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第一章

第2話(4)アフターケア

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「……なんでこちらの大学に?」

 甘美と現は自分たちが通う大学とは別の大学に来ている。

「それは決まっている」

「え?」

「用事があるからだ」

「用事?」

 甘美が首を傾げる。

「ああ……」

「ん?」

 甘美が端末を取り出すと、現から女子学生の画像が送られてきた。

「確認したな?」

「ええ……」

「この子を探してきてくれ」

「何のために?」

「それは追々話す」

「ふむ……」

「頼むぞ……」

「いや、貴女も探しなさいな! そんなところに隠れていないで!」

 甘美が植え込みに身を隠す現を見ながら声を上げる。

「……そういう年頃なんだ」

「どういうお年頃ですか……」

「この大学全体に漂う、陽のオーラにはとても耐えられん……」

「なんですか、オーラって……」

「甘美、お前ならば大丈夫だ……」

「うちの大学は平気じゃありませんか」

「あれは慣れだ」

「慣れの問題なのですか?」

「とにかくその子を探してくれ」

「探してどうするのです?」

「この近くの喫茶店にでも誘い出してくれ」

「どうやって?」

「言葉巧みに」

「そんなこと言われても……」

「陽キャならば容易いことだろう?」

「陽キャをなんだと思っているのですか?」

「任せたぞ」

「任せられてもね……はあ、なんでこんなことを……」

 甘美は画像を見せながら、その辺の女子学生に片っ端から声をかけ、あっという間に目当ての女子学生の友人を見つけ、その女子学生を呼び出してもらうことに成功した。

「おおっ、凄いな」

 植え込みに隠れながら現が感心する。

「別に凄くありませんわ」

「探偵の素質があるぞ」

「ただ単に聞き込みをしただけですわ。誰でも出来ます」

「いやいやそんな謙遜することではない」

「まあ、貴女よりは確実にありそうですわね」

「なんでそうなる?」

 甘美は現の方に視線を向ける。

「植え込みに隠れているのがバレバレ……尾行ならば0点ですわ」

「わ、私は推理力で勝負するタイプだからな……」

「そこで妙な対抗意識を燃やさないで下さる?」

「この女子にたどり着いたのも私の推理力、洞察力があればこそだぞ」

「この女子がどこの誰なのかをそろそろ教えて下さる?」

 端末をかざしながら甘美が尋ねる。

「さっきの友人の話を聞いていただろう? 千秋さんだ」

「それは名前でしょう? どこの千秋さん?」

「それはまあいいじゃないか」

「圧倒的なまでの説明力不足……! やっぱり貴女、探偵には向いていませんわ」

「なんだと……」

「あ……」

 甘美の前にオシャレな恰好をした女子学生が現れる。女子学生が甘美に近づく。

「あの……」

「え、えっと……」

「今だ、言葉巧みに誘い出せ……!」

 現が甘美に声をかける。

「ど、どうやって?」

「そこは任せる」

「ま、任せるって……」

「用事があるって聞いたんですが……」

「あ~そ、そうです、こんにちは」

「こんにちは……」

「……」

「………」

「う、占いに興味はありませんか?」

「は、はい?」

 甘美の言葉に女子学生は露骨に戸惑う。現が声を上げる。

「そ、そんな怪しげな誘いがあるか⁉」

「だ、だって思い付かなかったのですもの!」

 甘美が現の方に視線を向けて、反発する。

「え、えっと……」

「し、失礼。あらためて名乗らせていただきます」

「は、はい……」

「わたくしは厳島甘美と申します」

「! 近くの女子大の?」

「ええ、ご存知でしょうか?」

「もちろんです! 私、厳島さんのバンドのファンで!」

「!」

「ライブも初期の頃から通わせてもらっています!」

「そ、そうですか……」

「それならば話は早い」

「うわっ⁉」

 いきなり自分の横に立ってきた現に、甘美は驚く。

「えっ⁉ 隠岐島現さん⁉ お二人がお揃いだなんて!」

 女子学生が信じられないと言った様子で、両手で口元を抑える。現が笑う。

「ははっ、どうやら驚かせてしまったようですね」

「こちらもね……」

 甘美が冷ややかな視線を向ける。

「甘美」

「何ですの?」

「今だ、誘え」

「あ、ああ……良ければ近くの喫茶店でお話でもしませんか?」

 甘美が女子学生に笑いかける。

「え、ええ、喜んで!」

 女子学生が頷く。三人は喫茶店に移動する。店の奥の席に座り、注文したものが届く。

「それでですね……」

「はい」

「失礼……」

「! zzz……」

 現が耳元で鈴を鳴らし、女子学生を眠らせる。甘美が驚く。

「! な、何を⁉」

「夢世界に行くぞ」

「‼」

 二人が女子学生の夢世界に入る。道が開けており、わりと明るい。現が腕を組んで頷く。

「ふむ、なるほどな……リアルが充実していると、もしくは悩み事が少ないと、夢世界も比較的明るく、障害物などもほとんどないと……」

「何を一人で納得しているのですか……何故この子の夢世界に? そもそもこの子は誰?」

「この子は田中千秋という……」

「! 田中?」

「ああ、田中教授の娘さんだ……」

「な、何故、娘さんの夢世界に?」

「教授の悩みの種が、娘さんにあると睨んだからだ」

「え⁉」

「いたぞ……」

「⁉」

 わりと小さい影があくせくと作業をしている。小さい影が話す。

「もうすぐパパの誕生日、そして教授になって十年目……うんとお祝いしなきゃ、その為にはアルバイトを頑張らなきゃ……いくつも掛け持ちするのは大変だけど……自分へのお小遣いにもなるしね……」

「こ、これは……」

「田中教授は娘さんの帰りが遅くなったり、身だしなみが少し派手になったことを『パパ活でもしているのではないか。どうも疑わしい……』と思っていた。しかし実態はこうだ」

「親子のコミュニケーション不足?」

「そうとも言うが、娘さんはサプライズ感を出したかったのだろう……さて……~~♪」

「ん⁉」

 現の演奏を聞いて小さい影は穏やかな眠りにつく。現が甘美に告げる。

「……戻るぞ」

 目覚めた三人は会話を楽しんだ。やがて田中千秋はその場を後にする。甘美が呟く。

「アフターケアってこういうことでしたのね……」

「ああ、誕生日が来たら、教授の娘さんへの疑いは晴れ、気持ちも完全に晴れやかになる」

「さりげなく教授のゼミ生だということも伝えられましたわ。娘さんからわたくしたちの良い評判を聞けば、教授のわたくしたちに対する印象も変わるでしょう。単位も取りやすくなるのではないかしら?」

「そこまではさすがに虫の良い話だと思うが……」

 現は苦笑いしながらコーヒーを口にする。
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