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言い伝え

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「こ、耕ちゃん、け、け、結婚して下さい!」

 「えっ!?」



 耕ちゃんは、大きな目をさらに大きく見開いて、びっくりしていた。
そりゃあ、急にこんなことを言われたら驚くかもしれないけど…
でも、私達は付き合い始めてもう5年。
しかも、私は今年でもう36歳になるんだから。



 「……いやなの?」

 「え?そ、そうじゃないけど…ちょっとびっくりして。」



うん、きっとそれは嘘じゃない。
 耕ちゃんはそんな嘘を吐くようなタイプじゃない。
 素直過ぎる程、素直な人だから。



 「いつになったら、答えをくれる?」

つい強引なことを口にしてしまった。
だって、私は結婚を焦っているんだもん。
とにかく早く結婚したい…
だって……



私は、乳柱の下がったイチョウの木を見上げた。
この木は、このあたりでは安産のご神木として崇められている。
 私が、今日、待ち合わせの場所にここを選んだ理由…それは……



「耕ちゃん…実はね…私…赤ちゃんが出来たの!」

 「えっ!?」

 耕ちゃんはまたも目を大きくした。
……もしかして、ひかれた?



 「ほ、本当に?」

 耕ちゃんの表情は、明らかに戸惑っている。
やっぱり、ひいてるんだろうか?
そうだよね?やっぱりひくよね?
 私は内心怯えながら、ゆっくりと頷いた。



 「うわぁ…!」

 「わっ!」

 突然、抱き締められて、私は変な声を上げてしまった。



 「ありがとう、凛子!」

 「こ、耕ちゃん…」

 耕ちゃんは、子供が出来たことを喜んでくれた。
 良かった…
ほっとして、自然に涙が流れた。



 「どうしたの?」

 「だって……」

しゃべろうとしたら、余計に胸が詰まって何も話せない。



 「今日、実は僕、すごく心配だったんだ。」

 「な、何が?」

 「突然、イチョウの木の下で会おうなんて言われたから。
きっと『イチョウ』になんらかの意味があるんだろうって思って考えたんだ。
それで…イチョウは、燃えない木だっていうから、もしかして僕に対しての愛の炎が消えたとか言われるんじゃないかって、内心すごく心配だったんだよ。」

 「…え?」

 見当はずれな耕ちゃんの推理に、思わず私は笑ってしまった。
この木のことはいずれゆっくりと教えてあげよう。



イチョウのように、ずっと仲良く長生きしたいってことも。
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