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チャプター1

第13話   五稜郭最終決戦

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「ふむ、こうなれば致し方ないね……」

「!」

 ムラクモが戦艦の甲板に姿を現し、右手に持った剣を上に掲げて叫ぶ。

「天よ、力を! 雲よ、群がれ! 天ノ叢雲、参上! 君たちは残らず覆い隠す!」

 青色と白色の二色のパワードスーツとなった天ノ叢雲が剣を片手にポーズを取る。

「来るか……!」

「はっ!」

 天ノ叢雲が飛び、手すりと足場のついた大型のドローンに飛び乗り、五稜郭へと真っ直ぐに向かって飛んできて、疾風迅雷たちの前に降り立つ。

「部下はどうした? まさか、たった一人で戦うつもりか?」

「正直、君たちを相手にするとなると兵士たちの手には余る」

「どうするつもりだ?」

「こうするつもりさ!」

「⁉」

 天ノ叢雲が八体に分裂する。ジンライが驚く。

「ふっ……」

「ぶ、分裂した⁉ どういうことだ⁉」

「簡単に言えば雲と同じことさ……さて、各個撃破といこうか!」

 八体の内、七体の天ノ叢雲が地元ヒーローたちに襲いかかる。ジンライは舌打ちする。

「ちっ!」

                  ☆

「まずはお前だ! クラブマン!」

 天ノ叢雲がクラブマンを襲う。

「ふん! この高速移動が捉えられるかな⁉」

 クラブマンが渾身の高速横移動を見せる。

「……」

「はははっ! 面食らっているな! それ! どうだ! 縦や斜めにも高速で動けるぞ!」

「『バイオフォーム』、『獅子』モード!」

「ぐはっ!」

 天ノ叢雲の鋭い爪がクラブマンの身体を引き裂く。

「……本気で蟹が獅子に勝てるとでも? ふざけているのかい?」

「お、俺はいつだって本気だ!」

 クラブマンが天ノ叢雲を見つめる。天ノ叢雲がややたじろぐ。

「! な、なんて真っ直ぐな目だ! 基本横歩きしか出来ないというのに……」

「方向を変えれば縦や斜めに、どこにだって行ける!」

「圧倒的な差を見ても、闘志は衰えていない……厄介だね、消えてもらう!」

「⁉」

「なっ⁉」

 天ノ叢雲が振り下ろした爪を疾風迅雷が受け止める。

「ぐっ……」

「ジ、ジンライ! むっ⁉ 君も分裂を⁉ ど、どうやって⁉」

 天ノ叢雲が周囲を見回しながら驚く。

「メタルフォームの3Dプリンタやクラシックフォームの忍者モードでの分身などをあわせて活用してみた……やってみたら出来た」

「なるほど、ただ、僕のとは少し違うね!」

「うおっ!」

 天ノ叢雲が疾風迅雷を押し返す。

「本体ほどの力は維持出来ていない……それで満足に戦えるとでも?」

「皆の援護くらいならば出来る!」

「面白い、やってみなよ!」

「『カラフルフォーム』!『ブラック』モード!」

「む⁉」

「見えた! そこだ!」

「ぐはっ!」

 疾風迅雷のパンチが天ノ叢雲の身体を捉え、天ノ叢雲はうずくまる。

「どうだ!」

「くっ……その色は?」

「カラフルフォームの五色を混ぜた色だ。これによって五感がより研ぎ澄まされる……」

「そ、そのようなモードが……」

「カニ男! この俺様では決定打に欠ける! 後は貴様に任せる!」

「し、しかし……」

 クラブマンが立ち上がると、足元から何かが落ちる。疾風迅雷がそれを拾う。

「これは……注射器か?」

「レポルーの残党を追い払った時、ドクターMAXが落としたので一応回収した……」

「『サイボーグ怪人強化用薬』と書いてあるな……ふふっ」

「な、なんだ、その、ふふって笑いは! ま、まさか、お前、止めろ!」

「『用法・用量を守って正しくお使い下さい』とも書いてある。任せろ」

「正しい用法知らんだろ!」

「貴様にはある程度の耐性があるはずだ、心配無用!」

「ま、待て! あっ!」

 疾風迅雷がクラブマンの腕にぷすっと注射を打つ。

「……どうだ?」

「……うおおっ! 身体中に力が漲る! それに!」

「おおっ!」

 クラブマンが真っ直ぐ正面に歩いたので、疾風迅雷は驚く。

「正面に歩ける! 真っ直ぐな俺の性格にピッタリだ!」

「よし! 倒れ込んでいる奴にとどめだ!」

「おおっ! 任せろ!」

 クラブマンが素早く正面に歩いて、天ノ叢雲との距離を詰める。疾風迅雷が呟く。

「ドーピングしている時点で真っ直ぐな性格からかけ離れているがな……」

「喰らえ!」

 クラブマンが両のハサミを交差しながら振り上げる。

                  ☆

「ファム・グラス、そろそろ覚悟してもらうよ……」

「覚悟も何もないっての! 『ショットガンスピン』!」

 ファム・グラスが地面に発生させた氷を足で弾いて飛ばす。

「『メタルフォーム』、『バーニングハンド』!」

「くっ、また氷が溶かされる……」

「火を起こすことの出来る能力を持った相手との相性は最悪だね」

「ぐっ……」

「スピードやパワー、そしてテクニックを使い分けた戦い方、そのスケーティングは実に見事だ……ただ、肝心の氷が溶かされてしまっては元も子もない」

「ぐぬぬ……」

「降参してもらえないかな、女性には手を挙げたくない」

「……そういう紳士的な物言いが逆に気持ち悪いから無理!」

 ファム・グラスは舌を出す。天ノ叢雲はやや顔をしかめる。

「気持ち悪いとは参ったな……少しお仕置きが必要だね」

 天ノ叢雲が右腕を掲げ、ファム・グラスに向かって炎を噴き出す。

「きゃっ⁉ ……えっ⁉」

「諦めたらそこで終わりだぞ!」

 疾風迅雷が両者の間に割って入り、炎を受け止めようとする。

「ジ、ジンライっち⁉」

「この炎に突っ込むとは、正気かい⁉ なっ⁉」

「効かんな!」

 平然とした様子で立ち尽くす疾風迅雷がいる。天ノ叢雲が戸惑う。

「な、何故、炎を浴びても平気なんだ⁉」

「これは『マンガフォーム』! 『ウィークリー』モード! 情熱が迸っている!」

「そ、それがどうした⁉」

「迸る情熱は、時には炎をも凌駕する!」

「い、いや、どういう理屈だい⁉」

「アイス! 俺様の手を取れ! 奴に攻撃だ!」

「で、でも、ウチの攻撃は氷主体だから、奴の炎に溶かされてしまうわ……」

「それがなんだ! 溶かされる前に溶かすくらいの勢いで行け!」

「ええっ⁉ よ、よく分からないけど分かった!」

 ファム・グラスが氷を足元一帯に発生させ、疾風迅雷の片手を掴み、疾風迅雷を中心にして、身体を水平に倒して円を描く。

「良いぞ!」

「もらったし!」

 勢いに乗ったファム・グラスが足を天ノ叢雲に向かって伸ばす。

                  ☆

「ふん、ベアーマスク、この程度かい……?」

「グヌゥ……」

 ベアーマスクの前にはジャイアントフォームで巨大化した天ノ叢雲が立っている。

「君のご自慢のプロレス技の数々、精度はなかなかだけど、躱すのは容易だね」

「ムゥ……」

 余裕綽綽な態度の天ノ叢雲に対し、ベアーマスクは既に息が上がっている。

「何故躱せるのか分かるかい? 君の技は予想通り過ぎて、面白味がないんだよ」

「ム⁉」

「決められた技をそつなくこなす……プロレスとしては正しいかもしれないけどね」

「グッ……」

「挑発されてももう反撃する気力が無いようだね……そろそろフィニッシュといこうか」

「ヌッ⁉」

「待て!」

「うん、ジンライか?」

「『メタルフォーム』! 『ボディローリング』!」

「なっ⁉ 自分の身体をバイクに変形させた⁉」

「『ジャイアントフォーム、適用』!」

 バイクになった疾風迅雷が巨大化する。天ノ叢雲たちが驚く。

「こ、これは……?」

「オオッ……?」

「ベアーマスク!」

「ウオッ⁉」

「ウオッ⁉じゃない! 俺様に跨れ!」

「ムムッ⁉」

「サーカス団員でもあるだろう! 技が通用しないなら、予測不可能な曲芸で勝負だ!」

「オオッ!」

「よし! 行くぞ!」

「ぐおっ⁉」

 ベアーマスクを乗せた疾風迅雷が前輪を上に上げる、いわゆる「ウィリー走法」で天ノ叢雲に突っ込む。虚を突かれた天ノ叢雲が膝をつく。

「良いぞ! フィニッシュだ、プロレス技で派手に決めてやれ!」

「オオオッ!」

 ベアーマスクがその巨体を宙に舞わす。

                  ☆

「ふむ……カラーズ・カルテットの諸君、その程度かな……?」

「そ、そんな……」

「攻撃がことごとく躱されてしまいましたわ……」

「摩訶不思議……」

「ど、どういうことだ?」

 愕然とするカラーズ・カルテットの四人に天ノ叢雲が説明する。

「『カラフルフォーム』、『ゴールド』モード、これは第六感を研ぎ澄ます形態……」

「な、なるほど……合点が行きましたわ」

「え? どういうことよ、パープル?」

「完全に理解した……」

「な、なにがよ、グリーン?」

「そういうことかよ……」

「いや、だから何がよ、オレンジ?」

 ブラウンが三人に尋ねる。パープルが苛立ち気味に答える。

「ええい! 暫定リーダーなら少しはご自分の頭で考えてみてごらんなさい!」

「そ、そんな怒鳴らなくても良いじゃん……」

「第六感……至極簡単に言えば、勘が異常に鋭くなっているということ」

 グリーンが淡々と呟く。

「う~ん……要するに伊達に金色じゃないってことね!」

「全然要してないけど、まあ、お前さんはあまり難しく考えるな、ブラウン」

 オレンジは苦笑しながらブラウンの肩を叩く。ブラウンは力強く頷く。

「分かった!」

「まだ、気持ちは折れていないようだけど、どうする? 力量差は理解したはずだ」

「まだだ!」

「プウジン君!」

「ジンライか……この形態の僕に触れることが出来るかな?」

「『クラシックフォーム』! 『カンフーマスター』モード!」

「上半身裸に⁉ ぐはっ⁉」

 疾風迅雷の正拳突きが天ノ叢雲の腹部にめり込み、身体がくの字に曲がる。

「どうだ!」

「ば、馬鹿な……なんというスピード……」

「カラーズ・カルテット!」

「!」

 疾風迅雷が振り向いて四人に告げる。

「感じた先に表現するべき音が見えるはずだ……」

「よくわかんないけど分かったよ!」

「分かったのですか⁉」

「理解が追い付かない……」

「ど、どうするんだ、ブラウン⁉」

「皆、耳を塞いで!」

「⁉」

 ブラウンはマイクを取り出して叫ぶ。

「『ライブアイランド、試される大地へようこそ』‼」

「うおっ⁉ な、なんという叫び声!」

 天ノ叢雲がその場に膝をつく。

「今だ! パープル、矢! グリーン、ブーツを! オレンジ、スティックを貸して!」

「ええ⁉」

「いいから早く!」

「意図が不明だけど……」

「とにかく任せたぜ、ブラウン!」

「アタシたちの伝説の一ページになりなさい!」

 三人から矢とブーツとスティックを借りたブラウンが天ノ叢雲に向かい勢いよく走る。

                  ☆

「ふむ、噂の凸凹コンビも大したことはないかな?」

「……大丈夫ですか、デコボコさん?」

「わざと外してくれたみたいね……でもあの射撃、迂闊に近づけないわね」

「テュロンも無事か?」

 テュロンはマコトの肩に飛び乗り、鳴き声を発して無事であることを示す。

「『クラシックフォーム』、『ガンマン』モード……今、そちらのお嬢さんがおっしゃったように、わざと外した。いわゆる威嚇射撃だ……白旗を上げるなら今の内だよ」

「折角のご提案ですが、却下します。生憎、持ち合わせが無いもので……」

 マコトの答えに天ノ叢雲が笑みを浮かべる。

「少年、大した度胸だ。相当の修羅場をくぐってきた様だね、ある意味年の功かな?」

「……余計なお喋りをするつもりはありません!」

「ふん!」

「ちっ!」

 マコトが動き出そうとしたその時、天ノ叢雲が三度発砲する。

「『プロイベーレ』!」

「!」

 次の瞬間、三発の弾丸がぽとりと地面に落下する。その近くにはステッキを持った疾風迅雷が立っている。マコトとデコボコが驚く。

「ジ、ジンライさん! そ、その恰好は?」

「か、恰好のことは気にするな!」

「いや、気になるでしょ。ミニスカって……でも、結構脚キレイね」

「言うな! 見るな! そういうフォローも良い!」

「ぐっ、ジンライ! 何をした⁉」

「時を止める魔法を少々……」

「なっ⁉ そんな高度な魔法をいつの間に……」

「我ながら自分の才能が怖い……」

「……君のことだ、人知れず相当な修練を積んだのだろう」

「貴様に隠し事は出来ぬか……ああ、短い期間だったが、かなりの集中力を持って修練に臨んだ。一刻も早く習得したかったからな」

「事は慎重に運ぶところがある君としては意外な考えだね」

「……修練の度に、この恰好にならねばならないのだぞ! 嫌でも急ぐだろう!」

 疾風迅雷はミニスカの裾をつまみながら叫ぶ。

「……魔力を相当消耗するはず、連続では使えないはずだ!」

「鋭い見立てだな、その通りだ! よってこちらから仕掛ける!」

「ぐっ!」

「『テンペスタース』!」

「しまった⁉」

 向かってくる疾風迅雷に対し、天ノ叢雲が銃を発砲して迎撃しようとしたが、疾風迅雷は嵐を巻き起こし、天ノ叢雲の身体は上に浮かぶ。疾風迅雷が振り向いて叫ぶ。

「後は任せたぞ!」

「デコボコさん!」

「はいよ! 凸凹護身術奥義!」

 デコボコが地面を叩くと、地面が大きく隆起し、登り坂のようなものが出来る。

「テュロン!」

 マコトの言葉に応じ、テュロンが大きなケモノの姿になる。マコトはそれに跨り、坂を一気に駆け上がり、天ノ叢雲に迫り、構えを取る。

「ぐっ⁉」

「銃弾は六発撃ち尽くした! 装填の隙は与えません!」

                  ☆

「魔法少女新誠組、鬼の副長、菱形十六夜……こんなものかい?」

「はあ……はあ……」

「おっと、『イグニース』!」

 天ノ叢雲が杖を振り、炎が噴き出る。十六夜がなんとか回避する。

「ちぃ……あ、貴方も魔法を?」

「このローブ姿は『マジカルフォーム』だからね。魔力の動きには敏感になる……今、君は『ヒーリング』で回復を図ろうとしたね? そうはさせないよ」

「くっ……」

「君の別名はキラソーン……茨のように触れると怪我をするような危険な存在だと聞いている……回復魔法持ちでもあるし、なかなか厄介だ、さっさとケリをつけさせてもらう」

 天ノ叢雲が杖を掲げる。十六夜は考えを巡らす。

(懐に入ることさえ出来れば、私の剣でも十分仕留められるはず……ほんの数秒で良いのだけど、先程の攻撃で膝を負傷してしまった……これでは全力で走れない……回復したいところだけど、その隙を与えてくれない。さて……どうするか?)

「考えはまとまったかい?」

「⁉」

「悪いが先手を譲るつもりはないよ!」

「待て!」

 両者の間に疾風迅雷が割り込んでくる。

「ジンライか……君が来たところで戦況は変わらないよ」

「ほう、試して……みるか!」

「接近戦はさせない! 『イグニース』! 何っ⁉」

 疾風迅雷が動いたのを見て、天ノ叢雲はすかさず炎を放つが、疾風迅雷の姿が忽然と消えた為、自らの目を疑う。

「……」

「な、なんだと⁉ 消えた! そんな馬鹿なことが……」

「『バイオフォーム』! 『転竜』モード!」

「! 地面の色に同化していたのか!」

 四足歩行の体勢で地面すれすれに走っていた疾風迅雷が再び姿を現し、長い舌を伸ばして、天ノ叢雲から杖を奪取し、投げ捨てて叫ぶ。

「今だ!」

「ちっ⁉」

「間合いに入ればこちらのもの!」

 天ノ叢雲との距離を詰めた十六夜が刀を振りかぶる。

                  ☆

「風花雪月! ペンさえ奪えば、君たちはほぼ無力だ!」

「ぐっ……」「無力だと!」「半分は当たっている」「後手に回ったな……」

 風花雪月が右肩を抑えながら苦しそうに呻く。天ノ叢雲が淡々と呟く。

「この『コミックフォーム』、『マーベラス』モードの圧倒的な力の前には君たちの卓越した画力も意味を成さない……漫画の負けだ」

「なっ……」「聞き捨てならねえな」「言われっぱなしは気分が悪いな」「反撃といくか」

「怒ったかい? 怒ったところでどうにもならないけどね……」

「俺がいく! 『集中線』!」

「なっ⁉」

 天ノ叢雲を中心にして、周囲に無数の線状の帯が発生し、天ノ叢雲に突き刺さる。

「どうだ!」

「ぺ、ペンが無ければその妙な能力も本領を発揮出来ないはずでは⁉」

「漫画家ってのはな、複数のペンを使い分けんだよ!」

 全身青色になった風花雪月が誇らしげにペンを掲げる。

「そ、それは?」

「Gペンだ!」

「ジ、Gペン?」

「細やかさなら丸ペンの方が良いですけどね」「人それぞれだな」「大雑把な花には合う」

「ええい! だから、一斉に脳内で喋んなって! 追い打ちと行くぜ!」

「させるか! このマーベラスモードは重力を操れる、押しつぶしてくれ……ぐはっ⁉」

「な、なんだ⁉ 巨人!」

「『ジャイアントフォーム』! 『ジャイアントスタンプ』!」

「疾風迅雷さん!」「よ、横文字使ったけど……」「シンプルに踏んだな」「悪くない」

「……ぐっ、おのれ、ジンライ!」

「おわっ⁉」

 疾風迅雷の巨大化が元に戻ってしまう。天ノ叢雲が笑みを浮かべる。

「ふん、巨大化が持続しなかったな! 運はこちらにある。『重力操作』!」

「ちっ⁉ ……?」

「……なに⁉ 能力が発動しないだと⁉ な、なんだ、この白い液体は!」

 天ノ叢雲の身体や手足に白い液体が付着する。白一色になった風花雪月が告げる。

「ホワイトだ……漫画でもコミックでも白い修正液で修正をかける……」

「そ、そんなもので能力を封じたというのか⁉」

「月さん! 良い感じで出ましたね!」「ドバっと出たな」「濃さもちょうど良い」

「な、なんか、変な言い方をやめんか、お主ら!」

「風花雪月! 畳み掛けろ!」

「はい!」「任せろ!」「借りは返す……」「思い知るがいい!」

 四色に戻った風花雪月が天ノ叢雲に向かって突っ込む。

                  ☆

「『クロスカッター』!」

 クラブマンが交差させたハサミを勢いよく振り下ろす。

「『デス・スパイラル』!」

 ファム・グラスが伸ばした足で蹴りつける。

「『ウオオオッ』!」

 ベアーマスクが豪華なドロップキックをかます。

「『カラーズ・ニーキック』!」

 ブラウンが強烈な膝蹴りを放つ。三人が「道具貸した意味は⁉」と同時に叫ぶ。

「『鳳凰の爪』!」

 マコトが両腕を交差しながら振り下ろす。炎が巻き上がる。

「『茨斬り』!」

 十六夜が刀を袈裟切りのような体勢で振り下ろす。

「『見開き必殺技』!」

 風花雪月が腕を組んだ状態から外側に両手を広げる。

「「「「「「「ぐはっ‼」」」」」」」

 八体に分裂していた内、七体の天ノ叢雲が地元ヒーローたちの攻撃を受け、霧消する。

「そ、そんな……」

「残りは貴様だけだな……」

 疾風迅雷がゆっくりと天ノ叢雲に近づく。

「ジンライ……」

「最後は一対一で勝負といこうじゃないか」

「ふはははっ! 忘れたのかい⁉ 札幌で僕に無様に負けたことを!」

「過去にはこだわらん……!」

 疾風迅雷はノーマルフォームのまま、飛び上がる。天ノ叢雲は冷静に分析する。

「力を消耗してノーマルフォームでしか動けないのか! それでは勝てないよ!」

「『ノーマルフォーム』! 『疾風迅雷』モード! 『疾風迅雷キック』!」

「どわっ⁉」

 疾風迅雷の飛び蹴りを喰らった天ノ叢雲が後ろに吹っ飛ぶ。

「……」

「ば、馬鹿な……『疾風』モードのスピードと、『迅雷』モードのパワーを両立させただと……? そ、それには極めて繊細かつ微妙なバランス感覚が求められるはず……」

「俺様を誰だと思っている? 銀河に名を轟かす『超一流のヴィラン』だぞ?」

「ふっ……」

「⁉ 雲が! ……ムラクモがいない! どこだ!」

「今日のところは退こう……この借りは必ず返すよ……」

 声のした方に視線を向けると、戦艦が急速転回し、その場から急速離脱した。

「……ちっ、逃がしたか……まあ良い……正直、これ以上は限界だったからな」

 疾風迅雷は変身を解き、地元ヒーローたちに声をかける。

「カニ男、薬の副作用はないか? まあ、貴様は少し位作用した方が良いのかもしれんが」

「一言多いな!」

「アイス、即席だが良いペアスケーティングが出来た、これも友情の成せる業だな」

「友情か~。まあ、まだ芽はあるかな?」

「ベアーマスク、良いプロレス技だったぞ。自信を持て」

「ありがとうございます」

「カラーズ・カルテット、五稜郭学園でライブをやるようだな、楽しみにしているぞ」

「え? それじゃあ君の為に唱っちゃおうかな~♪」

「ちょ、ちょっと、唱さん⁉ 抜け駆けは無しですわよ!」

「バンドの要はベース……」

「さり気なくアピールするね、奏……」

「凸凹コンビ、助かったぞ」

「なかなか刺激的だったわよ。『北日本の名探偵』に更なる実績が加わったわね」

「なにかお困りのことがありましたら、凸凹探偵事務所までお願いします」

「菱形十六夜、貴様の仲間たちはそんなにヤワなのか?」

「⁉ そうですね……彼女たちのことですもの、しぶとく生きているはずです」

「風花雪月……見事な白い液だった」

「言い方!」「下半身見ながら言うな!」「月の手柄だ……」「女性陣の視線が痛い!」

「大二郎!」

「ああ、戦艦五稜郭、元の場所に着陸するよ!」

 五稜郭はゆっくりと地上に戻る。その日の夜、ジンライと舞は函館山の頂上にいた。

「ほお、見事な夜景だな」

「函館自慢の夜景よ……ありがとう」

「? 何がありがとうなんだ?」

「貴方が守ってくれたからよ、私の好きな、この美しい街を」

 舞が夜景を見つめながら呟く。その横顔に一瞬見惚れたジンライは慌てて話を逸らす。

「べ、別に街のことなどどうでもいい! 俺様はNSPを守ったまでだ!」

「そうね……『なまらすごいパワー』をね……」

「はっ? 今、なんと言った?」

「え? 『なまらすごいパワー』よ」

「なんだ、その珍妙なフレーズは……」

「おじいちゃんが名付けた、NSPの正式名称よ」

「な、なんだと⁉」

「『なまら』っていうのは、『とても』とか『すごい』って意味の北海道の方言で……」

「それくらいは分かっている! それじゃあ、『すごいすごいパワー』って意味になるぞ⁉」

「おじいちゃんがノリで言ったら、そのまま採用になっちゃったんだって」

「な、なんか、今までの戦いが凄く馬鹿みたいなことをしていた気になってきたぞ……」

 ジンライが脱力したようにガックリと肩を落とす。

「そんなことないわ。とっても素敵で恰好良かったわよ」

「本当か?」

 ジンライがいきなり顔を上げる。舞が戸惑う。

「え、ええ、本当よ……」

「素敵で恰好良い……まあ、当然だな、なんと言っても『超一流のヴィラン』だからな」

「って、ていうか、顔、近くない?」

「……夜景も良いが、貴様の顔もじっくり見ておきたいと思ってな」

「い、いきなり何を言っているの⁉」

「……」

「な、何で黙るのよ! ……」

 舞はなんとなく目を閉じてみる。ジンライの顔がゆっくりと近づく。

「ジ、ジンライ君!」

「「⁉」」

 ジンライと舞が目をやると、ドッポがいた。モニター越しに大二郎の声が聞こえてくる。

「……なんだ?」

「最近、東北でMSPというエネルギーを発見したんだけど……それが狙われている!」

「はっ⁉」

「それを守ってくれないか?」

「な、なんで、俺様が……」

「NSP同様、悪用されると非常にマズい……」

「ジンライ、おじいちゃんの頼みを聞いてあげて」

「だからなんで、俺様が……」

「私からもお願い!」

 舞が真っ直ぐな瞳でジンライを見つめてくる。ジンライは半ばやけくそになって叫ぶ。

「~貴様らがどうしてもというならヒーローになってやらんこともない!」

                  ~第一部完~
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