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十字架の楽園

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「ここまで来れば大丈夫だろう。
さ、入って。」

「ここは…?」

「ここは俺の祖母が住んでた家なんだ。
祖母が死んでからは空き家になってる。」

小さな家だったが、ジョシュアのアパートとは比べ物にならない。
生活に必要な物も、たいていは揃っているようだ。



「リチャード、灯かりはないの?早く傷の手当てをしないと…」

「あぁ、このくらい大丈夫だ。
ランプはあるが油がどうかな…」

部屋の中は薄暗いが、目を凝らせばだいたいのものは見える。



「そんなことより、そのまま俺を抱き締めてておくれ。」

「リチャード…こう?」

私は、リチャードの身体をそっと抱き締めた。



「あぁ、そうだ。
とても幸せな気分だよ。
リリィ…俺、前からあんたのことが好きだったんだ。」

「えっ!」

「このままここで一緒に暮らさないか?」

「で…でも、ジョシュアが…」

「やっぱりそうか…あいつは、兄なんかじゃなくてあんたの男だったんだな…」

「そうじゃないわ。
ジョシュアは私の兄さんよ。
だから、勝手にそんなことをしたら心配すると思うの…」

「何、馬鹿なこと言ってるんだ!
あんな奴と一緒にいたら、あんたいつかあいつに殺されるぞ!
あんた、いつも暴力を受けてるんだろ?
そんな奴と一緒にいてどうするんだ。
子供だっていつかは親から離れて自立する。
いつまでも、兄にくっついてるなんておかしいぞ。
それに、あんたと離れた方があいつだってしっかりするかもしれない。
今のあいつは収入もあんたに頼りきってるんだろ?
でも、あんたがいなくなったら、あいつも昼間っから酒を飲んだりなんてしちゃいられない。
しっかり働くようになるんじゃないか?」

「じゃあ…私が一緒にいたからジョシュアはあんな風になってしまったってことなの?」

「まぁ、そういう部分もあるだろうな。
あいつはあんたに甘えてるんだよ。」

ショックだった。
ジョシュアのためと思ってたことが本当は良くないことだったなんて、私は考えもしなかった。
私は15年間、なにも考えてこなかったからこんなことになったんだ…
すべて私が悪かったんだと思うと、涙がこぼれた。
悲しい時に涙が出る事は知っていたけど、そのことはそんなに悲しいことなのか?
三年程前にアンダーソン博士が死んだ時も涙は出なかったのに…
他の二人の博士も悲しんではいたけど、泣いてはいなかったからきっとそれはそんなに悲しいことではないのだと思ってた。
人間は生まれて来た以上、誰だって死ぬのだもの。
そんな当たり前のことに泣くのはおかしいと当時は思ってた。
泣くのはきっともっと悲しい時なんだ…そう感じていたのだけど、それなら今はアンダーソン博士の死よりも悲しいことなのか…
私にはその涙の意味がわからなかったけど、心の中が悲しさでいっぱいになってることだけはわかった。 
 
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