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回想

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 「アルフレッド、出かけるよ!」

 次の朝、まだ薄暗いうちに、私は母親に叩き起こされた。



 「どこに行くの?」

 母親は何も答えなかった。
 仕方なく、私はただ黙って母親の後をついて歩いた。



 母親は、私の方を振り返ることもなく、どんどんと山の方へ歩いて行った。
 私は息を切らせながら、母に追いつこうと懸命についていった。



 「お、お母さん…す、少し休ませて…」



 休むことなく、慣れない山道を歩き続けたせいで、私すっかり疲れ果て…ついに、言いたくてもずっと我慢していた言葉を発した。
 母親は私の方を振り返り、黙って近くの木の根元に腰を下ろした。
 私もその横に座った。



 「アルフレッド…私はあの村の出身なんだ。」

 「え?」

 「お客の来た時だけ宿屋の下働きをしていた。
 滅多に泊まる客のいない小さな宿屋でね。
そこに、あんたの父さんが来たんだ。
 確か、狩りの帰りだとか言ってたね。」

 母は、まるで独り言のようにそんなことを話し始めた。



 「私は、あんたの父さんに見初められ…やがて、結婚することになった。
 貴族様の嫁になるんだよ。
 私は平民で、しかも、こんな貧しい村の出身で、両親だってとうに亡くしてた。
そんな私が貴族様の嫁になんてなれるわけないって…きっと、冗談だって思ったんだ。
でも、そうじゃなかった。
 私はライナス様の養女になることになり、ライナス様の娘として、あんたの父さんと結婚した。
 内心では、あの人の両親は反対だったと思うけど、ライナス家の娘という肩書がある以上、反対は出来なかったんだろうね。
 私は無作法だったから、ライナス様のところでいろんな作法も学んだよ。
 偽物とはいえ、貴族の娘らしく見えるように私は必死で頑張って…」

そこまで言うと、母は感極まった様子で泣き崩れた。
その時の私には、母の悲しみがまだよくわかっていなかった。
よくわからないながらも、母をこんなに悲しませているのは私だと…そのことだけは漠然と感じていた。

 
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