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ボタン
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(うわぁ……)
竹林を抜けた先…そこには雑草や木が好き放題に広がっていた。
中学を卒業すると同時に、俺はこの村を離れた。
近くにあった縫製工場が潰れ、両親の職がなくなったからだ。
元々小さな集落だったけど、昔はそれなりに人も住んでて、子供の頃の俺はとても良い所だと思ってた。
何もないと言えば何もない。
だけど、自然に溢れたこの村は、子供の俺にはけっこう楽しい場所だった。
今のこの光景を目の当たりにしても、俺には当時の風景が鮮明に思い出せる。
あそこには風車小屋があって…
あっちは岡垣のばあちゃんの大根畑…
そして、あの木の傍には、犬小屋があった。
茶色の大きな犬が怖くて、俺はそこを通るのが苦手だったっけ。
明日は20年ぶりの中学の同窓会だ。
だから、俺はこの地へ戻って来た。
そして、つい、懐かしくなって、この村を見に来た。
ここはすでに廃村となり、もう何もないことはわかっていたのに…
さぁ、帰ろう…そう思った時、俺は意外な人物と出会った。
「え……さとみ……?」
「こ、浩平…?」
それは、幼馴染のさとみだった。
さとみも俺と同じく、中学卒業と共にこの村を離れた。
子供の頃からまるで兄弟のように育ったが、中学に入ってからなんとなく疎遠になった。
それは、思春期という魔物のせいだったのかもしれない。
俺達が同じ村に住んでるということで、同級生から冷やかされた。
ただ、それだけのことなのに、俺達はよそよそしくなり、引っ越して行く時にも、お互い、さよならの挨拶さえ交わさなかった。
「ひ、久しぶり。
もしかして、明日…行くのか?」
「う、うん…浩平も行くのね?」
「まぁな…」
年甲斐もなく照れてしまい、俺はそっぽを向いた。
さとみはあの頃と違って、とても女らしくなっててドキドキしてしまった。
20年も経てば変わるのも当然なのに。
「元気にしてたのか?」
「うん…まぁね。浩平は?」
「俺もまぁそれなりに…」
他愛ない会話が途切れ、沈黙が流れる。
「なにもかもなくなってるよな。」
沈黙が辛くて、目の前に広がる雑草を見ながら、俺はそう言った。
「そ、そうだね。でも、私…当時のこと、まだしっかり覚えてるよ。」
「俺も…!」
そこから、昔話に花が咲き…
ぎこちなかった会話が、途切れなくなった。
俺達は、子供の頃のように笑い、懐かしい話をお互いに話し合った。
時の過ぎるのも忘れるくらい、夢中になって…
「すいぶん暗くなってきたな。
そろそろ帰るか。」
「そうだね。」
二人で薄暗い竹林を並んで歩く…
あたりが静かなせいか、先程の盛り上がりが嘘のようにふたりとも押し黙っていた。
「……浩平…私、あんたに隠してたことがあるんだ。」
「えっ!?」
不意にそんなことを言われ、俺は目を丸くした。
さとみは、小さく肩を震わせる。
「隠してたことって…」
「ボタン…」
「ボタン…?」
「ボタンって聞いて、何か思い出さない?」
「ボタン…?」
そう言われても、俺には何も思い出すことはなかった。
「やっぱり、忘れてるか…」
そう言ってさとみは意味ありげに笑った。
「何なんだよ、教えてくれよ。」
「私、必死で探して…まだ持ってるんだ。」
さとみはぼんやりと竹林をみつめる。
探す…?
探すってボタンを…?
そう思った時…俺の脳裏にひらめくものがあった。
そうだ…あの時…
卒業式のあの日…
俺は、この竹林で学生服のボタンを引きちぎって捨てた…
第二ボタンを…
そのボタンは、本当はさとみにもらってほしかった。
だけど、当時の俺はさとみと話すことさえ出来ず、そんな悶々とした気持ちが爆発して、俺は衝動的にボタンを引きちぎって捨てたんだ。
「ま、まさか…ボタンって…学生服の…」
さとみはゆっくりと頷いた。
「で、でも…なんで、おまえ、そのことを…」
「たまたま見ちゃったから。」
「そうだったのか…」
なんだか気まずい…照れくさい…
「ねぇ…なんであの時、ボタンを捨てたの?」
「そ、それは……」
「好きな子に…振られた?」
「そうじゃない!あれは…!」
今更、あんな昔のことを言ってどうなるっていうんだ?
さとみにとっても迷惑なことじゃないか。
(あ……)
だけど、さとみは今でもボタンを持ってるって言った。
それって、もしかして…
いやいや、それは自惚れだ。
「そうじゃなくて、何なの?」
どうしよう?
本当のことを話した方が良いのか、それとも…
竹林の中を歩きながら、俺は熱くなった顔をさとみから逸らし、どうしたものかと途方に暮れた。
竹林を抜けた先…そこには雑草や木が好き放題に広がっていた。
中学を卒業すると同時に、俺はこの村を離れた。
近くにあった縫製工場が潰れ、両親の職がなくなったからだ。
元々小さな集落だったけど、昔はそれなりに人も住んでて、子供の頃の俺はとても良い所だと思ってた。
何もないと言えば何もない。
だけど、自然に溢れたこの村は、子供の俺にはけっこう楽しい場所だった。
今のこの光景を目の当たりにしても、俺には当時の風景が鮮明に思い出せる。
あそこには風車小屋があって…
あっちは岡垣のばあちゃんの大根畑…
そして、あの木の傍には、犬小屋があった。
茶色の大きな犬が怖くて、俺はそこを通るのが苦手だったっけ。
明日は20年ぶりの中学の同窓会だ。
だから、俺はこの地へ戻って来た。
そして、つい、懐かしくなって、この村を見に来た。
ここはすでに廃村となり、もう何もないことはわかっていたのに…
さぁ、帰ろう…そう思った時、俺は意外な人物と出会った。
「え……さとみ……?」
「こ、浩平…?」
それは、幼馴染のさとみだった。
さとみも俺と同じく、中学卒業と共にこの村を離れた。
子供の頃からまるで兄弟のように育ったが、中学に入ってからなんとなく疎遠になった。
それは、思春期という魔物のせいだったのかもしれない。
俺達が同じ村に住んでるということで、同級生から冷やかされた。
ただ、それだけのことなのに、俺達はよそよそしくなり、引っ越して行く時にも、お互い、さよならの挨拶さえ交わさなかった。
「ひ、久しぶり。
もしかして、明日…行くのか?」
「う、うん…浩平も行くのね?」
「まぁな…」
年甲斐もなく照れてしまい、俺はそっぽを向いた。
さとみはあの頃と違って、とても女らしくなっててドキドキしてしまった。
20年も経てば変わるのも当然なのに。
「元気にしてたのか?」
「うん…まぁね。浩平は?」
「俺もまぁそれなりに…」
他愛ない会話が途切れ、沈黙が流れる。
「なにもかもなくなってるよな。」
沈黙が辛くて、目の前に広がる雑草を見ながら、俺はそう言った。
「そ、そうだね。でも、私…当時のこと、まだしっかり覚えてるよ。」
「俺も…!」
そこから、昔話に花が咲き…
ぎこちなかった会話が、途切れなくなった。
俺達は、子供の頃のように笑い、懐かしい話をお互いに話し合った。
時の過ぎるのも忘れるくらい、夢中になって…
「すいぶん暗くなってきたな。
そろそろ帰るか。」
「そうだね。」
二人で薄暗い竹林を並んで歩く…
あたりが静かなせいか、先程の盛り上がりが嘘のようにふたりとも押し黙っていた。
「……浩平…私、あんたに隠してたことがあるんだ。」
「えっ!?」
不意にそんなことを言われ、俺は目を丸くした。
さとみは、小さく肩を震わせる。
「隠してたことって…」
「ボタン…」
「ボタン…?」
「ボタンって聞いて、何か思い出さない?」
「ボタン…?」
そう言われても、俺には何も思い出すことはなかった。
「やっぱり、忘れてるか…」
そう言ってさとみは意味ありげに笑った。
「何なんだよ、教えてくれよ。」
「私、必死で探して…まだ持ってるんだ。」
さとみはぼんやりと竹林をみつめる。
探す…?
探すってボタンを…?
そう思った時…俺の脳裏にひらめくものがあった。
そうだ…あの時…
卒業式のあの日…
俺は、この竹林で学生服のボタンを引きちぎって捨てた…
第二ボタンを…
そのボタンは、本当はさとみにもらってほしかった。
だけど、当時の俺はさとみと話すことさえ出来ず、そんな悶々とした気持ちが爆発して、俺は衝動的にボタンを引きちぎって捨てたんだ。
「ま、まさか…ボタンって…学生服の…」
さとみはゆっくりと頷いた。
「で、でも…なんで、おまえ、そのことを…」
「たまたま見ちゃったから。」
「そうだったのか…」
なんだか気まずい…照れくさい…
「ねぇ…なんであの時、ボタンを捨てたの?」
「そ、それは……」
「好きな子に…振られた?」
「そうじゃない!あれは…!」
今更、あんな昔のことを言ってどうなるっていうんだ?
さとみにとっても迷惑なことじゃないか。
(あ……)
だけど、さとみは今でもボタンを持ってるって言った。
それって、もしかして…
いやいや、それは自惚れだ。
「そうじゃなくて、何なの?」
どうしよう?
本当のことを話した方が良いのか、それとも…
竹林の中を歩きながら、俺は熱くなった顔をさとみから逸らし、どうしたものかと途方に暮れた。
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