あれこれ短編集

タイトル未定

９

＊＊＊




 「まだ北へ行かれるのですか？」

 「そうだよ。何か文句ある？」

 「……いえ。」



 北を目指す僕の旅は、いつの間にか、一年を過ぎていた。
その間、出会いらしい出会いは一度もない。
アンドリューたちが、あの占い師はインチキだとかなんとか言う。
 僕だって、心の底では実はそう思ってたけど、そんなことを言われると妙に意地になってしまって、殊更に『北』にこだわってしまった。
もう地図にも載ってない程、北に来てしまったんだけど、もはや引っ込みがつかない状態だ。



 「北へ行くには、この山を越すしかありませんが…」

 「そう、それならそうしよう。」



この一年の間に、山を越えたことは何度もある。
 野宿したり、体調を崩したり、いろんなことがあった。
だから、僕にもそれなりの体力は着いたという自信はあった。



だけど、登ってしばらくしてから、なぜアンドリューがそんなことを言ったのか、理解した。
その山は、今までに登ったどの山よりも険しかったんだ。
それならそう言ってくれたら良いのに…
でも、もはやそんなことを言っても仕方がない。
 登るしかないんだ。



 夜になり、僕は尿意を催して目が覚め、少し離れた場所へ移動した。
その時だった。



 「あ…あ、あぁーーーー！」



 暗闇の中で道を踏み外し、僕は悲鳴と共に落下していった。