上 下
51 / 188

51

しおりを挟む
「そういえば、あんた、家族はいないって言ってたが...」

「え?あ、は、はい。」

そうだ、確か、以前、訊かれたことがあって、家族はいないって答えたんだよ。



「あんたの親ならまだ若いだろうに、どうしたんだ?」

「え、ええっと...じ、事故です。
ば、馬車の事故で。」

咄嗟のことに、下手な嘘をついた。



「そうか、それは気の毒なことだな。
兄弟もいなかったのか?」

「は、はい、一人っ子でした。」

セバスチャンは、黙って頷く。



「頼れる親戚や友達はいないのか?」

「は、はい。残念ながら。」

「そうか...俺にもう少し力があれば助けてやれたんだが...」

「い、いえ、セバスチャンさんにはとてもお世話になり、感謝しています。」

それは事実だ。
セバスチャンが匿ってくれなかったら、今、どうなってたかわからない。
彼のおかげで追っ手からも逃げられたし、旅費も手に入った。
本当に、感謝してるよ。



「感謝してるのはこっちの方だ。
あんたは本当に良い人だ。
こんな俺を当たり前に扱ってくれた。」

「え......」

そんな事言わないで。
私、心の底ではセバスチャンのこと、気持ち悪いと思ってる。
もしかしたら、彼を利用してるだけなのかもしれないのに。
良い人はセバスチャンの方だよ。



あまりに申し訳なくて、私は何も言うことが出来なかった。
しおりを挟む

処理中です...