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運命のテレホンカード

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(あれ…?)



ポケットに手を入れた時、俺はある違和感に気付いた。
そうだ…テレホンカード…
さっき、使ってからどうしたっけ?



もう一度ポケットに手を入れてまさぐる…反対側も同じように。
でも、テレホンカードはやっぱりなかった。
クラッチバッグの中も見てみたが、そこにもない。



 (やっぱり、さっきの電話の時…)



 俺は、仕方なく、さっきの電話ボックスに戻ることにした。
テレホンカードがなければ、やっぱり不便だ。
 小銭をじゃらじゃら持って歩くのは大変だし格好悪い。
それにあのカードは、まだ買ったばかりでそんなに使ってない。
なくしてしまうにはもったいない。



 電話ボックスの近くに来た時…
ちょうど、ひとりの男性がドアを開けて中に入ろうとしていた。
 俺は慌てて走り出し、その男に声を掛けた。



 「あ!ちょ、ちょっと待って!
 俺…そこに忘れものが…」

 俺の声に気付いた男が振り返る。
その瞬間、俺とその男は、まるでまわりの時が止まったかのように、お互いの顔をみつめて固まった。



そこにいたのは、俺だった。
いや、俺とそっくりな男…
それが、誰なのか、俺は瞬時に理解した。



 「まさか…誠司なのか?」

 「えっ!?じゃ、じゃあ…祐司?」



そう…ある不幸な事情から、俺達は幼い時に別々の里親に引き取られ…
それ以来、お互いの消息を知ることもないままに大人になった。
 別れたあの日から、三十数年ぶりに、俺達は偶然出会ったんだ。



 俺達は、近くの茶店でティラミスを食べながら、お互いの近況を話した。



 「え、漫画描いてるのか…」

 「いい年になって馬鹿みたいだろ?でも、今でも漫画家になるっていう夢を諦めきれないんだ。」

 「あぁ、わかるよ…」

 「嘘吐け!本当は馬鹿みたいだって思ってるんだろ?」

 「思ってないって。
 俺も絵描きになるのが夢で、今でも絵を描いてるんだから。」

 「えっ!?そうなのか?」



 幼い時のことを思い出した。
そうだ、俺達は二人共子供の頃から絵を描くのが好きだった。
 進む道は少しだけ違うけど、だけど二人共まだ絵を描いてたってことが…夢に向かって頑張ってるってことが、俺は本当に嬉しかった。



こんな年になって、まだ夢を追ってるなんて、普通なら話しにくいことだ。
 俺たちくらいの年だと、きっと、子供の事や家のローンなんて現実的なことに頭を悩ませていることだろう。
だけど、俺はいまだに独身だし、家ももちろん借家だ。
こんな俺は、世間から言わせればただの負け犬なのかもしれない。
でも、俺はどうしても夢を諦めきれない。
 俺の描いた漫画が雑誌に載り、それを読んだ人たちが感動したり、笑ったりしてくれることを思ったら、とてもじゃないけど、描くことをやめられないんだ。
そのことを馬鹿にされなかったばかりか、誠司も俺と同じように夢を追いかけていたなんて…



(俺達、二人共ネバーランドの住人なんだな…)

 嬉しくなって、俺は思わず微笑んでしまった。



 「……どうかしたのか?」

 「いや、なんでもない。あ、これ、うちの住所と電話番号な。」

 「ありがとう、じゃあ、俺も…」



 俺達は、自宅の住所と電話番号を交換した。
 意外にも俺達は、けっこう近くに住んでいた。



 「それと…これ、やるよ。」

 俺は無事に見つかったテレホンカードを誠司に手渡した。



 「え?なんで?」

 「これのお陰で、お前に会えたんだ。
だから…おまえに持っててほしいんだ。
これでまた連絡してくれよな。」

 「ありがとうな。」



 俺達は、また近々会う約束をした。
その時は、お互いの描いた絵を見せる約束も…



(二人共、夢を叶えられたら最高だな!)



 漫画を描く意欲がさらに大きく膨らみ、最高の気分で家路に就いた。
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