上 下
120 / 144
チャプター2

第23話(4)光風霽月

しおりを挟む
「よし、最初の攻勢は凌いだ! 今度はこちらが攻めるぞ!」

 小金谷が大声で檄を飛ばす。

「まあ、そう慌てなさんな……」

 志渡布の声が戦場に響き、大富岳から光の筋がいくつか伸びる。

「⁉ な、なんだ⁉」

「九尾の――一つは再生中やけど――力を分け与えたんや……」

「力を分け与えただと?」

「そう、それによって連中のポテンシャルは大いに引き出される。さっきよりも厄介やで?」

「街の北部にTPOグラッスィーズを確認!」

 土友から報告が入り、小金谷が驚く。

「い、いつの間にそんなところに⁉ 市内に入られるとマズいぞ!」

 住民の避難は完了しているとはいえ、京都の街は歴史と伝統のある街である。その街並みに被害が及ぶような戦い方は出来ない。街を抑えられると、小金谷たちも戦い方を練り直さなくてはならなくなる。志渡布が笑う。

「馬鹿正直に一方向から攻めると思うたか?」

「ちっ……土友! 現状は⁉」

「手薄な防衛ラインを突破されつつあります! ……ん? これは⁉」

 土友がモニターを見て驚く。

                  ♢

「……狙い通りだな、防衛が手薄だ」

「舞鶴からの部隊などをこちらにあてようとしたのだろうな」

 TPOシルバーに乗る銀の呟きにTPOゴールドに乗る金が応える。

「それらの部隊は各地で機妖の足止めにあっている……今の内に行くぞ」

「ああ、作戦第一目標をこなしつつ、並行して第二目標も進める……むっ⁉」

 金が驚く。蜜柑色の飛行機が自身の機上に一機のロボを乗せ、眼の前に現れたからである。

「ミカン、君の言った通りだったな! 北側から街を狙っていたぞ!」

「九つの光の筋の内、一つを分析した結果、この地点に降り注いでいたので!」

「流石は分析機能付きの『柑橘壱号』だ! 後は俺に任せろ!」

 大洋の乗る光が柑橘壱号から飛び降り、TPOグラッスィーズの前に立つ。

「……敵機のデータ分析完了……『越前ガラス工房』開発の『TPOグラッスィーズ』の『TPOシルバー』と『TPOゴールド』と確認! どちらも主な武装はライフルとブレードのみ! 光のスペックならば、落ち着いて戦えば後れを取ることはありません!」

「分析ありがとう! 他の地点も気になる! さっさと片付ける!」

 ミカンの報告に礼を言いながら、大洋は光に名刀光宗を構えさせる。銀と金が笑う。

「さっさと片付けるだと……」

「舐められたものだな!」

「ぐおっ⁉」

 TPOの二機が放ったライフルが正確に光の両肩部を撃ち抜く。ミカンが驚く。

「そ、そんな、精度も威力もデータ以上⁉ ど、どうして……?」

「あの光を浴びたことにより、俺たちのポテンシャルは格段に跳ね上った!」

「なっ⁉」

「今の私たちを単純なスペックデータで判断しないことだ!」

「ぐうっ⁉」

 今度は光の両膝辺りが撃たれる。光が堪らず体勢を崩す。ミカンが声を上げる。

「は、疾風さん! 私が援護します!」

「君は離脱して、イヨカンとポンカンたちと合流しろ! 三機揃った運用が一番だ!」

「し、しかし!」

「早くするんだ!」

「……放っておいてもいいのだが、ウロチョロされると目ざわりだ!」

「どおあっ⁉」

 TPOシルバーが柑橘壱号に向けて放った射撃を光がその機体で防ぐ。

「は、疾風さん、どうしてそんな無茶を!」

「お、推しが撃墜されたら泣くからな……俺が、俺たちカントリっ子が連れていくんだ! カントリオ娘を武道館の舞台に!」

「は、疾風さん……!」

「何を訳の分からんことを! とどめだ! うおっ⁉」

 TPOゴールドがライフルを放とうとするが、横から飛んできたブーメランによって発射を妨害される。空中を舞ったブーメランを白い機体がパシッと受け取る。

「そうは問屋が卸さないってね~」

「ヂィーユエ! ユエか!」

「動くな……」

 光の背後に回った青い機体が迅速に修理を行う。

「ファン! タイヤンも来てくれたか!」

「……応急処置だが、これで動けるはずだ」

「あ、ありがとう! よし、これで数的優位に立ったぞ!」

 大洋が光の体勢を立て直し、刀を構え直す。金と銀が嘲笑交じりで答える。

「その二機は修理・補給機能がメインの支援主体の機体だと調べはついている……」

「ふん、そういうことだ、雑魚が何匹増えても同じこと!」

「言ってくれるじゃない!」

 ヂィーユエがブーメランを投げ込む。銀と金はやや驚く。

「おっと⁉ 意外と鋭いな……」

「軌道も不規則で予測しづらい……だが、避けられない程ではない!」

「そのように誘導したのだ……」

「なっ⁉」

「しまった! 二機が固まって……」

「はっ!」

 ブーメランを飛んで躱した先に、二つ又の槍を構えたファンが待ち構えていた。ファンの繰り出した突きで、TPOの二機は串刺しにされる。

「そのまま抑えといて!」

 ディーユエが再びブーメランを投じ、身動きの取れないTPO二機の頭部と脚部を壊す。

「ぬおっ⁉」

 槍から外れた二機は地面に叩きつけられる。金が呻く。

「ここまでの強さとは……し、しかもなんという連携……」

「単純なデータスペックで判断するなとかなんとか言っていたでしょ? 後、連携がご自慢みたいだけど……残念ね、年季が違うのよ」

 ユエが低い声で淡々と告げる。

「な、なんだと……?」

「余計なことは言うな……まともに動けまい、さっさと投降した方が身のためだぞ」

 タイヤンはユエをたしなめつつ、ファンに槍を構えさせる。銀が笑う。

「はははっ! 勝った気になるなよ! 我らにはまだ奥の手がある」

「なんだと⁉」

「モニターに反応! この付近の二つの著名な寺院の池の深部から二機がこちらに!」

「!」

 ミカンが叫んだ次の瞬間、二体のロボットが降り立つ、全身を金一色に染め、左肩に尖った角を持った機体と、全身を銀一色に染め、右肩に尖った角を持った機体である。大きさは光やヂィーユエらより一回り大きい。ロボットたちは地面に転がるTPOを拾う。

「なっ、なにを⁉」

 ユエが驚いている間、TPOのコックピットハッチが開き、銀と金がそれぞれ銀色の機体と金色の機体に飛び乗る。各々の機体の頭部に赤い光が一つずつ、目玉のように宿る。

「ふはははっ、これが我らの真の機体、『銀角(ぎんかく)』と『金角(きんかく)』だ!」

 銀が高らかに叫ぶ。ミカンがモニターを確認して驚愕する。

「な、なんてデータスペック! このような機体が京都に眠っていたなんて……」

「それ!」

「「「⁉」」」

 銀角の振るった腕が衝撃波を巻き起こし、光たちが吹き飛ばされそうになる。大洋が驚く。

「な、なんていうパワーだ! それも二機もいるなんて……」

「ふん、さっさと投降した方が身のためだぞ?」

 銀が笑う。ユエが呟く。

「……じゃあ、こっちも奥の手を出しちゃおうかしら?」

「な、なんだと⁉」

「え⁉」

 ユエの言葉に銀だけでなく、大洋も驚く。

「……コンディション、オールクリア。よ~し、行くよ二人とも~準備は良い~?」

「準備って何だ⁉ おい、ユエ、どういうことだ⁉」

 突然のことに戸惑う大洋。ユエは構わずに操作を続ける。

「よ~し、スイッチ……ポチっとね♪」

「な、なんだ⁉」

 一瞬の閃光の後、大洋がゆっくりと目を開けると、自身のシートの足元に二つのシートが並んでおり、そこに右からユエとタイヤンがそれぞれ座っていた。

「おお、合体成功~♪」

「合体だと⁉」

 大洋が確認すると、そこには金白青の三色が混ざり合ったカラーリングをした流線形が特徴的なボディの機体が空中に浮かんでいた。

「よし、じゃあ行ってみよう~♪」

「い、いや、これはどういう状況だ⁉」

「三機が合体して一機のロボットになったのよ」

 ユエが両手を広げて当然だろうという顔で語る。

「それは何となく分かる! ただお前らの機体と光に合体機能があるとは聞いてないぞ!」

「う~ん……いわゆる一つのサプライズってやつ?」

「サプライズ過ぎるだろう!」

「敵を欺くにはまず味方からって言うじゃない?」

「欺き過ぎだ! これはなんなんだ⁉」

「……まあ、一言で言うと、『三機合身!光風霽月(こうふうせいげつ)‼』って感じかな~」

「こ、光風霽月?」

「そう、中国語で言えば、光风霁月(グアンファンヂィーュエ)かしら?」

「そ、そんなことを知っているなんて……今更だがお前らは一体……?」

「まあ、今は細かいことは良いじゃない~」

「まあ、それもそうだな」

「いや、良いのか⁉」

 大洋のあっさりとした言葉にタイヤンが驚く。

「電光石火以外にも合体機能を有していただと……?」

「怯むな、金! 先手必勝だ!」

「! 来るぞ!」

「それじゃ、モードチェンジ、スイッチオン!」

「⁉ な、なんだ⁉……こ、これは?」

 突如として光風霽月のコックピットが暗くなって回転し、目を開けた大洋が驚く。自身のシートが右下側に移動し、隣にユエが座っていて、そして先程まで大洋がいた位置にタイヤンのシートが移っていたからである。襲い掛かろうとした銀が戸惑う。

「カラーリングが青色主体に……?」

「任せたよ、タイヤン!」

「ああっ、喰らえ! 『爽風脚(そうふうきゃく)』!」

 光風霽月が派手に側転し、銀角の死角に入り、蹴りを喰らわせる。

「ぐはっ⁉」

「次は任せたぞ、ユエ!」

「任された! モードチェンジ!」

「また色が変わった! 今度は白色主体に⁉」

 戸惑う金に対し、光風霽月がアクロバティックな動きで懐に入り、右の掌を突き出す。

「『晴月波(せいげつは)』!」

「うおっ⁉」

「二体がちょうどよく一か所に固まった! 仕上げは大洋、任せるよ!」

「ぶっつけ本番にも程があるが、任せろ!」

「その意気よ! モードチェンジ!」

 光風霽月が最初の形態に戻る。

「ぶ、武装は……これは薙刀か⁉」

 大洋は腰部から長柄の武器を取り出す。ユエが訂正する。

「偃月刀って武器の種類よ! それは『光龍刀(こうりゅうとう』と言うわ!」

「よし! 『ぶった切り』!」

「「どはっ⁉」」

 光風霽月の振るった刃が銀角と金角を切り裂く。

「やったぞ!」

「技のネーミングはなんとかならんのか⁉ むっ!」

 銀角らが足元に発生した黒い穴に吸い込まれる様に消える。大洋が舌打ちする。

「しまった、とどめを刺し損ねた!」

「恐らく大富岳に回収されたのね……この辺りは大丈夫そうね、味方と合流しましょう」

 ユエの指示に従い、大洋は光風霽月を味方の方に移動させる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生録~死と隣り合わせのこの世界で死なないため、力を付けます!!~

島津穂高
ファンタジー
現実に疲れて生きているのか死んでいるのか分からないような生活を送る主人公赤松達哉。 生きることを諦めて自殺すると神様に出会い、ダグラス=アイザックとして異世界の貴族に転生することに!! これはチート能力を軸に努力し、力をつけて人生を謳歌する物語。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。 亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。 さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。 南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。 ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。

新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~

朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)
キャラ文芸
長きに渡る日本奪還の戦いも、いよいよこれで最終章。 圧倒的な力を誇る邪神軍団に、鶴と誠はどのように立ち向かうのか!?  この物語、とうとう日本を守りました!

日本国破産?そんなことはない、財政拡大・ICTを駆使して再生プロジェクトだ!

黄昏人
SF
日本国政府の借金は1010兆円あり、GDP550兆円の約2倍でやばいと言いますね。でも所有している金融性の資産(固定資産控除)を除くとその借金は560兆円です。また、日本国の子会社である日銀が460兆円の国債、すなわち日本政府の借金を背負っています。まあ、言ってみれば奥さんに借りているようなもので、その国債の利子は結局日本政府に返ってきます。え、それなら別にやばくないじゃん、と思うでしょう。 でもやっぱりやばいのよね。政府の予算(2018年度)では98兆円の予算のうち収入は64兆円たらずで、34兆円がまた借金なのです。だから、今はあまりやばくないけど、このままいけばドボンになると思うな。 この物語は、このドツボに嵌まったような日本の財政をどうするか、中身のない頭で考えてみたものです。だから、異世界も超能力も出てきませんし、超天才も出現しません。でも、大変にボジティブなものにするつもりですので、楽しんで頂ければ幸いです。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜

古森きり
SF
俺は令嬢もののラノベや漫画が好きだ。 だって女の子可愛い。 男だって女性向けが好きなんだ、めっちゃ読む。 そんな俺が今イチハマっていた『救国聖女は浮気王子に捨てられる〜私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした〜』。 そして気づいたら、俺はその聖女を捨てて国を破滅させる王子に転生していた!? 嫌だ、死にたくない! 俺は絶対浮気しないし、聖女を捨てたりしない! 一生大切にするので俺と幸せになってください! 小説家になろうに読み直しナッシング書き溜め。 ※恋愛ジャンルにするには、恋愛要素が足りない気がするしロボット大戦までの道のりは遠いけどゆっくりロボみが強くなるのでSFカテゴリにした。 ※なろう版にはあとがきで小ネタを裏設定をいっぱい書いてあります。

【受賞作】狼の裔~念真流血風譚~

筑前助広
歴史・時代
「息をするように人を斬る」 刺客の子として生まれた平山小弥太は、父と共に殺しの旅に出た。 念真流という一族の秘奥を武器に、行く先々で人を斬って生き血を浴び、獣性を増しながら刺客として成長していく。 少年期の「小弥太篇」と元服後の「雷蔵篇」からなる、天暗の宿星を背負って生まれた少年の、血塗られた生を描く、第一回アルファポリス歴史時代小説大賞の特別賞を受賞した、連作短編集。その完全版が登場!! ――受け継がれたのは、愛か憎しみか―― ※小説家になろう・カクヨムにも掲載中。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・地名とは一切関係ありません。 ※この物語は、「本朝徳河水滸伝」題した筑前筑後オリジナル作品企画の作品群です。舞台は江戸時代ですが、オリジナル解釈の江戸時代ですので、史実とは違う部分も多数ございますので、どうぞご注意ください。また、作中には実際の地名が登場しますが、実在のものとは違いますので、併せてご注意ください。

処理中です...