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第一章
第1話(1)暴れ馬
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壱
「ふう……」
「藤花さん、目的地に関してですが……」
楽土は前を歩く藤花に尋ねる。
「……」
「藤花さん?」
藤花が振り返って答える。
「それについては追々お話します……」
「そうですか……」
藤花が再び前を向いて歩き出す。楽土がそれに続く。とある町へとさしかかる。
「町ですね……」
「ここで一泊ですか?」
「まさか、そんなに悠長にはしていられません」
「はあ……」
「日の落ちる前に次の大きな町を目指します」
「分かりました」
楽土が頷く。
(……別に夜通し歩いても良いんだが、こいつがどう動くか分からん……ただの監視役ならそれで構わないのだが……しばらく慎重に行動した方が良さそうだ)
藤花は楽土に視線を向けながら、考えを巡らす。
「ヒヒ~ン!」
「!」
「な、なんだ⁉」
「あ、暴れ馬だ~!」
「誰か止めてくれ~!」
「いや、危ない、避けろ、避けろ!」
「きゃあ~!」
興奮した馬が町の通りを暴走する。馬は勢いに乗ったまま、藤花へと迫る。
「む……」
「藤花さん、逃げて!」
楽土が叫ぶ。
「あ、足がすくんで……」
藤花が困り顔を浮かべる。
「くっ!」
「‼」
「ヒヒ~ン⁉」
藤花の前に立った楽土が盾をかざして、馬の蹴りを防ぐ。
「ら、楽土さん……」
「うおおっ!」
「ヒヒヒ~ン⁉」
「なっ⁉」
藤花が驚く。馬の巨体を楽土が弾き返してみせたからである。
「ヒ~ン……」
倒れた馬が大人しくなる。
「ふう……」
「おいおい! てめえ!」
「うちの大事な馬になにしてくれてんだ!」
「え?」
明らかに性質の悪そうな男たちが楽土に近づいてくる。
「怪我でもしてたらどう落とし前付けてくれんだ⁉ ああん⁉」
「そうだぞこら⁉」
「いや、そもそもとして……貴方たちがしっかり手綱を握ってくれていれば、こんなことにはならなかったのですよ?」
「ああん⁉ こっちが悪いっつうのか⁉」
「てめえ、良い度胸してんなあ!」
「ええっと……」
「さしずめ当たらせ屋ってところか、面倒な連中だな……」
戸惑う楽土の横で藤花が小声で呟く。
「ヒン……」
馬の様子を男が覗き込む。
「おうおう大丈夫か⁉ あ~これは怪我してるぜ!」
「お~こりゃあ、金払ってもらわねえとな!」
「ちょ、ちょっと待って下さい……」
「ああん⁉ 払えないっつうのか⁉」
「兄ちゃん、ちょっと面貸せや!」
「い、いや、落ち着いて下さい……」
「いいから来い! ん⁉」
男が楽土の腕を掴んで引っ張るが、楽土はピクリとも動かない。
「どうした⁉」
「い、いや、こいつが抗いやがる……!」
「お、お前、大人しく従え!」
「し、従う謂れがありませんので……」
楽土が遠慮がちではあるものの、拒否の意思を示す。
「なんだと、てめえ! ぐはっ⁉」
男の一人が倒れ込む。もう一人が慌てる。
「お、おい! どうした⁉ ごわっ⁉」
もう一人も倒れ込む。楽土が覗き込む。
「針が撃ち込まれている……!」
楽土が視線を藤花に向ける。藤花は首を捻る。
「なにか?」
「さっき髪をかき上げたでしょう? 頭髪に仕込んでいる針を飛ばしたのでは……」
「ほう……」
「違いますか?」
「いえ、なかなか察しがよろしいですね……なに、馬から守ってくれたお礼ですよ」
「なにも殺すことは……」
「人様に多大な迷惑をかけるような連中です。生かしていてもしょうがないでしょう……」
「そ、それは……」
♢
「おい!」
老年の女性が江戸のある屋敷の廊下を歩く眼鏡をかけた男性に声をかける。
「ああ、これはお師匠さま……なにか御用ですか?」
「とぼけるな、なんだあの楽土という奴は?」
「老中さまからのご命令で、任務に随行させました」
「聞いておらんぞ」
「上にも色々事情があるのでしょう……」
「藤花は『からくり人形』の『零号』……始まりの存在にして、最強かつ最凶……助けなどまったくの不要じゃ」
「ふふっ……」
眼鏡の男性が笑う。
「な、なにがおかしい!」
「性能は認めますが、少々時代遅れの感が否めません……」
「なんじゃと!」
「そこを補わせて頂こうと思いまして……」
「補う?」
「ええ、あの楽土はつい先日、『からくり人形』の『拾参号』に定められました……」
「じゅ、拾参号じゃと⁉」
「お言葉を借りるならば、新たな存在にして、最高かつ最硬……どうなるか見てみましょう」
男性は不敵な笑みを浮かべる。
「ふう……」
「藤花さん、目的地に関してですが……」
楽土は前を歩く藤花に尋ねる。
「……」
「藤花さん?」
藤花が振り返って答える。
「それについては追々お話します……」
「そうですか……」
藤花が再び前を向いて歩き出す。楽土がそれに続く。とある町へとさしかかる。
「町ですね……」
「ここで一泊ですか?」
「まさか、そんなに悠長にはしていられません」
「はあ……」
「日の落ちる前に次の大きな町を目指します」
「分かりました」
楽土が頷く。
(……別に夜通し歩いても良いんだが、こいつがどう動くか分からん……ただの監視役ならそれで構わないのだが……しばらく慎重に行動した方が良さそうだ)
藤花は楽土に視線を向けながら、考えを巡らす。
「ヒヒ~ン!」
「!」
「な、なんだ⁉」
「あ、暴れ馬だ~!」
「誰か止めてくれ~!」
「いや、危ない、避けろ、避けろ!」
「きゃあ~!」
興奮した馬が町の通りを暴走する。馬は勢いに乗ったまま、藤花へと迫る。
「む……」
「藤花さん、逃げて!」
楽土が叫ぶ。
「あ、足がすくんで……」
藤花が困り顔を浮かべる。
「くっ!」
「‼」
「ヒヒ~ン⁉」
藤花の前に立った楽土が盾をかざして、馬の蹴りを防ぐ。
「ら、楽土さん……」
「うおおっ!」
「ヒヒヒ~ン⁉」
「なっ⁉」
藤花が驚く。馬の巨体を楽土が弾き返してみせたからである。
「ヒ~ン……」
倒れた馬が大人しくなる。
「ふう……」
「おいおい! てめえ!」
「うちの大事な馬になにしてくれてんだ!」
「え?」
明らかに性質の悪そうな男たちが楽土に近づいてくる。
「怪我でもしてたらどう落とし前付けてくれんだ⁉ ああん⁉」
「そうだぞこら⁉」
「いや、そもそもとして……貴方たちがしっかり手綱を握ってくれていれば、こんなことにはならなかったのですよ?」
「ああん⁉ こっちが悪いっつうのか⁉」
「てめえ、良い度胸してんなあ!」
「ええっと……」
「さしずめ当たらせ屋ってところか、面倒な連中だな……」
戸惑う楽土の横で藤花が小声で呟く。
「ヒン……」
馬の様子を男が覗き込む。
「おうおう大丈夫か⁉ あ~これは怪我してるぜ!」
「お~こりゃあ、金払ってもらわねえとな!」
「ちょ、ちょっと待って下さい……」
「ああん⁉ 払えないっつうのか⁉」
「兄ちゃん、ちょっと面貸せや!」
「い、いや、落ち着いて下さい……」
「いいから来い! ん⁉」
男が楽土の腕を掴んで引っ張るが、楽土はピクリとも動かない。
「どうした⁉」
「い、いや、こいつが抗いやがる……!」
「お、お前、大人しく従え!」
「し、従う謂れがありませんので……」
楽土が遠慮がちではあるものの、拒否の意思を示す。
「なんだと、てめえ! ぐはっ⁉」
男の一人が倒れ込む。もう一人が慌てる。
「お、おい! どうした⁉ ごわっ⁉」
もう一人も倒れ込む。楽土が覗き込む。
「針が撃ち込まれている……!」
楽土が視線を藤花に向ける。藤花は首を捻る。
「なにか?」
「さっき髪をかき上げたでしょう? 頭髪に仕込んでいる針を飛ばしたのでは……」
「ほう……」
「違いますか?」
「いえ、なかなか察しがよろしいですね……なに、馬から守ってくれたお礼ですよ」
「なにも殺すことは……」
「人様に多大な迷惑をかけるような連中です。生かしていてもしょうがないでしょう……」
「そ、それは……」
♢
「おい!」
老年の女性が江戸のある屋敷の廊下を歩く眼鏡をかけた男性に声をかける。
「ああ、これはお師匠さま……なにか御用ですか?」
「とぼけるな、なんだあの楽土という奴は?」
「老中さまからのご命令で、任務に随行させました」
「聞いておらんぞ」
「上にも色々事情があるのでしょう……」
「藤花は『からくり人形』の『零号』……始まりの存在にして、最強かつ最凶……助けなどまったくの不要じゃ」
「ふふっ……」
眼鏡の男性が笑う。
「な、なにがおかしい!」
「性能は認めますが、少々時代遅れの感が否めません……」
「なんじゃと!」
「そこを補わせて頂こうと思いまして……」
「補う?」
「ええ、あの楽土はつい先日、『からくり人形』の『拾参号』に定められました……」
「じゅ、拾参号じゃと⁉」
「お言葉を借りるならば、新たな存在にして、最高かつ最硬……どうなるか見てみましょう」
男性は不敵な笑みを浮かべる。
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