深淵に眠る十字架 The second

策略

６

二人は、いつしかお互いの家を行き来するようになっていた。
そんなある日のこと…



「ベルナール、ちょっと良いかね？」

「はい、なんでしょう、ボーランジェ様。」

「少し歩かないか？」

シャルロットが、ほんの少し席を外した時に、ベルナールはボーランジェに声をかけられた。
二人は広大なボーランジェ家の庭の中をゆったりと歩く。



「ベルナール、あの子は…シャルロットは初心な娘でな…
だから、あの子とのつきあいはこのくらいでやめてもらえないだろうか？」

「どういうことです？」

「君があの子のことを本気で愛していないことはわかっている。
どういうつもりなのかはわからんが、私はあの子が傷付くのを見たくないのだ。」

「侯爵様…そういうことでしたらご心配は無用です。
私は、シャルロット様と今以上の仲になるつもりはありません。
私はただ、シャルロット様とたまにお話をしたりお食事をするだけで満足なのですから。」

ボーランジェは、一瞬目を大きく見開き、ベルナールの顔をじっとみつめた。



「やはり娘のことは本気ではない…そういうことか…」

「そうではありません。
私は、正直言うとシャルロット様のことを…とても愛しています。
しかし…それ以上のことを望んではおりません。」

「シャルロットを愛している？
それなのに結婚するつもりはないというのか？
一体、どういうことだ？」

「どうか理由はお尋ねにならないで下さい。
先程も言いました通り、私は今以上のことを望んではいません。
ただ…シャルロット様と、一緒にいられるだけで幸せなのです…
それが良くない事だということもわかってはいますが…私は、その気持ちが抑え切れない…
申し訳ありません…」

そう言うとベルナールは頭を下げ、ボーランジェの元を足早に去って行った。



「お父様、ベルナールを見なかった？」

「彼は…急用が出来て屋敷へ戻った。」

「急用が？どうしたのかしら？」

シャルロットは、残念そうな表情で部屋へ戻った。
ボーランジェも、ベルナールの言葉をどう理解すれば良いのかわからず、頭を抱えた。