上 下
17 / 50
第1章

第4話(4)グレー、見参

しおりを挟む
「うおおっ!」

 エビの頭をした怪人が再び叫ぶ。

「エビ怪人さま!」

 ピンク色の全身タイツを着た戦闘員の集団が群がる。

「こ、こんなところに怪人が⁉」

「……あれも貴女の差し金どすか?」

 驚く凛の横で、心が秀に尋ねる。秀がベンチに腰かけて、首を傾げながら片手を挙げる。

「まさか。ただ、今の世の中は『戦隊ヒーロー飽和時代』、言い換えれば、『怪人・戦闘員ダブつき時代』とも言うからね……」

「初めて聞いたで、その言い換え⁉」

 躍が戸惑う。輝が口を開く。

「その点についての議論は後だ。今は奴らをなんとかしないと……凛!」

「うん、皆、変身だよ! 輝っち! 心ちゃん! 躍ん!」

「ああ!」

「ええ!」

「おっしゃ!」

 凛と輝と心と躍が、コントローラーを装着したコネクターに繋いで叫ぶ。

「「「「『コントロールOK! ゲームスタート!』」」」」

 凛と輝と心と躍が眩い光に包まれ、仮面とタイツで顔と体を覆う。

「EFシアン!」

「EFオレンジ!」

「EFパープル!」

「EFブラウン!」

「よし!」

「ふっ、またもや決まりましたなあ……」

「良かったよ! ブラウン!」

「ほ、ほうか?」

 シアンの言葉にブラウンが後頭部を抑える。

「ダンサブルな感じが出ていて良かったどすえ」

「おおきに! でもよく分かったな?」

 パープルにブラウンは礼を言いながら尋ねる。

「手足、それぞれの指先にしっかりと神経が行き届いていましたので……」

「へえ、その辺に気付くとはやるなあ……あ、シアンもパープルも良かったで」

「シアン! パープル!  ブラウン! 呑気に褒め合っている場合か!」

 オレンジが声を上げる。

「ああ、もちろん、オレンジも良かったで?」

「フォローはいい! とにかく行くぞ! シアン!」

「うん!」

 シアンたちがエビ怪人たちに迫る。

「エ、エビ怪人さま!」

「どうした⁉」

「せ、戦隊です!」

「な⁉ こんなところまで現れるとは……」

「ど、どうしますか⁉」

「慌てるな、迎撃の陣形をとれ!」

「りょ、了解!」

「……む!」

 エビ怪人が奥の方に下がり、戦闘員たちが各所の防備を固めるような陣形を取ったのが、シアンたちの目に入る。

「広い公園に散らばったな!」

「どうする⁉」

 ブラウンがオレンジに尋ねる。

「エビの怪人がトップだ。奴さえ倒せば、こいつらはあっけなく瓦解する」

「なるほど!」

「怪人は奥の方に引っ込んだようだが、さっさと追い詰めるぞ!」

「よっしゃ!」

 オレンジの言葉に応じ、シアンたちが散らばって、戦闘員たちに立ち向かう。

「悪いけど、倒させてもらうよ!」

「そうは行くか!」

「うわっ⁉」

 シアンに対し、戦闘員たちがボールを投げつける。

「どうだ!」

「そ、そこまで痛くはないけど……これじゃあ近づけない……!」

 シアンが頭部を覆いながら困惑する。

「戦闘員ども……恨みはないが、どいてもらおうか!」

 オレンジが銃を発射する。

「……!」

「なにっ⁉」

 戦闘員たちが分厚い盾を持ちだして、オレンジの射撃を防いだのである。

「ふふっ! そんなものか⁉」

「くっ……」

 オレンジは唇を噛む。

「はっ!」

「うぎゃあ!」

「それっ!」

「ぐぎゃあ!」

 パープルが赤い球体を四つ重ね、炎を発生させたり、黄色い球体を四つ重ね、雷を発生させたりして、戦闘員たちを倒していく。

「戦闘員はんたち……火傷や感電したくなければ、逃げた方がお利口さんどすえ~?」

「うぐぐ……」

「怯むな! 囲め!」

「! おおっ!」

「む⁉」

 戦闘員たちがパープルを包囲する。

「ふふっ、これだけ接近すれば、自らも燃えたり、感電する恐れがあるぞ⁉ どうする⁉」

「ふう……意外と頭が回るようどすなあ……」

 パープルがため息交じりに左手で右肘を抑え、右手を頬にあてて呟く。

「よっしゃ! 悪いけど、ちゃっちゃっと行かせてもらうで~!」

「ふん!」

「おっと!」

「むん!」

「おおっと‼」

「ぬん!」

「おおおっと⁉」

 威勢よく飛び込んできたブラウンに対し、戦闘員たちは銃や、剣、さらにはハンマーなど、様々な武器で攻撃してくる。ブラウンはそれらをなんとかかわす。

「ふふん! いつまで保つかな⁉」

「ちっ、色んな種類の攻撃でリズムが崩されてまう……!」

 ブラウンが舌打ちしながら呟く。

「苦戦しているようだね……」

 頬杖をついてその様子を見ていた秀が呟く。

「うわあっ!」

「第二段階は不合格!……と言いたいところだが……」

「うおおおっ!」

「く、くそっ!」

「……」

「ええい!」

 秀は四人の様子を見る。

「その目はまだ死んでいないようだね――もっとも目はゴーグルに覆われて見えないけど――それこそが正義の戦隊ヒーローだ!『コントロールOK! ゲームスタート!』」

 秀がコントローラーを装着したコネクターに繋いで叫と、眩い光に包まれ、仮面とタイツで顔と体を覆う。秀がポーズを取って叫ぶ。

「EFグレー、これより指揮を執る! シアン!」

「な、なに⁉」

「君はパープルのところへ! オレンジはブラウンのところへ! パープルはオレンジのところへ! ブラウンはシアンのところへ移動だ!」

「え、えっと……」

「早く!」

「りょ、了解‼」

 グレーの指示に従い、場所を移動した四人は反撃に転じる。

「接近戦ならこっちのものだよ!」

「防御一辺倒でないなら、戦いようがある!」

「分厚い盾でも、雷は防げませんやろ~?」

「どんなボールでも打ち返したらあ!」

「ぐああっ! て、撤退だあ!」

 四人に蹴散らされた戦闘員たちはたまらず撤退する。

「ま、待て! お前ら! ……ちっ、俺も公園の水路を辿って逃げるか! それっ! ⁉」

「……そうはさせないよ」

 グレーの振るった鞭がエビ怪人の体に巻き付いて、動きの自由を奪う。

「し、しまった!」

「君はここで終わりだ!」

「ぐはっ……!」

 グレーがエビ怪人を思い切り地面に叩きつけ、沈黙させる。

「ふっ、ざっとこんなものさ……」

「あ、ありがとう、グレー、お陰で勝てたよ! ねえ、オレンジ?」

「ああ、見事な指揮だった」

「変化する戦況を冷静に見極め、的確な指示を出す……さすがはRTS(リアルタイムストラテジー)の名手どすなあ……」

「上から目線だったかな?」

「ええ、かなりの」

「ははっ……」

「ふふっ……」

「いや、目線見えへんやん」

 笑い合うパープルとグレーにブラウンが冷静に突っ込みを入れる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

泥々の川

フロイライン
恋愛
昭和四十九年大阪 中学三年の友谷袮留は、劣悪な家庭環境の中にありながら前向きに生きていた。 しかし、ろくでなしの父親誠の犠牲となり、ささやかな幸せさえも奪われてしまう。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

有毒ツインズ

霧江サネヒサ
キャラ文芸
人殺しの愛坂兄弟は、似ているようで似ていなくて、少し似ている? あなたは、どちらに殺されたい?

SM女王様とパパラッチ/どキンキーな仲間達の冒険物語 Paparazzi killing demons

二市アキラ(フタツシ アキラ)
キャラ文芸
SM女王様とパパラッチ/どキンキーな仲間達の冒険物語(Paparazzi killing demons)。 霊能のある若手カメラマンと、姉御ニューハーフと彼女が所属するSMクラブの仲間達が繰り広げる悪霊退治と撮影四方山話。

処理中です...