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傷だらけの掌
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俺は、早速、仕事の斡旋を受け、その後は裏通りの酒場にしけこんだ。
きっと、ラナは宿屋を探すだろうから、今夜一晩酒場にいて、明日の朝早く仕事に出掛ければみつかることはない筈だ。
この町で請け負ったのは、やはり魔物討伐の仕事だった。
ただ人間を襲うためだけに造られた醜悪な魔物は、怒りと憎しみの感情しか持たない。
怖れを知らない魔物は人間を見れば、誰彼構わず襲いかかって来る危険極まりない生物だ。
町の皆でなんとか魔物達を山へ追い込み、魔導師の結界で封じ込めているとのことだったが、そのせいで山に入る事が出来なくなり、最近は結界の力が弱まったのか、魔物の力が強まったのかは不明だが、ちらほらと里へ降りて来る奴らが出始めているという。
この国では魔導師は元々数が少ない上に、戦争でさらにまたその数が減った。
さらに、魔物のお陰でこういう依頼が増えたこともあり、結界を張るのに法外な金を要求する者が増えるのは仕方のない話だ。
各町では、その金を再三捻出することも難しいために、俺達のような剣士を雇うのだ。
今回は、他にライアンとモーリスという二人の剣士と一緒に働くことになっており、俺は二人を酒場に誘った。
ライアンは俺より年上に見える熟練の剣士といった風の男で、モーリスはまだ二十歳そこそこに見える。
モーリスは兵隊あがりで、ライアンは俺と同じような傭兵だった。
今、こんな仕事をしているのは、たいていがそういう素性の者達だ。
昔はつきあい程度にしか飲まなかった酒も、いつの間にか浴びる程飲んでも酔わなくなった。
ライアンは、あまり酒は強くないと言っていたが、それは本当のことだったらしく、すでに瞼が塞がっている。
時間的にももう眠くなってもおかしくない時刻なのだが…
「父さん!」
その時、酒場には不似合いな高い子供の声が上がった。
ふと見ると、俺の方に向かって手を振りながら近寄って来るのはラナだった。
「ラナ!」
「こんな所にいたんだね。
あんまり遅いから、探しに来たんだよ。」
そう言うと、ラナは俺の隣にちょこんと座った。
「あんたの娘か?」
「いや、ち…」
「そうだよ!あたい、ラナって言うんだ。
よろしくね。」
置き去りしてきた事への引け目もあり、俺の言葉を遮って愛想良く微笑むラナに俺は何も言えなかった。
きっと、ラナは宿屋を探すだろうから、今夜一晩酒場にいて、明日の朝早く仕事に出掛ければみつかることはない筈だ。
この町で請け負ったのは、やはり魔物討伐の仕事だった。
ただ人間を襲うためだけに造られた醜悪な魔物は、怒りと憎しみの感情しか持たない。
怖れを知らない魔物は人間を見れば、誰彼構わず襲いかかって来る危険極まりない生物だ。
町の皆でなんとか魔物達を山へ追い込み、魔導師の結界で封じ込めているとのことだったが、そのせいで山に入る事が出来なくなり、最近は結界の力が弱まったのか、魔物の力が強まったのかは不明だが、ちらほらと里へ降りて来る奴らが出始めているという。
この国では魔導師は元々数が少ない上に、戦争でさらにまたその数が減った。
さらに、魔物のお陰でこういう依頼が増えたこともあり、結界を張るのに法外な金を要求する者が増えるのは仕方のない話だ。
各町では、その金を再三捻出することも難しいために、俺達のような剣士を雇うのだ。
今回は、他にライアンとモーリスという二人の剣士と一緒に働くことになっており、俺は二人を酒場に誘った。
ライアンは俺より年上に見える熟練の剣士といった風の男で、モーリスはまだ二十歳そこそこに見える。
モーリスは兵隊あがりで、ライアンは俺と同じような傭兵だった。
今、こんな仕事をしているのは、たいていがそういう素性の者達だ。
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ライアンは、あまり酒は強くないと言っていたが、それは本当のことだったらしく、すでに瞼が塞がっている。
時間的にももう眠くなってもおかしくない時刻なのだが…
「父さん!」
その時、酒場には不似合いな高い子供の声が上がった。
ふと見ると、俺の方に向かって手を振りながら近寄って来るのはラナだった。
「ラナ!」
「こんな所にいたんだね。
あんまり遅いから、探しに来たんだよ。」
そう言うと、ラナは俺の隣にちょこんと座った。
「あんたの娘か?」
「いや、ち…」
「そうだよ!あたい、ラナって言うんだ。
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