250 / 401
僕の友人
1
しおりを挟む
「なぁ、高岡…もうこのあたりで良いじゃないか。」
「良くない!俺達はこんなものを見に来たわけじゃないんだぞ!」
僕の方を振り向きもせず、高岡は険しい山道をどんどん進んでいく。
僕は、小さな溜め息を吐き、彼の後に続いた。
彼と知り合ったのは、あるSNSだった。
彼の呟くことにはなんとなく共感出来ることが多く、そんなことからついフォローしてしまったのが始まりだ。
彼と僕は不思議と気が合い…やがて、会うことに。
一緒に出掛けるのは、今日で5回目だ。
季節柄、紅葉でも見に行かないかという提案に、僕は一も二もなく賛成した。
こういうところは、本当に彼と気が合う。
僕もちょうどそんな気持ちになってたところだったのだ。
「水原、どうせなら、観光客の少ない穴場スポットに行こうぜ!」
「そうだな。それが良いな。」
確かに僕はそう言った。
だけど…朝6時に待ち合わせて、もう一体何時間山道を歩かされていることか。
僕はここまでの穴場は求めていない。
それに、すでに紅葉の綺麗な場所は見て来ている。
なのに、彼はそれでは満足しないようだ。
*
「高岡…さすがにまずいぞ。」
「大丈夫だ。きっともうちょっとで着く。」
彼が目指すのは、どこぞのきこりさんに聞いたとかいう山奥の紅葉スポットだ。
だが、すでにあたりは薄暗くなり始めた。
きっと、もうその地点は過ぎたか、或いは道を間違えたんじゃないかと思う。
いい加減、下山しないとこんな山奥で何の装備もなく夜を明かすのは危険だと思うのだけど、それでも、高岡は足を止めない。
しばらく歩くと、辺りは闇に包まれた。
「高岡…ランプとかある?」
「いや、ない。」
本当にどうすんだ?
月明りだけで歩くっていうのか?
まさか、クマとか出て来ないだろうな?
僕は、泣き出しそうな気分だった。
だが、高岡は相変わらず平気な様子で歩いてる。
「あ!水原!あそこ!」
高岡の指さす先に、明かりが見えた。
まさか、こんな所に人が住んでるとは…!
でも、良かった!助かった!
そう思うと、足取りも軽くなった。
*
「あぁ~…極楽、極楽。」
そこは、人を泊められるとはとても思えないようなおんぼろな温泉旅館だった。
天井には雨漏りの後、畳はべこべこだし、部屋はかび臭い。
それなのに、素泊まりで5000円とはぼったくりも良いところだ。
だけど、露天風呂はすごく良い湯だった。
高岡は、旅館がおんぼろなことも料金が高いことも、さして気には留めていないようだ。
そういうところは、確かに器が大きいと思う。
「な、ここまで来て良かっただろ?」
「え?」
「貸し切り状態でこんな良い温泉に浸かれるなんて、本当、俺達ってラッキーだよな?」
「はぁ……」
見上げれば、木々の間から満月が見える。
まるで、僕たちだけのために浮かんでるみたいだ。
そうだな、確かに僕たちはラッキーなのかもしれない。
「良くない!俺達はこんなものを見に来たわけじゃないんだぞ!」
僕の方を振り向きもせず、高岡は険しい山道をどんどん進んでいく。
僕は、小さな溜め息を吐き、彼の後に続いた。
彼と知り合ったのは、あるSNSだった。
彼の呟くことにはなんとなく共感出来ることが多く、そんなことからついフォローしてしまったのが始まりだ。
彼と僕は不思議と気が合い…やがて、会うことに。
一緒に出掛けるのは、今日で5回目だ。
季節柄、紅葉でも見に行かないかという提案に、僕は一も二もなく賛成した。
こういうところは、本当に彼と気が合う。
僕もちょうどそんな気持ちになってたところだったのだ。
「水原、どうせなら、観光客の少ない穴場スポットに行こうぜ!」
「そうだな。それが良いな。」
確かに僕はそう言った。
だけど…朝6時に待ち合わせて、もう一体何時間山道を歩かされていることか。
僕はここまでの穴場は求めていない。
それに、すでに紅葉の綺麗な場所は見て来ている。
なのに、彼はそれでは満足しないようだ。
*
「高岡…さすがにまずいぞ。」
「大丈夫だ。きっともうちょっとで着く。」
彼が目指すのは、どこぞのきこりさんに聞いたとかいう山奥の紅葉スポットだ。
だが、すでにあたりは薄暗くなり始めた。
きっと、もうその地点は過ぎたか、或いは道を間違えたんじゃないかと思う。
いい加減、下山しないとこんな山奥で何の装備もなく夜を明かすのは危険だと思うのだけど、それでも、高岡は足を止めない。
しばらく歩くと、辺りは闇に包まれた。
「高岡…ランプとかある?」
「いや、ない。」
本当にどうすんだ?
月明りだけで歩くっていうのか?
まさか、クマとか出て来ないだろうな?
僕は、泣き出しそうな気分だった。
だが、高岡は相変わらず平気な様子で歩いてる。
「あ!水原!あそこ!」
高岡の指さす先に、明かりが見えた。
まさか、こんな所に人が住んでるとは…!
でも、良かった!助かった!
そう思うと、足取りも軽くなった。
*
「あぁ~…極楽、極楽。」
そこは、人を泊められるとはとても思えないようなおんぼろな温泉旅館だった。
天井には雨漏りの後、畳はべこべこだし、部屋はかび臭い。
それなのに、素泊まりで5000円とはぼったくりも良いところだ。
だけど、露天風呂はすごく良い湯だった。
高岡は、旅館がおんぼろなことも料金が高いことも、さして気には留めていないようだ。
そういうところは、確かに器が大きいと思う。
「な、ここまで来て良かっただろ?」
「え?」
「貸し切り状態でこんな良い温泉に浸かれるなんて、本当、俺達ってラッキーだよな?」
「はぁ……」
見上げれば、木々の間から満月が見える。
まるで、僕たちだけのために浮かんでるみたいだ。
そうだな、確かに僕たちはラッキーなのかもしれない。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。
若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました
mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。
なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。
不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇
感想、ご指摘もありがとうございます。
なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。
読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。
お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。
克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。
お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!
林優子
ファンタジー
二人の子持ち27歳のカチュア(主婦)は家計を助けるためダンジョンの荷物運びの仕事(パート)をしている。危険が少なく手軽なため、迷宮都市ロアでは若者や主婦には人気の仕事だ。
夢は100万ゴールドの貯金。それだけあれば三人揃って国境警備の任務についているパパに会いに行けるのだ。
そんなカチュアがダンジョン内の女神像から百回ログインボーナスで貰ったのは、オシャレながま口とポイントカード、そして一枚のチラシ?
「モンスターポイント三倍デーって何?」
「4の付く日は薬草デー?」
「お肉の日とお魚の日があるのねー」
神様からスキル【主婦/主夫】を授かった最弱の冒険者ママ、カチュアさんがワンオペ育児と冒険者生活頑張る話。
※他サイトにも投稿してます
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜
青空ばらみ
ファンタジー
一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。
小説家になろう様でも投稿をしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる