上 下
125 / 277
回想

24

しおりを挟む
「私はアリシア…よろしくね。」

 「よ、よろしく……」

 小さな女の子を前にして、私は緊張しながらその手を握りしめた。
 久しぶりに感じた人の温もりに、私の胸はいっぱいになっていた。



 「ねぇ、あなたの名前は……」



 「アリシア様ーーー!
アリシア様ーーーー!」



その時、数人の声が聞こえて来て、アリシアは声の方に向かって叫んだ。



 「私はここです!」



 私はその場から逃げた。
 逃げる理由など何もないのに、人が来ると思ったら、今までの習慣でつい反射的に私は逃げていたのだ。



そのことから、私の心境に大きな変化があった。
 悪事をやめ、まっとうに生きることを決意した。



 黒かった髪を銀色に、瞳の色を灰色に変え、今まではあまり行かなかった都会へと向かった。
 意外なことに、都会では魔導士は疎んじられる存在ではなかった。
 人々に尊敬される存在だったのだ。
 私はある魔導士の助手のような仕事に就き、そこでたくさんの本を読み、論理面での魔導の勉強もさせてもらった。
 子供達に勉強を教えたり、魔導の力を人々のために使った。



そのうちに、城就きの魔導士として働いてみないかと推挙された。
 当日は、百人を超える魔導士が集まっていた。
 私のように若い魔導士は他にはいなかったが、その中から城就きの魔導士として抜擢された。



 数日後、国王陛下ご夫妻と拝謁する機会が設けられた。
その時、私は我が目を疑った。
なぜならば、そこには国王陛下ご夫妻と一緒に、あのアリシアがいたのだから。
 当時よりずいぶん大きくなり大人びていたが、私は彼女があの小さかったアリシアだと一目でわかった。
でも、まさか彼女が王女だったとは、夢にも思わなかった。



あの日以来、彼女はずっと私の心の中にいた。
だが、私はあの場所からずいぶんと遠い所まで来ており、「アリシア」という名前しか知らないあの少女と、また再会出来るなんて、考えてもいなかった。



 「こちらが、先日、選ばれました魔導士のアルフレッドにございます。
まだ年は若いですが、大変優れた魔導の力の持ち主です。」

 「そうか、アルフレッド…
この国のため、国民のため、良く働いてくれ。」

 「ははっ!」



アリシアは、私のことをわかっていないようだった。
そのことには落胆したが、当時は少年だった私もアリシア同様とても変わっている。
 身長もずいぶん伸び、髪や瞳の色も変わっているのだ。
わからないのも無理はない。



でも、いつか気付いてくれるかもしれない。
そしたら、私は話そうと思った。
アリシアのおかげで、人生をやり直すことが出来たことを。
 彼女の存在が、私をずっと支えていてくれたことを…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側室は…私に子ができない場合のみだったのでは?

ヘロディア
恋愛
王子の妻である主人公。夫を誰よりも深く愛していた。子供もできて円満な家庭だったが、ある日王子は側室を持ちたいと言い出し…

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

側妃を迎えたいと言ったので、了承したら溺愛されました

ひとみん
恋愛
タイトル変更しました!旧「国王陛下の長い一日」です。書いているうちに、何かあわないな・・・と。 内容そのまんまのタイトルです(笑 「側妃を迎えたいと思うのだが」国王が言った。 「了承しました。では今この時から夫婦関係は終了という事でいいですね?」王妃が言った。 「え?」困惑する国王に彼女は一言。「結婚の条件に書いていますわよ」と誓約書を見せる。 其処には確かに書いていた。王妃が恋人を作る事も了承すると。 そして今更ながら国王は気付く。王妃を愛していると。 困惑する王妃の心を射止めるために頑張るヘタレ国王のお話しです。 ご都合主義のゆるゆる設定です。

【完結】処刑された王太子妃はなぜか王太子と出会う前に戻っていた

hikari
恋愛
マドレーヌは無実の罪を着せられ、処刑された。王太子は浮気をしていたのだ。 そして、目が覚めると王太子と出会う前に戻っていた……。 王太子と出会ったのはある日の舞踏会。その日からマドレーヌは他の男性と踊る事を決める。 舞踏会にはたまたま隣国のジェーム王子もいた。 そして、隣国の王子ジェームスはマドレーヌに惹かれていく……。 ※ざまぁの回には★印があります。 令和4年4月9日19時22分完結

婚約者の座は譲って差し上げます、お幸せに

四季
恋愛
婚約者が見知らぬ女性と寄り添い合って歩いているところを目撃してしまった。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

【完結】わたしはお飾りの妻らしい。  〜16歳で継母になりました〜

たろ
恋愛
結婚して半年。 わたしはこの家には必要がない。 政略結婚。 愛は何処にもない。 要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。 お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。 とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。 そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。 旦那様には愛する人がいる。 わたしはお飾りの妻。 せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。

処理中です...