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復讐の連鎖
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「こ…これは…!!」
トレルは呆然とその場に立ち尽くす…
トレルの目の前にあるはずのものはなく、ただ地面に黒くすすけた建物の跡らしきものが残っているだけだった。
「どうしたんだ、トレル!」
「教会が…教会がなくなっちまってる…!」
「教会が?」
「そうだ。ここにあった教会が…」
トレルのその言葉をきっかけに、三人の脳裏にはある不吉な想像が思い浮かんでいた。
「……まさか、トレル……
ここも…!」
ランディの顔から血の気が失われていることは、薄暗くなっていても感じられる程だった。
「誰かに話を聞いて来る。」
「だけど、あんた、その姿じゃ怪しまれるんじゃないのか?
あれから二十年近く経ってるんだぜ。」
「そんなことを言ってる場合じゃ…」
「あんたはどこかで待っててくれよ。
そうだな…さっきのオルジェの家で待っててくれ。
俺とアズラエルで話を聞いて来る。」
トレルは、何か言いかげに開いた口を閉じ、素直に頷いた。
「じゃあ、頼んだぞ。
この道をまっすぐに行くと、ほら、何軒か家があるだろう?
あのあたりが一番家が多い場所なんだ。
そこらできっと話が聞ける筈だ。
そこをさらにずっと進むと、町のはずれにレクターって男がいるはずだ。
そいつも町の情報には詳しい男だ。」
「わかった。
じゃあ、後でな。」
二人は民家を目指し、トレルは今来た道を後返る。
ランディに指摘されるまですっかり忘れていた若すぎる自分の姿のことを考えると、トレルは急に不安を感じ、身を縮めるようにして全速力でオルジェの家まで走り抜けた。
*
(あの時のままだ……)
オルジェの家には鍵さえかかってはおらず、湿り気を含んだ空気と積もった埃だけが過ぎ去った長い時の流れを感じさせた。
トレルは、愛しさを込めた眼差しで、ゆっくりと部屋の中を見回した。
(何も変わってはいない…
ここも…俺も、何ひとつ変わっちゃいないのに…
なのに、皆、いなくなった…
オルジェ、ケイト、イアン、アリア…エルスール…!)
暗い部屋の片隅で、トレルは一筋の涙を流した。
トレルは呆然とその場に立ち尽くす…
トレルの目の前にあるはずのものはなく、ただ地面に黒くすすけた建物の跡らしきものが残っているだけだった。
「どうしたんだ、トレル!」
「教会が…教会がなくなっちまってる…!」
「教会が?」
「そうだ。ここにあった教会が…」
トレルのその言葉をきっかけに、三人の脳裏にはある不吉な想像が思い浮かんでいた。
「……まさか、トレル……
ここも…!」
ランディの顔から血の気が失われていることは、薄暗くなっていても感じられる程だった。
「誰かに話を聞いて来る。」
「だけど、あんた、その姿じゃ怪しまれるんじゃないのか?
あれから二十年近く経ってるんだぜ。」
「そんなことを言ってる場合じゃ…」
「あんたはどこかで待っててくれよ。
そうだな…さっきのオルジェの家で待っててくれ。
俺とアズラエルで話を聞いて来る。」
トレルは、何か言いかげに開いた口を閉じ、素直に頷いた。
「じゃあ、頼んだぞ。
この道をまっすぐに行くと、ほら、何軒か家があるだろう?
あのあたりが一番家が多い場所なんだ。
そこらできっと話が聞ける筈だ。
そこをさらにずっと進むと、町のはずれにレクターって男がいるはずだ。
そいつも町の情報には詳しい男だ。」
「わかった。
じゃあ、後でな。」
二人は民家を目指し、トレルは今来た道を後返る。
ランディに指摘されるまですっかり忘れていた若すぎる自分の姿のことを考えると、トレルは急に不安を感じ、身を縮めるようにして全速力でオルジェの家まで走り抜けた。
*
(あの時のままだ……)
オルジェの家には鍵さえかかってはおらず、湿り気を含んだ空気と積もった埃だけが過ぎ去った長い時の流れを感じさせた。
トレルは、愛しさを込めた眼差しで、ゆっくりと部屋の中を見回した。
(何も変わってはいない…
ここも…俺も、何ひとつ変わっちゃいないのに…
なのに、皆、いなくなった…
オルジェ、ケイト、イアン、アリア…エルスール…!)
暗い部屋の片隅で、トレルは一筋の涙を流した。
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