9 / 401
枝垂れの梅
1
しおりを挟む
冬の散歩は寒いからあまり楽しくない。
でも、当のプリンは寒さなんて感じてないみたいにウキウキしてる。
今日は買いたい本があったから、いつもとは少し違う道にやって来た。
慣れてない道だというのに、プリンは少しも気にしてないようだ。
曲がり角に差し掛かった時、不意に一台の車が飛び出してきた。
「あっ!」
慌てて身を引いた時、私の手からリードが離れた。
「あっ!だめよ!プリン!」
驚いたプリンは、リードをずるずると引きずりながら、近くのお屋敷の中に飛び込んだ。
「す、すみません!うちの犬が扉の隙間からお宅の庭に入ってしまって。」
インターフォンに向かって私は叫んだ。
「ワンちゃんが?ちょっと待って下さいね。」
しばらくすると、品の良いご婦人が出て来られた。
「プリン!どこなの!?」
庭を見渡したけど、プリンはいなかった。
「裏庭の方かもしれませんね。」
そう言って、ご婦人は私を裏庭に連れて行って下さった。
「わぁぁ……」
母屋から回り込み、裏庭に入った途端、見事な枝垂れ梅に目を奪われた。
ちょうど時期なのか、鮮やかなピンク色の花を咲かせている。
何本もの枝垂れの梅は、寒さを忘れさせてくれた。
まるで、そこだけ春が来たようだ。
「プリン!」
プリンは枝垂れ梅の下に座る旦那さんの膝に抱かれていた。
旦那さんは、梅を見上げながらにこにこされていた。
「やっぱりこっちだったんですね。」
「す、すみません!犬がご迷惑をおかけして…」
「迷惑なことなんて、なにもありませんよ。
このわんちゃんも、もしかしたら梅の香りに誘われたのかもしれませんね。」
そう言って、旦那さんはプリンの頭を優しく撫でて下さった。
「本当に良い香りですね。
それにすごく綺麗。
私、こんなに立派な梅、見たことがありません。」
「この梅の木は、私達の子供みたいなものなんですよ。」
奥様は愛しそうに梅の木を見上げられた。
そうだろう…私は園芸のことなんて全然わからないけど、きっと、念入りに手入れをされてるから、こんなに立派な梅に育ったんだと思う。
プリンのおかげで、思いがけず一足早い春を感じられた。
穏やかな時間に、心の中もピンク色に染まった。
でも、当のプリンは寒さなんて感じてないみたいにウキウキしてる。
今日は買いたい本があったから、いつもとは少し違う道にやって来た。
慣れてない道だというのに、プリンは少しも気にしてないようだ。
曲がり角に差し掛かった時、不意に一台の車が飛び出してきた。
「あっ!」
慌てて身を引いた時、私の手からリードが離れた。
「あっ!だめよ!プリン!」
驚いたプリンは、リードをずるずると引きずりながら、近くのお屋敷の中に飛び込んだ。
「す、すみません!うちの犬が扉の隙間からお宅の庭に入ってしまって。」
インターフォンに向かって私は叫んだ。
「ワンちゃんが?ちょっと待って下さいね。」
しばらくすると、品の良いご婦人が出て来られた。
「プリン!どこなの!?」
庭を見渡したけど、プリンはいなかった。
「裏庭の方かもしれませんね。」
そう言って、ご婦人は私を裏庭に連れて行って下さった。
「わぁぁ……」
母屋から回り込み、裏庭に入った途端、見事な枝垂れ梅に目を奪われた。
ちょうど時期なのか、鮮やかなピンク色の花を咲かせている。
何本もの枝垂れの梅は、寒さを忘れさせてくれた。
まるで、そこだけ春が来たようだ。
「プリン!」
プリンは枝垂れ梅の下に座る旦那さんの膝に抱かれていた。
旦那さんは、梅を見上げながらにこにこされていた。
「やっぱりこっちだったんですね。」
「す、すみません!犬がご迷惑をおかけして…」
「迷惑なことなんて、なにもありませんよ。
このわんちゃんも、もしかしたら梅の香りに誘われたのかもしれませんね。」
そう言って、旦那さんはプリンの頭を優しく撫でて下さった。
「本当に良い香りですね。
それにすごく綺麗。
私、こんなに立派な梅、見たことがありません。」
「この梅の木は、私達の子供みたいなものなんですよ。」
奥様は愛しそうに梅の木を見上げられた。
そうだろう…私は園芸のことなんて全然わからないけど、きっと、念入りに手入れをされてるから、こんなに立派な梅に育ったんだと思う。
プリンのおかげで、思いがけず一足早い春を感じられた。
穏やかな時間に、心の中もピンク色に染まった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
氷の貴婦人
羊
恋愛
ソフィは幸せな結婚を目の前に控えていた。弾んでいた心を打ち砕かれたのは、結婚相手のアトレーと姉がベッドに居る姿を見た時だった。
呆然としたまま結婚式の日を迎え、その日から彼女の心は壊れていく。
感情が麻痺してしまい、すべてがかすみ越しの出来事に思える。そして、あんなに好きだったアトレーを見ると吐き気をもよおすようになった。
毒の強めなお話で、大人向けテイストです。
来訪神に転生させてもらえました。石長姫には不老長寿、宇迦之御魂神には豊穣を授かりました。
克全
ファンタジー
ほのぼのスローライフを目指します。賽銭泥棒を取り押さえようとした氏子の田中一郎は、事もあろうに神域である境内の、それも神殿前で殺されてしまった。情けなく申し訳なく思った氏神様は、田中一郎を異世界に転生させて第二の人生を生きられるようにした。
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました
mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。
なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。
不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇
感想、ご指摘もありがとうございます。
なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。
読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。
お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。
迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜
青空ばらみ
ファンタジー
一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。
小説家になろう様でも投稿をしております。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です
sai
ファンタジー
公爵令嬢であるオレリア・アールグレーンは魔力が多く魔法が得意な者が多い公爵家に産まれたが、魔法が一切使えなかった。
そんな中婚約者である第二王子に婚約破棄をされた衝撃で、前世で公爵家を興した伝説の魔法使いだったということを思い出す。
冤罪で国外追放になったけど、もしかしてこれだけ魔法が使えれば楽勝じゃない?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる