舞われた。



 借金取りにみつかり、私は、売られたのだ。
 笑いたくなるようなはした金で…



私は、深窓の令嬢から、飾り窓の女に変わってしまったのだ。
わが身の不幸を呪い、自ら命を絶とうとしたことも何度かあった。
だけど、死ねなかった。



それからは、心を閉ざした。
 心を殺してしまえば、こんな暮らしにも耐えていける。



 男は立ち上がって服を身に着け、金を投げてよこした。



 「ありがとう、また来てね。」

 私は男に向かって微笑んだ。

 
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