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僕の友人

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「なぁ、高岡…もうこのあたりで良いじゃないか。」

 「良くない!俺達はこんなものを見に来たわけじゃないんだぞ!」

 僕の方を振り向きもせず、高岡は険しい山道をどんどん進んでいく。
 僕は、小さな溜め息を吐き、彼の後に続いた。



 彼と知り合ったのは、あるSNSだった。
 彼の呟くことにはなんとなく共感出来ることが多く、そんなことからついフォローしてしまったのが始まりだ。
 彼と僕は不思議と気が合い…やがて、会うことに。
 一緒に出掛けるのは、今日で5回目だ。



 季節柄、紅葉でも見に行かないかという提案に、僕は一も二もなく賛成した。
こういうところは、本当に彼と気が合う。
 僕もちょうどそんな気持ちになってたところだったのだ。



 「水原、どうせなら、観光客の少ない穴場スポットに行こうぜ!」

 「そうだな。それが良いな。」

 確かに僕はそう言った。
だけど…朝6時に待ち合わせて、もう一体何時間山道を歩かされていることか。
 僕はここまでの穴場は求めていない。
それに、すでに紅葉の綺麗な場所は見て来ている。
なのに、彼はそれでは満足しないようだ。



 *



 「高岡…さすがにまずいぞ。」

 「大丈夫だ。きっともうちょっとで着く。」

 彼が目指すのは、どこぞのきこりさんに聞いたとかいう山奥の紅葉スポットだ。
だが、すでにあたりは薄暗くなり始めた。
きっと、もうその地点は過ぎたか、或いは道を間違えたんじゃないかと思う。
いい加減、下山しないとこんな山奥で何の装備もなく夜を明かすのは危険だと思うのだけど、それでも、高岡は足を止めない。
しばらく歩くと、辺りは闇に包まれた。



 「高岡…ランプとかある?」

 「いや、ない。」



 本当にどうすんだ?
 月明りだけで歩くっていうのか?
まさか、クマとか出て来ないだろうな?
 僕は、泣き出しそうな気分だった。
だが、高岡は相変わらず平気な様子で歩いてる。



 「あ!水原!あそこ!」



 高岡の指さす先に、明かりが見えた。
まさか、こんな所に人が住んでるとは…!
でも、良かった!助かった!
そう思うと、足取りも軽くなった。



 *



 「あぁ~…極楽、極楽。」



そこは、人を泊められるとはとても思えないようなおんぼろな温泉旅館だった。
 天井には雨漏りの後、畳はべこべこだし、部屋はかび臭い。
それなのに、素泊まりで5000円とはぼったくりも良いところだ。



だけど、露天風呂はすごく良い湯だった。
 高岡は、旅館がおんぼろなことも料金が高いことも、さして気には留めていないようだ。
そういうところは、確かに器が大きいと思う。



 「な、ここまで来て良かっただろ?」

 「え?」

 「貸し切り状態でこんな良い温泉に浸かれるなんて、本当、俺達ってラッキーだよな?」

 「はぁ……」



 見上げれば、木々の間から満月が見える。
まるで、僕たちだけのために浮かんでるみたいだ。
そうだな、確かに僕たちはラッキーなのかもしれない。

 
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