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大切な花
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(何やってるんだろう?)
家から自転車で40分。
僕はまたこの梅林にやって来た。
100種類を越える種類の梅が咲き誇り、あたりは香しい梅の香りに満ちていた。
特に梅が好きと言うわけではない。
梅は僕にとって大切なものなのだ。
僕の名前は山本健一。
だが、それは十年程前に便宜上付けられた仮の名前だ。
本当の名前はわからない。
なぜなら、僕は自分に関する記憶を、すべて失ってしまっているからだ。
気が付いた時は病院のベッドの上だった。
僕は酷い怪我をしていて、一時期は命の危険さえあったそうだ。
その後、体は順調に回復して行ったが、記憶の方は全く戻らなかった。
自分が何者なのかわからないというのはとても不安なものだ。
ただ、指名手配はされてないようだった。
捜索願いも出されてない。
僕は自分が誰なのか知らないままに、もう十年もの時を過ごしてしまった。
数年前のある時、梅の花を見た途端、何の前触れもなく僕は倒れた。
僕の心の中で何かがざわざわするのを感じた。
僕の記憶喪失には、梅の花が関係しているのかもしれない。
そんな風に感じて、僕はあえて梅の花を見るようにした。
何か少しでも僕に関する手がかりがみつからないかと、期待を込めて…
最近は、倒れることはおろか、心がざわめくことさえなくなった。
最初に倒れたのはたまたま具合が悪かったのかもしれない。
そんな風に思うこともある。
だけど、僕にとって手がかりになりそうなものはこの梅の花だけなのだ。
傍から見れば、僕はのんびりと梅の花を見物してるだけに見えることだろう。
僕の切実な想いに気付く者等いない。
(……綺麗だ。)
赤に白に薄桃色に…
梅の花は色鮮やかに咲き、美しさを競い合う。
この可憐な花が一体僕にどのように関わっているのか…
なにもわからないもどかしさに、唇を噛み締める。
でも、未練がましい僕はきっと来年もまたここへ来るだろう。
自転車を漕いで…
家から自転車で40分。
僕はまたこの梅林にやって来た。
100種類を越える種類の梅が咲き誇り、あたりは香しい梅の香りに満ちていた。
特に梅が好きと言うわけではない。
梅は僕にとって大切なものなのだ。
僕の名前は山本健一。
だが、それは十年程前に便宜上付けられた仮の名前だ。
本当の名前はわからない。
なぜなら、僕は自分に関する記憶を、すべて失ってしまっているからだ。
気が付いた時は病院のベッドの上だった。
僕は酷い怪我をしていて、一時期は命の危険さえあったそうだ。
その後、体は順調に回復して行ったが、記憶の方は全く戻らなかった。
自分が何者なのかわからないというのはとても不安なものだ。
ただ、指名手配はされてないようだった。
捜索願いも出されてない。
僕は自分が誰なのか知らないままに、もう十年もの時を過ごしてしまった。
数年前のある時、梅の花を見た途端、何の前触れもなく僕は倒れた。
僕の心の中で何かがざわざわするのを感じた。
僕の記憶喪失には、梅の花が関係しているのかもしれない。
そんな風に感じて、僕はあえて梅の花を見るようにした。
何か少しでも僕に関する手がかりがみつからないかと、期待を込めて…
最近は、倒れることはおろか、心がざわめくことさえなくなった。
最初に倒れたのはたまたま具合が悪かったのかもしれない。
そんな風に思うこともある。
だけど、僕にとって手がかりになりそうなものはこの梅の花だけなのだ。
傍から見れば、僕はのんびりと梅の花を見物してるだけに見えることだろう。
僕の切実な想いに気付く者等いない。
(……綺麗だ。)
赤に白に薄桃色に…
梅の花は色鮮やかに咲き、美しさを競い合う。
この可憐な花が一体僕にどのように関わっているのか…
なにもわからないもどかしさに、唇を噛み締める。
でも、未練がましい僕はきっと来年もまたここへ来るだろう。
自転車を漕いで…
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