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ラッキーアイテム

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「あぁぁ…やっぱり降って来た…」

ぽつりぽつりと雨粒を落とし始めた曇り空を、不機嫌な顔で見上げながら、静香が愚痴る。



 「しゃあないやん。お天気は僕らにはどうしようもあれへんやん。」

 「秋でもないのになんでこんなに雨ばっかりなん。
 全く夏の感じせえへんやん。」

 「そしたら、今が秋やて思たらええやん。
 秋雨や、秋雨!」

 「ええ加減なこと言わんといて!」

 静香はすっかりご機嫌ななめだ。



 連休を利用しての東京旅行。
 昨日も着いた途端に雨。
しとしとと降り続く雨に、静香はすっかり機嫌を壊し…
テーマパークにいる間中、彼女の笑顔は見られなかった。
 今日は、曇りとはいえようやく雨がやんだと思ってたら、また降って来て…
そして、また静香のご機嫌は悪くなった。



 「大丈夫、大丈夫。
そのうちきっとやみよるわ。」

 「昨日もそんなこと言うてたけど、結局やまへんかったやんか。」

 「今日は大丈夫やって。」

なんとか静香の機嫌を直す方法はないものか…
そう思ってたら、ある看板が目に入った。



 「ほおずき市やて。行ってみような。」

 「ほおずきてなんやの?」

 「え?確かオレンジの袋みたいなんに丸い玉が入ってるやつやろ。」

 「なんやて?全然わかれへん。」

 「ええから言ってみよて。」



 僕は、静香の手を引っ張って、ほおずき市へ向かった。



 「わぁ…これがほおずきか~…」

 所狭しと並べられたほおずきに、静香の表情がぱっと輝いた。
 静香は、植物が好きだから、きっと気に入ると思ってた。



 「私、ほおずき見たん初めてやわ。」

 「そうなんや。可愛いな。」

 「色が綺麗やなぁ…」

 静香の表情はどんどん柔らかなものに変わって行った。



 「わ、すごい!これ、実がいっぱいついてる!
 総ちゃん、これ買うて帰ろ。」

 「え…荷物にならへんか?」

 「ええやん。このくらい持てるって。大丈夫、大丈夫!」

ま、いいか、これで静香の機嫌が直るなら…そう思って、静香に言われるまま、僕はほおずきの鉢植えを買った。



 「ええわぁ…これ、部屋に飾ったら、絶対可愛いわ!
なんか今日はええ日やったみたいやし、この色見てたら金運も上がりそうやわ。」

 静香の機嫌はすっかり直った。
それと同時に小雨もあがり、雲の隙間から太陽が顔をのぞかせた。

 金運はどうかわからないけど、確かにほおずきのおかげで静香の機嫌は直ったし、もしかしたら、ほおずきは本当にラッキーアイテムなのかもしれない。
 少なくとも僕にとってはラッキーアイテムだ。

 
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