上 下
30 / 50
第一章

第8話(1)バンド名再考

しおりを挟む
                  8

「おはようっす!」

「おはよう……」

「お、おはよう」

「おはようさん……」

 練習の為に、スタジオ入りした陽炎が声をかけると、既にスタジオに入っていた幻、刹那、三人が返事を返す。

「ん……?」

 陽炎がギターを置いてから気が付いて振り返る。三人は機材の準備をしている。

「……」

「カンビアッソは⁉」

「まだ来ていないな……」

「いやいや、そこはいの一番に来るところだし、そういうタイプだろう⁉」

「『わたくしたち、ミュズィックデレーヴの記念すべきスタジオ初練習の日ですわー!』とかなんとか言ってな……」

「そうそう!」

 陽炎が現の言葉に頷く。

「っていうか、今のモノマネ、結構似ているわね……」

 ドラムをセットしながら、幻が笑う。

「そうか?」

「ええ」

「なんだかんだ付き合いも長いからな……」

 現が顎をさする。刹那が反応する。

「そうなんだ……」

「ああ」

「大変だったね……」

「刹那、大変なことは確定しているのだな……」

「うん、それはもう分かっているつもりだから……」

 刹那が頷く。

「まあ、大分振り回されているからな……あのお嬢様には」

 現が腕を組む。陽炎が尋ねる。

「そういや、こないだもなんかあったんだって?」

「ルールもロクに分かっていない癖に、麻雀のプロに勝っていた……」

「はあっ⁉」

「あまりの強さにコンビ打ちを疑われ、店から出禁を食らいかけた……」

「それはまた……振り回されているわね……」

 幻が苦笑を浮かべる。

「大変だった……」

「まあ、そこら辺がいわゆる『おもしれー女』みたいなところではあるけれどね……」

「傍から見ればな……」

 幻の言葉に現も苦笑気味に答える。

「おもしれーのは否定しねえが……」

「なにかあるのか?」

 現が陽炎に尋ねる。

「バンド名だよ、勝手に決めるのはどうなんだ?」

「ああ、それはまあ確かにな……」

 現が頷く。

「ちょっとどうかと思うぜ?」

「では、考えてみたらどうだ?」

「え?」

「何か提案があれば、耳を傾けるくらいの器量はあるさ」

「う~ん……」

「まあ、それは別に後でもいいのだが……」

「いや、ちょっと待て! せっかくだから今考える!」

「ええ?」

「皆も考えようぜ!」

 陽炎が呼びかける。

「バンド名ね……」

「ふむ……」

 幻と刹那も考え始める。

「おいおい……まあ、ボーカルがまだ来ていないから自由時間みたいなものだが……」

 現が後頭部を抑える。それからやや間を置いて……。

「はい!」

 陽炎が右手を勢いよく挙げる。

「え、これ、挙手制だったのか……?」

 現が首を捻る。

「はい! はい!」

「しかも私が仕切りみたいな流れ……⁉」

 現が困惑する。

「はい! はい! はい!」

「あ~分かった、分かった、陽炎!」

 現が陽炎を指名する。

「はい! ……『サンシャインバーニング』!」

「却下」

「そ、即答! 早すぎじゃねえか⁉」

「陽炎を単純に英語に訳しただけだろう」

「ほう、そこに気が付くとは……なかなかやるじゃあねえか」

「厳密には『陽炎』の英訳は全然違うし、何故にお前個人を押し出したバンド名なんだ……」

「『~&フレンズ』とか付けても別に良いぜ?」

「いい、別に友達にはなりたくない」

「酷えな⁉」

「……はい」

「刹那」

 現が刹那を指名する。

「……『シャッテンウンドリヒト』」

「次……」

「ちょ、ちょっと待って、意味すら聞かないの⁉」

「それはドイツ語だろう? 何か中二病っぽいからな……」

「偏見が酷いな! ちゃんと意味があるから!」

「……意味は?」

 声を上げる刹那に現が尋ねる。

「『影と光』だよ」

「結構単純だな……」

「山陰山陽地方出身者であるということをアピールする為にね……」

「由来を説明するとき、何か恥ずかしいから却下だな」

「ええっ⁉ 今、この時代だからこそ、地元愛というものを押し出すべきだよ!」

「はい……」

「幻」

 現が幻を指名する。

「最近は文章みたいなバンド名が流行っているわよね?」

「前置きをしだした……そうだな」

「……『お嬢様がバンドを組んでみたらわりと良い音楽を奏でるのだが?』はどう?」

「長いな!」

「わりと良いって、謙遜しているところがポイントで……」

「ポイントとかどうでも良い! 大体なんだ、バンド名『のだが?』って!」

「最終的には略して『?』って呼ばれるの……」

「それならば文章にする意味が無いだろう!」

 現の声がスタジオ内に響く。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ

俊也
ライト文芸
実際の歴史では日本本土空襲・原爆投下・沖縄戦・特攻隊などと様々な悲劇と犠牲者を生んだ太平洋戦争(大東亜戦争) しかし、タイムスリップとかチート新兵器とか、そういう要素なしでもう少しその悲劇を防ぐか薄めるかして、尚且つある程度自主的に戦後の日本が変わっていく道はないか…アメリカ等連合国に対し「勝ちすぎず、程よく負けて和平する」ルートはあったのでは? そういう思いで書きました。 歴史時代小説大賞に参戦。 ご支援ありがとうございましたm(_ _)m また同時に「新訳 零戦戦記」も参戦しております。 こちらも宜しければお願い致します。 他の作品も お手隙の時にお気に入り登録、時々の閲覧いただければ幸いです。m(_ _)m

Strain:Cavity

Ak!La
キャラ文芸
 生まれつき右目のない青年、ルチアーノ。  家族から虐げられる生活を送っていた、そんなある日。薄ら笑いの月夜に、窓から謎の白い男が転がり込んできた。  ────それが、全てのはじまりだった。  Strain本編から30年前を舞台にしたスピンオフ、シリーズ4作目。  蛇たちと冥王の物語。  小説家になろうにて2023年1月より連載開始。不定期更新。 https://ncode.syosetu.com/n0074ib/

ハバナイスデイズ~きっと完璧には勝てない~

415
ファンタジー
「ゆりかごから墓場まで。この世にあるものなんでもござれの『岩戸屋』店主、平坂ナギヨシです。冷やかしですか?それとも……ご依頼でしょうか?」 普遍と異変が交差する混沌都市『露希』 。 何でも屋『岩戸屋』を構える三十路の男、平坂ナギヨシは、武市ケンスケ、ニィナと今日も奔走する。 死にたがりの男が織り成すドタバタバトルコメディ。素敵な日々が今始まる……かもしれない。

処理中です...