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チャプター1

第8話(2)ほぼ知らない人たちのイベントを観覧

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「往来で大声を上げるな、迷惑だろう……」

「ヴィランに諭された!」

「とにかく入るぞ」

「ちょ、ちょっと待って!」

「なんだ……」

 舞に腕を引っ張られたジンライはウンザリ気味に呟く。

「百歩譲って、イベント観覧はいいわ。でも誰よ、シーズンズって?」

「シーズンズを知らないだと?」

「生憎、ちっとも!」

「正気とは思えんな……」

 ジンライは信じられないと言った表情で舞を見る。

「そ、そこまで言われるほど⁉ 漫画はそれほど見ないのよ。代表作は?」

「……ドッポ、教えてやれ」

 ジンライは車から通常形態に戻って、自らの肩に乗ったドッポに説明を促す。

「サクヒンメイハ『キ』デハジマリ、ゴモジメガ『イ』デス」

「なによ、その微妙なヒントは……」

「ゲキジョウバンアニメモダイヒットシマシタネ」

「あ! 分かった! え? 『鬼○の刃』⁉」

「違う」

「違うの⁉」

 ジンライはやや呆れ気味に答えを言う。

「『季節の合間』だ」

「なにそれ⁉」

「人と人外の生物によって織り成される季節の合間を描いたハートウォーミングな作品だ」

「し、知らないわ!」

「アニメでは食卓シーンのハイクオリティな作画が話題を呼んだ……」

「ほ、本当に話題を呼んだの?」

「特にあの里芋の煮っころがしの作画は世界のSNSを席巻した……」

「クオリティ高めるところ間違っていない?」

「全く、季節の合間も知らんとは……」

 ジンライはため息をつく。

「ほ、他にはないの?」

「……ドッポ」

「サクヒンメイニ『ジュツ』ガハイリ、『カイセン』デオワリマス」

「また、クセのあるヒントの出し方ね……でも分かったわ! 『呪術○戦』ね!」

「……違う」

「え⁉」

「『手術海鮮』だ」

「はい? なによ、それ?」

「医者として手術をする二人が、オフの日には仲良く釣りを楽しむストーリーだ」

「し、知らない! ってか、どんなストーリーよ!」

「医療漫画としてだけでなく、釣り漫画、グルメ漫画の側面も併せ持つ贅沢な作品だな」

「コンセプトがぶれていない?」

「むしろそこが良いと評価されている」

「どこで評価されているのよ……」

「季節も手術も知らん奴がいるとはな……国民的少女漫画だぞ?」

 ジンライが軽く頭を抑える。

「え、少女漫画なの⁉」

「まあいい、そろそろ時間だ、店に入るぞ……」

 ジンライたちがビルに入り、イベントが行われる会場に着く。

「イベントのお客さん、99%女性ね……」

「良いものに性別など関係ない……いわんや星の違いもな」

「説得力ある物言いね……あ、そろそろ始まるみたいよ」

 司会者が壇上に上がり、イベントの開始を告げる。

「それではトークショーを始めさせて頂きます……シーズンズの皆さんです!」

「きゃあああー!」

 女性客から黄色い歓声が上がる。四人の端正なルックスの男性がステージに現れる。

「よ、四人組なのね……」

「複数連載を抱えているからな、一人二人ではなかなか大変なのだろう」

「ヨニンソレゾレノサッカテキキャラクター、パーソナリティヲツカイワケタサクフウニテイヒョウガアリマス」

「そ、そうなの……」

 ジンライとドッポの説明に舞が頷く。四人組が自己紹介を始める。

「桜花青春(おうかせいしゅん)です! よろしく!」

 すらっとしたスタイルで、短い青髪の男性が挨拶する。

「その名の通り、青春を題材にした作品が多い。読者の間では『エモい』担当とされている」

「エモい担当……青春を題材……学園ものとか?」

「そうだな、後、スポーツものが多い、『苦虫マダム』とかな」

「どんなスポーツものよ……マダムとエモさはなかなか結びつかないでしょ……」

「疾風朱夏(はやてしゅか)です……よろしくお願いします……」

 四人組の中では小柄な、少年と言ってもいいルックスの朱髪の男性が挨拶する。

「恋愛や日常ものが多い。担当は『尊い』だな。疾風というがもしや……」

「ああ、はとこよ、ほとんど会ったことはないけど、まさか漫画家になっていたとはね」

「ふむ、世間は意外と狭いものだな……代表作は『手洗いミューズの赤木さん』だ」

「どういう恋愛ものよ……」

「佳月白秋(かげつはくしゅう)だ。よろしく頼む……」

 やや斜に構えた態度の白髪の男性が挨拶する。

「バトルや歴史ものを多く手掛けている。『エグい』担当だ」

「エグい担当って……」

「主に戦闘描写がな。それが良いという読者もいる。『文具のり』がヒットした」

「文具でどうエグさを出すのよ……」

「吹雪玄冬(ふぶきげんとう)……よろしく……」

 四人の中では一番筋肉質で、黒髪の男性が挨拶する。

「『チルい』担当だな。見た目に反してエッセイ風やほのぼのギャグ作品が多い」

「チルい?」

「落ち着く作風ということだ。『今朝、なに食べたっけ?』とかな」

「どんな漫画よ……っていうか、さっきから一つも知らない漫画ばかりなんだけど」

 首を傾げる舞をよそに、司会者が話し始める。

「……さて、四人にご挨拶頂きました。まずはトークショーの方を始めさせて頂きます……」

「きゃあー⁉」

 女性の悲鳴が響き、ビルの窓が割れる。舞が驚く。

「な、なに⁉」

「! あれは……」

 窓に駆け寄り、外を見下ろしたジンライが目を見開く。そこには灰色のパワードスーツに身を包んだ者が数人、茶色のパワードスーツを着た者が一人いた。茶色のスーツが叫ぶ。

「我々はドイタール帝国第十三艦隊特殊独立部隊である! 突然だがこの都市は我々の支配下とする! 無駄な抵抗はしないことだ。さもないと……」

「!」

 茶色のスーツが周囲のビルの壁や窓ガラスに銃撃を加える。群衆はパニックに陥る。

「ジ、ジンライ!」

「奴らめ……ん⁉」

「行きますよ!」

「なっ⁉」

 朱髪の男性の掛け声でシーズンズの四人が窓から勢いよく飛び出し、ジンライは驚く。
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