会社を辞めたい人へ贈る話

大野晴

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6.血迷う課長

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「うおーっ!」

 僕はわざとではなく、心から驚いている。何に驚いているかというと協力会社の社長のゴルフの飛距離に驚いている。

「辞太郎くんの番だよ」
 僕はボールと一緒に持ったピンを地面に差し込み、チャーシューメン、とクラブを振る。下手くそな僕の球は変なところに飛び、コロコロ転がって池に落ちた。


 2017年6月。


 入社3年目。この頃から僕は会社を辞めたくなっていた。残業が多いとかそんな理由じゃない。それは色々な原因がある。

 まずひとつ目。2016年3月に異動が発表され、僕に談合の事を教えてくれた課長がいなくなってしまった事。

 ふたつ目。新しく来た課長、的当(テキトウ)課長があまりにも適当な人間だった事。そこから1年間、的当課長時代の必須システム課の売上は低迷した。

「これから入札も積極的に行くことにする」
 的当課長がそう言う。ただ、前の課長(談合課長)は利益の残らない案件は取るなというタイプで、勝ち目のない試合にはいかない人だった。
 それに対し、数字に焦ったのか、的当課長は勝ち目の少ない試合でも入札の金額を下げて戦えと言い出した。

「とりあえず受注なければ売上も利益もない!」

 営業についてまわる数字。ノルマ。これはその営業を取りまとめる課・部の数字にも関わる。僕たちは必須システム課はまずは受注額を受注件数を増やそうと言い出した。

 営業でいう受注とは仕事を引き受けた時の数字。売上とは引き受けた仕事が完了した時の数字。粗利というのはその売上の金額から、かかった原価を単純に差し引きしたものだ。

 たしかに仕事を沢山取れば、受注額は増えるだろう。

 でも、入札というのは本来価格競争であり、受注出来たとしても低利益になる。本来原価40円の100円で売れるものも、入札の価格競争となれば50円で売らなければならない。

 的当課長はそもそも、入札が得意な人間ではない。

「入札はそんなに儲からないっスよ」

 先輩が僕の気持ちを代弁するかの様に意見する。

「まずは数字を取るんだ!」
 的当課長の目は血走っていた。

 見栄えの良い数字。ノルマは受注や売上にも設定されている。低利益だろうが仕事を取って、まずは数字を達成しよう。そういう事らしい。

(会社に残るのは利益なんじゃ・・・)

 例えば原価100円のものを110円で売りつけ、10円の粗利を出すなら、原価30円のものを50円で売りつけて20円の利益を出した方がマシだと思う僕。

 なぜなら、金額規模が大きくなればなる程、案件は大変になるからだ。


「見栄えって言いますけど、簡単じゃねーんすよ、入札って」
 またしても先輩が的当課長を諭す。しかし、そんな言葉など的当課長には響かない。

 いわば、的当課長は窮地なのだ。
 自分が異動して一年。結果を出せていない。結果を出していたはずのチームで。それはもちろん的当課長のせいだけではない。

 ただ、この昭和体質のアルファポリ商会はそんな事を望んでいない。


ー〝管理職の責任〟ー


 この一言に限られるのだ。だから的当課長は必死だった。



「利益を増やせばいい」と簡単に言うと的当課長。


 これが僕が初めて会社を辞めたくなった理由の大きな原因のひとつ。



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