あれこれ短編集

ハーフハートチョコレート

３

＊



（思った通りだ…）

家に帰った俺は、着替えもせずにさっきの包みを開けた。
そこに入っていたのは、ハーフハートのチョコレートだった。
ハート型のチョコレートを真ん中で半分に切った形跡がある。
しかも、表面にはなにやら見たこともないような文字が赤い色で綴られている。
恋愛成就のまじないか何かだろうか？
そんなことも綾奈らしくて可愛いと思えた。
ただ、おかしなことに、当然入っているだろうと思っていたメッセージカードが見当たらない。
入れ忘れたのか、それとも、もしかしたら、あの男が抜き取ったのか？

そんなことを考えながら、俺は、チョコレートを眺め透かして楽しんだ後に、それを口に運んだ。



（うまい…！）

甘過ぎず、苦過ぎず、口の中に入れるとすぐに溶ける滑らかさ…
これはけっこう良い材料を使ってあるのではないか？
いや、綾奈の料理の腕なのか？
そういえば、彼女の趣味もまだ聞いたことはなかったが、お菓子作りが似合いそうなタイプだ。
そんなことをあれこれ考えながら、気が付くと、俺はいつの間にかチョコレートを食べきっていた。
カロリーのことが少し気にはなったが、今日は酒を飲んでいないからこのくらい大丈夫だろう。

その晩は、少し若返ったようなウキウキとした気分でベッドに入った。
そう、まるで少年の頃のような気分を感じていたのだ。
これもすべては、あのチョコレートのおかげだ。



（ありがとう…綾奈…）