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幸せな男
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僕はある日、路地裏でしゃがみこんでいる彼女をみかけた。
「大丈夫…ですか?」
「え……あ……ええ。
大丈夫です。
ちょっと、立ちくらみがしただけですから。」
僕に向けられたその顔は美しいけれど青白く、その声も細く弱々しいもので、とても放っておけないような気がして……
僕は、咄嗟に手を伸ばしていた。
それが縁で、僕とオルガは少しずつ親しくなっていった。
オルガは生まれつき身体が丈夫でなく、そのために仕事がなかなか続かないと寂しそうに笑った。
今は母親と二人で暮らしているのだと言うので、両親が離婚でもしたのかと思えばそうではなく…
オルガがまだ幼い頃に起きた火事が原因で、彼女の父親と妹が亡くなったのだということだった。
その晩、オルガが高熱を出し、いつもならそういう時には父親が診療所に走るのだけれど、その日はたまたま風邪をひいていたこともあって母親が夫のことを気遣い、何も言わずにオルガを連れて行ったのだという。
隣の家から出た火は、すぐにオルガの家に燃え移った。
そして、オルガの父親と妹の命を奪った。
夫のために良かれと思ってしたことで、結果的に夫が命を落としたことを、オルガの母親は自分のせいだと思い込んだ。
毎日、自分を責め続け、その十字架の重さから逃れるように酒に溺れ…ついにはオルガの世話も出来ないような状態になった。
オルガは施設に引き取られ、それからしばらくしてオルガの母は行方をくらまし、その後、母親の消息はようとして知れないのだという。
オルガは、やがて、子供のない夫婦に引き取られた。
夫婦はオルガのことを、深い愛情を持って育てた。
だが、そんな義父は数年前になくなり、今、オルガは義母と一緒に暮らしているのだということだった。
彼女の話を聞いて、僕は思った。
オルガもまた僕と同じ「不幸な人間」なのだと。
だからこそ、僕はオルガにひかれたのかもしれない。
けれど、オルガは僕と大きく違っているところがあった。
不幸な人間であることを気付かされて以来、そのことを受け入れて来た僕とは違い、彼女は自分のことを全く不幸だと考えてはいなかった。
「大丈夫…ですか?」
「え……あ……ええ。
大丈夫です。
ちょっと、立ちくらみがしただけですから。」
僕に向けられたその顔は美しいけれど青白く、その声も細く弱々しいもので、とても放っておけないような気がして……
僕は、咄嗟に手を伸ばしていた。
それが縁で、僕とオルガは少しずつ親しくなっていった。
オルガは生まれつき身体が丈夫でなく、そのために仕事がなかなか続かないと寂しそうに笑った。
今は母親と二人で暮らしているのだと言うので、両親が離婚でもしたのかと思えばそうではなく…
オルガがまだ幼い頃に起きた火事が原因で、彼女の父親と妹が亡くなったのだということだった。
その晩、オルガが高熱を出し、いつもならそういう時には父親が診療所に走るのだけれど、その日はたまたま風邪をひいていたこともあって母親が夫のことを気遣い、何も言わずにオルガを連れて行ったのだという。
隣の家から出た火は、すぐにオルガの家に燃え移った。
そして、オルガの父親と妹の命を奪った。
夫のために良かれと思ってしたことで、結果的に夫が命を落としたことを、オルガの母親は自分のせいだと思い込んだ。
毎日、自分を責め続け、その十字架の重さから逃れるように酒に溺れ…ついにはオルガの世話も出来ないような状態になった。
オルガは施設に引き取られ、それからしばらくしてオルガの母は行方をくらまし、その後、母親の消息はようとして知れないのだという。
オルガは、やがて、子供のない夫婦に引き取られた。
夫婦はオルガのことを、深い愛情を持って育てた。
だが、そんな義父は数年前になくなり、今、オルガは義母と一緒に暮らしているのだということだった。
彼女の話を聞いて、僕は思った。
オルガもまた僕と同じ「不幸な人間」なのだと。
だからこそ、僕はオルガにひかれたのかもしれない。
けれど、オルガは僕と大きく違っているところがあった。
不幸な人間であることを気付かされて以来、そのことを受け入れて来た僕とは違い、彼女は自分のことを全く不幸だと考えてはいなかった。
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