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どっち!?

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「おや…?今日はやけに可愛い姿をしているのだな。」

 「……あぁ、あんたが来るって聞いたからな。」

 「私が来たら、なぜ、その姿なのだ?」

 「……そんなことはどうでも良い。」

 「そうだな。確かにその姿の方が可愛らしくて良い。」

 俺がそう言うと、奴はくすりと笑った。
 本当にいけ好かない奴だ。



 以前、奴と会ったのはいつだっただろう?
おそらく何百年も前のことだ。
その時、俺は奴に散々けなされた。
 着ているものの趣味が悪いだの、陰気だの、人間に怖がられそうだのと…



そうでなくとも、俺達の心の奥底には、奴らにコンプレックスのようなものがある。
 奴らは善であり、俺達は悪…
奴らが光なら、俺達は闇だ。



 人間共だって、態度を変える。
 奴らに迎えに来られた者たちは、けっこうすぐに納得するし、穏やかな気持ちでついて来るが、俺達が行くと、泣いたりわめいたり、俺達を罵倒する奴もいる。
 全く、損な役回りだ。



 「おぉ、奴が動き出したぞ。」

 「わかってらい。」

 「なんなら抱いて行ってやろうか?」

 「大きなお世話だ!」



 今日のターゲットは、吉田隼人48歳。
 奴が生きている時間は、あと数時間だ。
 今のところ、奴の積んだ徳と悪行は全くの五分で、そのためどちらに逝くか、まだ決まっていないのだ。
こんなことは滅多にないのだが、ごくたまに発生する。
そのため、今、ここには俺とあいつが来ているというわけだ。
 残された時間で、奴はどちらに傾くのか…



俺たちは、ターゲットの後を付け回した。
 善行をしたかと思うと、悪いことをする。
 善悪のメーターは、なかなか勝負を付けない。



 「おばあさん、俺が持ちますよ。」

 「え?良いんですか?」



 横断歩道の前で、吉田は両手に大きな荷物を持った老婆に声をかけた。
 本当に奴は親切心でそう言ったのか、はたまた荷物を持ち逃げするつもりなのか…
奴の時間はあとわずかだ。
きっと、これで決着が付くだろう。



 「今日は、私の仕事になりそうだな。」

 「そんなこと、まだわかるもんか。」



 吉田は、荷物を持って横断歩道を歩き始めた。
 老婆は吉田の後を少し遅れてついて行く。
 歩けば歩くほど、ふたりの距離は離れて行く。
 老婆を振り切って荷物を持ち逃げするのはたやすいことだ。



 吉田が向こう側に着き、荷物を降ろして振り向いた。
その時、まだ横断途中だった老婆の元へ、一台の車が走り込んできたのだ。



 「危ないっ!」

 吉田は老婆に駆け寄り、突き飛ばした。



 *



あ~あ…
やっぱり、また俺は負けてしまった。
 吉田は、あいつと共に光に包まれ、天に昇って行った。
 黒猫になんか姿を変えて来た自分自身が、酷く哀れに思えた。



 次からはいつも通りにしていこう…
もう見えなくなった二人を見上げながら、俺は心に誓った。
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