上 下
90 / 401
ラッキーアイテム

しおりを挟む
「あぁぁ…やっぱり降って来た…」

ぽつりぽつりと雨粒を落とし始めた曇り空を、不機嫌な顔で見上げながら、静香が愚痴る。



 「しゃあないやん。お天気は僕らにはどうしようもあれへんやん。」

 「秋でもないのになんでこんなに雨ばっかりなん。
 全く夏の感じせえへんやん。」

 「そしたら、今が秋やて思たらええやん。
 秋雨や、秋雨!」

 「ええ加減なこと言わんといて!」

 静香はすっかりご機嫌ななめだ。



 連休を利用しての東京旅行。
 昨日も着いた途端に雨。
しとしとと降り続く雨に、静香はすっかり機嫌を壊し…
テーマパークにいる間中、彼女の笑顔は見られなかった。
 今日は、曇りとはいえようやく雨がやんだと思ってたら、また降って来て…
そして、また静香のご機嫌は悪くなった。



 「大丈夫、大丈夫。
そのうちきっとやみよるわ。」

 「昨日もそんなこと言うてたけど、結局やまへんかったやんか。」

 「今日は大丈夫やって。」

なんとか静香の機嫌を直す方法はないものか…
そう思ってたら、ある看板が目に入った。



 「ほおずき市やて。行ってみような。」

 「ほおずきてなんやの?」

 「え?確かオレンジの袋みたいなんに丸い玉が入ってるやつやろ。」

 「なんやて?全然わかれへん。」

 「ええから言ってみよて。」



 僕は、静香の手を引っ張って、ほおずき市へ向かった。



 「わぁ…これがほおずきか~…」

 所狭しと並べられたほおずきに、静香の表情がぱっと輝いた。
 静香は、植物が好きだから、きっと気に入ると思ってた。



 「私、ほおずき見たん初めてやわ。」

 「そうなんや。可愛いな。」

 「色が綺麗やなぁ…」

 静香の表情はどんどん柔らかなものに変わって行った。



 「わ、すごい!これ、実がいっぱいついてる!
 総ちゃん、これ買うて帰ろ。」

 「え…荷物にならへんか?」

 「ええやん。このくらい持てるって。大丈夫、大丈夫!」

ま、いいか、これで静香の機嫌が直るなら…そう思って、静香に言われるまま、僕はほおずきの鉢植えを買った。



 「ええわぁ…これ、部屋に飾ったら、絶対可愛いわ!
なんか今日はええ日やったみたいやし、この色見てたら金運も上がりそうやわ。」

 静香の機嫌はすっかり直った。
それと同時に小雨もあがり、雲の隙間から太陽が顔をのぞかせた。

 金運はどうかわからないけど、確かにほおずきのおかげで静香の機嫌は直ったし、もしかしたら、ほおずきは本当にラッキーアイテムなのかもしれない。
 少なくとも僕にとってはラッキーアイテムだ。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】家庭菜園士の強野菜無双!俺の野菜は激強い、魔王も勇者もチート野菜で一捻り!

鏑木 うりこ
ファンタジー
 幸田と向田はトラックにドン☆されて異世界転生した。 勇者チートハーレムモノのラノベが好きな幸田は勇者に、まったりスローライフモノのラノベが好きな向田には……「家庭菜園士」が女神様より授けられた! 「家庭菜園だけかよーー!」  元向田、現タトは叫ぶがまあ念願のスローライフは叶いそうである?  大変!第2回次世代ファンタジーカップのタグをつけたはずなのに、ついてないぞ……。あまりに衝撃すぎて倒れた……(;´Д`)もうだめだー

ショートショートのお茶漬け

rara33
現代文学
お茶漬けのようにサラサラと気軽に楽しめるような、基本5分以内で読めるショートショート集です。 原則一話完結ですが、次章に続く場合はその旨を章タイトルに明記します。 お好きな章からお気軽に読んでいただければ、本当に嬉しいです(^^) どうぞよろしくお願い申し上げます。 (追記) 毎日1話更新の予定です。 ※他の投稿サイトにて本人名義で投稿した拙作を、適宜アレンジしたものです。 ※小説家になろう様でも連載中ですが、アルファポリス様掲載分は、女性の読者様向けの作品をメインに投稿させていただくつもりです。

メルレールの英雄-クオン編-前編

朱璃 翼
ファンタジー
月神を失って3000年ーー魂は巡り蘇る。 失われた月神の魂は再び戻り、世界の危機に覚醒するだろう。 バルスデ王国の最年少騎士団長クオン・メイ・シリウスはある日、不思議な夢を見るようになる。次第に夢は苦しめる存在となりーーーー。 ※ノベルアップ+、小説家になろう、カクヨム同時掲載。

天は百万分の二物しか与えなかった

木mori
ファンタジー
あらゆる分野に取柄のない中学三年生の川添鰯司には、たった二つだけ優れた能力があった。幼馴染の天才お嬢様二条院湖線と超努力秀才の小暮光葉は勉学・体育で常に1、2位を争っていたが、このふたりには決定的な弱点があり、それを無自覚に補完する鰯司が必要不可欠な存在であった。湖線と光葉にはとんでもない秘密があり、それは・・・。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。

来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。

克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。

処理中です...