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顔
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絵筆を持って絵の前に立ち尽くし、僕は小さな溜め息を吐く。
顔だけのない肖像画の前で。
こんな愚かな行動を、僕はもう一年以上続けている。
自分の馬鹿さ加減に自嘲めいた笑いがこみ上げて来るのも、いつものことだ。
フウカ......
知り合ったのは、ほぼ放置に近いSNSだった。
友人に誘われて入ったものの、ハマることなく、放ったらかしにしていた。
その存在すら忘れそうになっていた時、突然の友達申請。
『 あなたと繋がってみたいと思いました。』
なぜ、こんな画像を映したのかわからない、ありふれた風景が彼女のプロフィール画像に設定されていた。
しかも、カメラのセンスも悪い。
最初は少し戸惑ったものの、だからと言って断る理由もない。
僕は友達申請を承認した。
フウカは変わった女の子だった。
けっこうおしゃべりなのに、プライベートなことはほとんど話さない。
それはきっと話したくない理由があるからのだろうから、僕は問いただしたりはしなかった。
だが、それ以外のことではフウカとはとても気が合い、日を追うごとに僕はフウカとのやり取りが楽しみになっていた。
その気持ちには、もちろん恋愛感情も混じっていた。
僕は、いつしか本物のフウカに会いたいと思うようになっていた。
しかし、フウカにはそんな気持ちはなかったようだ。
僕の恋愛感情の熱が高まるにつれ、そんなフウカに腹が立ってたまらなくなった。
僕のことは好きだけど、会うことは出来ない。
そんな勝手なことを言うフウカが憎らしく思えた。
苛々して、彼女を怒らせたか、傷付けたか…
フウカからしばらく連絡が途絶えた。
僕はきっと騙されてたんだ。
彼女はただの暇潰しで、僕をからかっていただけなんだ。
そんな風に考えて、彼女を忘れようとした。
だけど、またフウカからメッセージが届いた。
悔しいけど、とても嬉しかった。
未練がましい自分に自己嫌悪しながらも、心は弾んだ。
フウカは僕に初めてプライベートな話をした。
体調が悪く、入院しているということを。
しかも、病状は決して良いものではなく、僕に頼みたいことがある、と。
『私ね…静也に絵を描いて欲しいんだ。
肖像画っていうの?
実は、それをお願いしたくて、友達申請したんだ。』
僕は、趣味で絵を描いている。
本格的に学んだことなんてない。
ただの趣味だ。
それでも、フウカは良いと言う。
嫌な気分だった。
まるで、フウカは死を予感しているようで。
『絵は描くよ。
でも、その代わり、元気になるって約束してくれ。』
その言葉に、フウカはいとも簡単に了承した。
なんだ、また僕が真に受けただけなのか?
そう思い、僕は安堵して肖像画に取りかかった。
顔を見たことも無いフウカの肖像画に。
昔の王家か貴族のものみたいな肖像画にして欲しいという馬鹿げた注文を受け、フウカには紫色のベルベットのドレスを着せた。
その間、フウカとのやり取りは細々と続いていた。
短い言葉がたまに来るだけ。
だけど、肖像画のことだけは毎回書いてあった。
完成を楽しみにしている、と。
やがて、顔以外はほぼ完成した。
その間、せめてイメージだけでも、と、顔について訊ねたが、フウカは何一つ答えてはくれなかった。
そして、メッセージも届かなくなり、僕の作業も停滞した。
何度送っても、僕のメッセージは一方通行だ。
だけど、やめることが出来ない。
やめてしまったら、嫌な予感を受け入れてしまいそうだから。
(今日こそは描いてやる!)
何度もそう思い、絵筆を握る。
なのに、僕にはやはり描くことが出来ない。
知らないからじゃない。
僕はフウカを良く知っているから。
だから、描けないんだ。
(また今度頑張ろう…)
絵筆を置き、安いワインを口に含む。
自分に甘い僕には、少し渋すぎるワインだった。
顔だけのない肖像画の前で。
こんな愚かな行動を、僕はもう一年以上続けている。
自分の馬鹿さ加減に自嘲めいた笑いがこみ上げて来るのも、いつものことだ。
フウカ......
知り合ったのは、ほぼ放置に近いSNSだった。
友人に誘われて入ったものの、ハマることなく、放ったらかしにしていた。
その存在すら忘れそうになっていた時、突然の友達申請。
『 あなたと繋がってみたいと思いました。』
なぜ、こんな画像を映したのかわからない、ありふれた風景が彼女のプロフィール画像に設定されていた。
しかも、カメラのセンスも悪い。
最初は少し戸惑ったものの、だからと言って断る理由もない。
僕は友達申請を承認した。
フウカは変わった女の子だった。
けっこうおしゃべりなのに、プライベートなことはほとんど話さない。
それはきっと話したくない理由があるからのだろうから、僕は問いただしたりはしなかった。
だが、それ以外のことではフウカとはとても気が合い、日を追うごとに僕はフウカとのやり取りが楽しみになっていた。
その気持ちには、もちろん恋愛感情も混じっていた。
僕は、いつしか本物のフウカに会いたいと思うようになっていた。
しかし、フウカにはそんな気持ちはなかったようだ。
僕の恋愛感情の熱が高まるにつれ、そんなフウカに腹が立ってたまらなくなった。
僕のことは好きだけど、会うことは出来ない。
そんな勝手なことを言うフウカが憎らしく思えた。
苛々して、彼女を怒らせたか、傷付けたか…
フウカからしばらく連絡が途絶えた。
僕はきっと騙されてたんだ。
彼女はただの暇潰しで、僕をからかっていただけなんだ。
そんな風に考えて、彼女を忘れようとした。
だけど、またフウカからメッセージが届いた。
悔しいけど、とても嬉しかった。
未練がましい自分に自己嫌悪しながらも、心は弾んだ。
フウカは僕に初めてプライベートな話をした。
体調が悪く、入院しているということを。
しかも、病状は決して良いものではなく、僕に頼みたいことがある、と。
『私ね…静也に絵を描いて欲しいんだ。
肖像画っていうの?
実は、それをお願いしたくて、友達申請したんだ。』
僕は、趣味で絵を描いている。
本格的に学んだことなんてない。
ただの趣味だ。
それでも、フウカは良いと言う。
嫌な気分だった。
まるで、フウカは死を予感しているようで。
『絵は描くよ。
でも、その代わり、元気になるって約束してくれ。』
その言葉に、フウカはいとも簡単に了承した。
なんだ、また僕が真に受けただけなのか?
そう思い、僕は安堵して肖像画に取りかかった。
顔を見たことも無いフウカの肖像画に。
昔の王家か貴族のものみたいな肖像画にして欲しいという馬鹿げた注文を受け、フウカには紫色のベルベットのドレスを着せた。
その間、フウカとのやり取りは細々と続いていた。
短い言葉がたまに来るだけ。
だけど、肖像画のことだけは毎回書いてあった。
完成を楽しみにしている、と。
やがて、顔以外はほぼ完成した。
その間、せめてイメージだけでも、と、顔について訊ねたが、フウカは何一つ答えてはくれなかった。
そして、メッセージも届かなくなり、僕の作業も停滞した。
何度送っても、僕のメッセージは一方通行だ。
だけど、やめることが出来ない。
やめてしまったら、嫌な予感を受け入れてしまいそうだから。
(今日こそは描いてやる!)
何度もそう思い、絵筆を握る。
なのに、僕にはやはり描くことが出来ない。
知らないからじゃない。
僕はフウカを良く知っているから。
だから、描けないんだ。
(また今度頑張ろう…)
絵筆を置き、安いワインを口に含む。
自分に甘い僕には、少し渋すぎるワインだった。
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