会社を辞めたい人へ贈る話

大野晴

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7.出来ない出来ない

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「次、何呑みます?」
 グラスの酒が少なくなっている事を察し、僕は協力会社の社長に注文を聞く。


 今日も飲み会だ。そこには的当課長と僕と社長がいる。

 この社長は有限会社オタスケシステム開発という零細企業の社長さんで、どうやら的当課長と同じ学校を出た友達らしいのだ。

 これはなんて事のない接待の様なものだった。


 2017年8月。

「辞太郎くん。良い案件がある検討してくれ」
 適当課長から渡されたのは、既に他社によって作られていた仕様書。

「えっはい・・・」

 この時の僕はそれなりの知識を蓄えていて、これがすぐにベータポリス商会の製品だけが入札に参加できる仕様書である事が分かりました。普通に読み取れば分かるはずの参加不可能な案件を、どうしてそれを私に差し出してくるのか、何か意図があるはず。

「課長・・・これ、ベータポリス商会の製品じゃないと入札参加出来ません」

「えっ?そうなの?」

 適当課長は製品の知識すらありませんでした。

「じゃあ、もうひとつあるよ」
 そう言って渡された仕様書もまた、ベータポリスの仕様書でした。アルファポリ商会の必須システムでは足りない部分がいくつもあります。

「いやこれも・・・」

「辞太郎くん。出来ない、出来ないって言うけど、外部購入品を含めてカスタムすれば仕様書を満たす事は出来るかもしれない。頑張って」

 などと適当な事を言う課長ですが、あながち間違いではありませんでした。あくまで例えばの話ですが警察がパトカーを欲しいと言ったときに、普通の車をパトカー用に塗装して、パトライトを購入して取り付けて作っても、仕様を満たしていれば基本は問題がないのです。

 僕は適当課長が数字に貪欲である事は見習わなければならないと思い、ベータポリス商会の必須システムに追いつくためにあの手この手のシステムの組み合わせを考え、計算しました。

 入札参加出来るまでのシステムは理論上可能でしたが・・・

「適当課長。ベータポリスの製品においつく構成を作りましたが、金額がかさみ、とても勝負できるものでは・・・」

 そう。いわばパッケージ製品に対してこちらはカスタムメイド。自ずと金額が跳ね上がります。

「それなら、工賃を下げれば良い」

「工賃・・・」


 僕たちの販売するシステム代金の内訳はシステム自体の金額とシステムを収めるための設定設置作業が関わってきます。
 モノを売ると言うのは、イメージがつくと思いますが、人間の作業、技術に金がかかると言うのは僕も入社当初はイメージがつきませんでした。車の整備費を取られる事すら意味わからないと憤慨していた僕です。

「オタスケシステムに頼めば安くやってくれる」

 適当課長は言いました。


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