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scene 9

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 「それにしても・・・」

アズラエルは寝たきりのインギーの全身を上から下まで舐めるように見つめ、退屈そうな声を出した。

「ただ横たわっている人間の世話をするというのも退屈なものだな…」

ふむ、と顎に手を当て、灰色の瞳を細める。

見た目はあのくだらない人種の人間だが、今この体に入っている魂は別の人間もの。

猫の姿の時に話した限りでは、まぁ『まとも』な部類の人間のようだった。

話し相手くらいにはなるだろうか?

アズラエルはニヤリと笑うと、気紛れにインギーの口と耳に冷たい指先で触れた。


(………?)


視力と聴覚を失い、静寂と暗闇にいるトレルにはアズラエルが何をしているのか分からない。

傷口でも癒してくれているのだろうか。

まぁ彼が何をしているにしろ、痛みで動く事も話すこともできないので、じっとしているしかできないのだが・・・。


・・・と、突然、トレルの耳に外の鮮明な音が聞こえてきた。


(何だ?)


今まで耳に詰められていた詰め物をいっきに取り除かれ、クリアになったような感覚。

戸惑っていると、

「よう、インギー。私の声が聞こえるか?」

男の声が飛び込んできた。


(この声は・・・アズラエル!?)


聞き覚えのある声に、トレルは小さく頷いてみせる。

すると、クスクスと笑う気配。

「声を出してみろ。出るか?」

アズラエルに言われ、トレルは恐る恐る言葉を発してみる。

「あ・・・あ・・・!!」

(何で今まで出なかった声が出るんだ?しかも音も聞き取ることが出来るなんて…)


急激な体の変化に、トレルは戸惑った。


「あ……どうなって…」

「どうだ、話せるようになった気分は?」

「これは…俺の声じゃ、ない」

「当然だろ?お前の魂を猫から抜き取って、死にかけの器に移してやったんだから…お前の望み通りにな」

「なっ…俺をあの男の体に移しただと…どういうつもりだ、この悪魔め…」

その言葉にアズラエルは、ふんと短く鼻を鳴らした。

「お前が死にかけているインギーを助けろといったから、助けてやったまでだ。しかもこの私がつきっきりで人間ごときを看病してやったんだ。感謝されても、罵られる覚えはないな。耳が聞こえて話せるようになった・・・それだけでもありがたく思えよ。なぁ、インギー」 
 
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