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昼下がりの小さな池で

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『あなたは気楽で良いわね。』

 蛙がふと視線を上げると、そこには大きな羽を広げた天使がいました。



 『俺は蛙だからな。
 悩んでる蛙なんて、おかしいだろ?』

 蛙は驚いた様子もなく、返事を返します。



 『確かにそうね。
でも、薄汚れた都会のこんな狭い池で、良くそんな機嫌の良い歌が歌えるものね。』

 『俺はここで生まれて育った。
ここのことしか知らないからな。』

 『田舎の池はもっと広くて、水だって澄みきってるわ。
 空も広くて、空気も美味しいのよ。
あなた…田舎に行ってみたいって思ったことはないの?』

 『さっきも言った通り、俺はここしか知らないからな。
それに、そんなこと思ったところで、田舎になんて行けないだろう?
うかつにここを出たら、どんな目に遭うかわからない。』

 『確かに、そのとおりね…』

 天使は、小さく肩をすくめました。



 『そんなことより、その人間…大丈夫なのか?』

 天使の傍らには、生気のない青年がいました。
 木の根元に座り込んで、ぼんやりとした目で池をみつめていました。



 『そうなの…彼もこの薄汚れた都会の犠牲者ね。』

 『あんた、ずいぶんとここが嫌いなんだな。』

 『ええ、嫌いよ。
こんな所にいたら、人間はどんどん傷ついたり弱っていくから。』



 『……そうとも限らないんじゃないか?
 元気な人間だってたくさんいるぜ。』

 『あなた…ここから出ない割には、人間のこと、良くわかるのね。』

 『適当なこと、言ってるだけさ。』

 蛙はまた元気な声で歌い始めました。
 天使は、沈んだ顔の人間の隣にそっと腰掛けました。
 人間は、蛙の声に耳を傾けることもなく、相変わらず虚ろな表情を浮かべています。
 天使はそんな人間の横顔をみつめながら、小さな溜め息を吐きました。
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