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蠍座の女

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「え……」



 見慣れない格好のお母さんに、私は言葉を失った。



 「やっぱり、変かな?」

 「変じゃないけど…
何なの?パーティかなにかあるの?
そんな服、持ってたっけ?
それにそのコート…」

 母は、真っ赤なスーツの上にふさふさとした毛皮のコートを羽織り、派手な化粧をして立っていた。



 「今日からちょっと働こうと思ってね。
 昔の知り合いに借りたのよ。どう、似合ってる?」

お母さんは、照れくさそうに笑った。



 「え…ま、まぁ確かに似合ってるけど…
働くって、まさか…お水?」

 「うん、私…資格とか何も持ってないから。」

 「で、でも…大丈夫なの?お水なんて、お母さんに出来るの?」

お母さんは小さく頷いた。



 「これでも、若い頃、しばらく働いたことがあるのよ。」



 (あ……)



そういえば、ちらっと聞いたことがある。
お母さんがまだ若い頃、おじいちゃんが誰かに騙されたことがあるって話。
その時、お母さんやおばあちゃんにものすごく迷惑をかけたって、おじいちゃんは今でもお酒を飲むと涙をこぼす。
きっと、その時じゃないかって思った。



 「でも…最近はずっと専業主婦だったじゃない。
 本当に大丈夫なの?」

 「うん、大丈夫よ。
こんなおばさんでも、雇ってくれるお店があるし、蠍座って、打たれ強いから。
じゃあ、そろそろ出かけるわね。」

 「う、うん…」



お母さんの後ろ姿をみつめながら、私は複雑な想いを感じてた。



 三か月前…お父さんが倒れた。
お父さんは、いつの間にか病魔に冒されていた。
 一家の大黒柱が倒れ、しかも、入院費がかさむ。
 家のローンの支払いだってあるし、貯金なんてすぐに底をつくと思う。
だから、お母さんは働くことを決心したんだ。



いつものお母さんは、髪をまとめ、エプロンをかけて、薄い色の口紅をほんのちょっとさすだけで…地味で存在感のないイメージしかなかった。
だけど、さっきのお母さんはまるで別人みたいだった。
 道端に咲く雑草だと思ってたら、実は大輪の薔薇だったんだ。
そのことが、私にはとても衝撃的だった。



お父さんは知ってるんだろうか?
お母さんのもう一つの顔を…



妖艶なお母さんの顔が、頭から離れない。
お母さんがどこか遠くに行ってしまいそうで…
心細さに、私は震えた。

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