上 下
78 / 123
第二章

第19話(4) チャンネル登録よろしく哀愁

しおりを挟む
「直接佐渡へ向かおうかと思ったが、一応来てみて正解だったようだな……」

 御剣が甲板に刺さった刀を抜く。勇次が尋ねる。

「隊長、これはどういうことですか?」

「た、隊長⁉」

「まさか……」

 勇次の質問に黒髪の女の子は驚き、白髪の女の子は首を捻る。刀を鞘に納めた御剣は振り返って勇次を指し示す。

「そうだ、この男は鬼ヶ島勇次、数ヶ月前に入隊したばかりの新人隊員だ」

「よ、妖力を感じますけど⁉」

「当然だ、鬼の半妖だからな」

「は、半妖⁉」

「そうだ。両親や祖父母も至って普通の人間だが、血筋に関係なく妖力の高い半妖として生まれた男だ。そう珍しいことでは無い」

「聞いたことがあります。確率としては……百人に一人位だと」」

 白髪の女の子が冷静に呟く。御剣はあらためて勇次を指し示す。

「この男は“そう珍しくは無い半妖の中では結構珍しい種族の半妖”だ」

「や、ややこしいな!」

「いやあ~照れるな」

「全然照れるところじゃないでしょう……」

 黒髪の女の子の反応に勇次は鼻の頭をこする。愛が呆れる。御剣が愛を指し示す。

「彼女は曲江愛だ。神社の家系故に神力が高く、形代を使った術に長けている。貴重な治癒要員でもある。隊への入隊時期は……貴様らと近いな」

「そうなのですか……」

「あの……? 隊長、彼女たちは?」

 愛が御剣に問う。御剣が二人を指し示す。

「この二人も我が上杉山隊の隊員だ。見ての通り双子の姉妹で、黒い髪が姉の豊園寺哀(ほうえんじかなし)、白い髪が妹の豊園寺愁(ほうえんじうれい)だ」

「哀さんと愁さん……」

「覚えづらかったら『哀愁コンビ』とでも呼べばいい」

「うおい! 隊長! その雑なくくりやめて下さいよ!」

「……むしろ『哀愁ツインズ』です」

「いや、愁もそこは否定しろよ!」

 愁に対し、哀が突っ込みを入れる。愛が重ねて尋ねる。

「私と入隊時期が近いとのことですが……?」

「そうだな。正確な日時は忘れたが」

「全くの初対面なのですが……」

「この姉妹には、主に別働隊として動いてもらっていた」

「別働隊?」

「ああ、この佐渡を中心にな。知っているかもしれんが、転移鏡というのは、海を隔てると移動障害が発生する場合もある。そうなると、佐渡に緊急出動するのが難しい。よって、この姉妹に担当してもらっている。もちろん、他の地域に出動してもらうこともあるが」

「そうだったのですか……ですが、初対面という理由にはあまりならないような……」

「この姉妹は戦闘能力も高いが、より優れているのは諜報活動だ」

「諜報活動?」

「ああ、よって隊の中でもその存在は出来る限り秘密にしておきたかった……」

「なるほど、野球でいう『隠し球』ってやつですね!」

 勇次が手を打つ。御剣が一呼吸置いて話を続ける。

「何故野球で例えるか分からんが……いうならば『切り札』だな」

「……実際は?」

「ん?」

「実際のところはどうなのですか?」

 愛が目を細めながら尋ねる。御剣が言いづらそうに答える。

「……紹介するのをすっかり忘れていた」

「やっぱり……そんなことだろうと思った……」

「まあいいだろう。こうして会えたのだから」

「よくないです。交戦状態になったんですよ?」

「その辺はよい演習になったと前向きに捉えてくれ」

「前向き過ぎますよ……」

「っていうか、待って下さいよ、隊長!」

「どうした哀?」

「うちら別働隊だったんですか⁉」

「言ってなかったか?」

「初耳ですよ!」

 哀が声を上げる。愁が淡々と呟く。

「道理で……活動範囲も狭く、隊長との交信も頻繁ではなかった点が気になってはいたのですが……そういうことでしたか。納得がいきました」

「納得するなよ、愁!」

「……まだお前らは若い。体力的な問題もあるから、そこまで大変な任務は任せたくなかったのだ。その分、諜報活動という面では大いによくやってくれている。そのことについては感謝している」

「勿体ないお言葉です……ありがとうございます」

「なんか言いくるめられているような……」

「哀……」

 首を傾げる哀に対し、愁が鋭い視線を送る。哀が頭を下げる。

「はいはい! お褒めにあずかり光栄です!」

「諜報活動というのはどんなことを?」

「ここではなんだ、もうすぐフェリーが着く。哀たちが使っている隊舎で話そう」

 御剣の言葉に愛が頷く。フェリーが佐渡ヶ島に到着後、狭世にある隊舎に移動する。

「……改めまして、我が隊舎にようこそいらっしゃいました」

 愁が丁寧に頭を下げる。

「俺らの隊舎より小さいな……痛っ⁉」

「余計なことは言わない……」

 勇次の足を愛がぎゅっと踏む。愁が尋ねる。

「どうかなさいましたか?」

「いえ、なんでもありません。隊長、それでお二人の具体的な活動なのですが……」

「諜報活動がメインだが……他はよく知らんな」

「は?」

「二人の自主性を重んじている。よって、あれこれとうるさく指示は出していない」

「……面倒だからじゃないですか?」

「……そういう部分があることも若干否めないな」

「はあ……」

 御剣の返答に対し、愛が露骨にため息をつく。御剣が哀たちに話しかける。

「今回聞こうと思ったのだが……愁、普段はどのような活動を行っているのだ?」

「そうですね……妖絶士というのは言ってみれば日陰の存在ですよね?」

「まあ、言ってしまえばそうだな……」

「なので目立つようなことは極力避けています」

「良い心掛けだ。それで?」

「口で言うよりも見てもらった方が早いと思います。哀、準備を……少々お待ち下さい」

 二人は手際よく準備を進め、カメラに向かって話し出す。

「どうも~哀で~す!」

「愁です……」

「今日も生配信始めて行くよ~。おお! 武原さん、早速スパチャありがと~」

 愁がマイクに声が入らないように御剣たちに語りかける。

「暇な……もとい待機時間を有効活用しようとこのように配信などをしております」

「思いっきり目立っている⁉ チャンネル登録者数……百万人越え⁉」

 愛が愕然とする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

ハバナイスデイズ~きっと完璧には勝てない~

415
ファンタジー
「ゆりかごから墓場まで。この世にあるものなんでもござれの『岩戸屋』店主、平坂ナギヨシです。冷やかしですか?それとも……ご依頼でしょうか?」 普遍と異変が交差する混沌都市『露希』 。 何でも屋『岩戸屋』を構える三十路の男、平坂ナギヨシは、武市ケンスケ、ニィナと今日も奔走する。 死にたがりの男が織り成すドタバタバトルコメディ。素敵な日々が今始まる……かもしれない。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

Strain:Cavity

Ak!La
キャラ文芸
 生まれつき右目のない青年、ルチアーノ。  家族から虐げられる生活を送っていた、そんなある日。薄ら笑いの月夜に、窓から謎の白い男が転がり込んできた。  ────それが、全てのはじまりだった。  Strain本編から30年前を舞台にしたスピンオフ、シリーズ4作目。  蛇たちと冥王の物語。  小説家になろうにて2023年1月より連載開始。不定期更新。 https://ncode.syosetu.com/n0074ib/

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...