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scene 9

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「!!…俺はインギーなんて名前じゃない。トレルだ」

感情を押し殺すように、低くつぶやいた。

すると、アズラエルは「おや?」という表情をする。

器はあの最低なインギーのものだが、魂が変わるだけで随分と雰囲気がかわるのだと思ったのだ。


彼の顔に悪戯な笑みが浮かぶ。


「トレル…それがお前の本当の名前か。ふふ…ではこういう遊びをしないか、トレル。私は今とても暇を持て余している。動けないお前と2人きりで、とても退屈をしているんだ。もしお前が私を楽しませてくれる話をすることができたら、お前の望みを1つだけ聞いてやろう。どうだ?」

「契約か?」

「契約じゃない、退屈しのぎの遊びだ」

「………」


傍にいる悪魔が何を考えているのか分からず、トレルは黙り込む。


どうせ気紛れな悪魔の戯言なのだろう。

契約以外の約束を守るとは、たくさんの悪魔を見てきたトレルには到底思えなかった。

「どうした、自信がないのか?せっかく口をきけるようにしてやったのに…」


アズラエルはトレルの唇を、軽く指で撫でる。


「だったら永遠に言葉を失ってしまうか?」

どうする…聞かれてトレルは小さく唇を噛みしめた。

例え悪魔の気紛れだとしても、これ以上悪くなる事はない。

トレルはしばらく考えた後、

「…いいだろう。とっておきの話をしてやる。お前はこの話を聞けば、絶対にそうしたくなるさ」

いい案が浮かんだのか、ゆるく笑う。

「大した自信だな。では、その話とやらを聞かせてもらおうか」



 *


ふわり。

暖かいものが、頬に触れた。

《起きなさい・・・起きるのです・・・オルジェ》

柔らかな声に呼びかけられ、眠っていたオルジェはゆっくりと目を開けた。

《いつまでここにいるのです?》

青く長い髪を揺らめかせた赤い瞳の女性が、目を覚ました彼に優しく微笑みかける。


「あんた・・・誰?ここは、どこ?」


オルジェは横たえていた体を起こすと、辺りをぼんやりと見回した。

《ここは意識の世界》

「?」

《あなたはもう随分と長いこと、体から意識を切り離され、この世界で眠りつづけていたのです》

「意識の世界…?言ってる意味が分からないんだけど」

オルジェは女性の話に、怪訝な顔で首を傾げる。 
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