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三枚目

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「ねぇ…何やってんの?」

 「気にしないで…」

 「気になるよ。」

 厚子は、不機嫌にそう言った。



 舞い散る桜の花びらを、三枚続けて掴むことが出来たら、恋が成就する…



そんなのただのつまらないおまじない。
そう思っても、つい頑張って花びらを掴もうとしてしまうのは…好きな人がいるから。



 (あと一枚…!)



ひらりひらひら…
舞い落ちる花びらは、あと少しというところで、私の指をすり抜けた。



まただ…
いつも、何とか掴めるのは二枚止まり。
 最後の一枚は、なかなか掴めない。



それは、やっぱり私の好きな人が高望み過ぎるからか…
一つ年上の生徒会長。
 学校中の生徒が彼のことを知ってると思う。
それに引き換え、私は何の取り柄もないただの女子中学生。
 生徒会長は、アイドルと同じくらいに遠い存在。



 (そうだよね…無理だよね…)



 掴めない花びらのせいにして、彼への想いを断ち切った。



 高校生になり、大学生になっても、私は舞い散る桜の花びらを必死で取ろうとした。
だけど、やっぱり三枚続けては取れなくて、私は、その都度、桜の花びらを言い訳に、その恋を諦めた。



 *



 社会人になり、何年かが過ぎた。
 桜の季節になっても、もう花びらを掴もうとすることはなくなった。
そんなのは、何の根拠もないただのおまじないだとわかる年になったのだ。



 「ちょっと、トイレに行って来ます。」



 職場の花見…
そういうのは苦手だけれど、行かないというわけにもいかない。
 私は大人数で騒ぐことは苦手だし、お酒にも弱いから。
なんだかんだと理由を付けては、その場から離れた。



ふと見ると、同じ職場の奥園さんが、桜の木の下で桜を見上げていた。
その顔があまりにも真剣だったから、私はつい立ち止まり、奥園さんの様子に見入ってしまった。



その時、花びらが音もなく散って…
奥園さんは、その花びらを優雅な仕草で掴んだ。



 「あっ!」



 思わず上げた声に、奥園さんが私に気付いた。



 「吉井さん!」

 奥園さんが私の所に走って来る。



 「あ、あの……」

 「吉井さん!」

 「は、はい。」

 「僕と付き合って下さい!」

 「……え?」



 奥園さんは、照れくさそうな顔で手の平を差し出した。
そこには、三枚の花びらが…



「友達からでも良いんです。
きっと、僕達、うまくいきます。
どうかよろしくお願いします。」



 正直言って、奥園さんに特別な感情は持ってなかったし、とにかく驚いただけなのだけど…



「は、はい…私で良ければ…」

 私はそう返事をしてしまっていた。



 「あ…あぁっ!ありがとうございます!」



 私もそう思う。
だって、花びらを三枚掴めたんだもの…
きっと、私達はうまくいく……
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