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第1章

第5話(1)真面目と馬鹿

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「しかし、この腕輪には驚かされました……」

 金沢基地の敷地内を歩きながら、大海は腕輪をまじまじと見つめる。

「本当よね~」

 隣を歩く月も同調する。

「連携攻撃や連続攻撃の類ならば、訓練や演習でも行ってきましたが……」

「ツインアタックなんてまるで想像も出来ないわよね~」

「いや、まったく……」

 大海が頷く。

「これに慣れるのは時間がかかりそうね~」

 月も自らに渡された腕輪を取り出して、見つめる。

「いや、慣れるというよりもですね……」

「え?」

「まず覚えなくては……いやいや、その前にある程度の予測を立てなければならないのではないですか?」

「そうか、共振する相手によって、能力や戦い方が変わってくるんだっけ?」

「先日の立山での感じではどうやらそのようですね……」

 月の問いに大海は答える。

「つまり……共振相手の能力などを頭に入れておかないといけないってことね?」

「そうでしょうね」

「う~ん、それはちょっとメンドイな~」

 月が苦笑する。

「オイラは歓迎だぜ」

 大海たちが振り返ると、慶が立っていた。

「あ、古前田隊員、いたんですね……」

「おいおい、月ちゃん、それはないぜ~」

「……行きましょう、大海」

 月が歩みを速める。

「いやいや、なんだか冷たくね?」

「気のせいですよ」

「月ちゃん呼びが気に障ったかい?」

「……」

「慶ちゃんって呼んでいいんだぜ?」

「慶ちゃん隊員」

「いや、お前が呼ぶのかよ!」

 慶が大海につっこむ。

「歓迎とはどういう意味ですか?」

「ん? ああ……確かにこの腕輪は扱うのが面倒そうな代物ではあるが、要は強力な攻撃を繰り出すことが出来るんだろ? まだるっこしいコンビネーションを磨くよりかは、よっぽどオイラの性に合っていると思ってな」

「なるほど……ですが」

「ですが?」

「コンビネーションに関する訓練を怠ってはならないと考えます」

「真面目だねえ……」

「息を合わせる、意思を統一する類のものですから、コンビネーションが基本になってきます。基本は何事においても大事です」

「ああ~分かったよ、お前さんが全面的に正しい」

 慶がわざとらしく両手を挙げる。

「ご理解頂けてなによりです、慶ちゃん隊員」

「……お前は慶って呼んで良いよ」

「そうですか?」

「ああ、野郎にちゃん付けされるとか、鳥肌もんだ……」

「そうですか……」

「その代わり、オイラも大海って呼ぶぜ。良いよな?」

「ええ、それは構いません」

「……貴様ら、ちょっといいか?」

 くわえタバコをした女性が三人に声をかける。振り返った慶が口笛を鳴らす。

「~~♪ おおっ、いい女……」

「バカ慶!」

「おおいっ⁉ 月ちゃん、バカは酷いんじゃねえか? 親しき仲にもなんとやらだぜ……」

「よく見て!」

「うん? ……あ、ああ⁉ その北陸一、くわえタバコがよく似合うクールビューティーっぷりは! 福井管区の三丸隊長⁉」

「……人をなにで判断しているんだ貴様は。しかも北陸一って……限定的だな」

 三丸が呆れ気味に慶を見つめる。

「い、いや……」

「基地内は基本禁煙ですよ」

「う、うおい⁉ 大海!」

 慶が大海の言葉に驚く。大海がその様子を見て、首を傾げる。

「慶、何を驚いているのですか?」

「お前の空気の読めなさにだよ!」

「空気は吸うものです」

「状況を察しろ!」

「察した上で、ご注意申し上げたのです」

「バカ真面目か!」

「真面目であろうと努めていますが、バカは少々心外です」

 大海は眉をわずかに動かす。どうやらムッとしているようだ。

「あ~もう!」

「……坊主、ちょっと黙れ」

「は、はい!」

「どこもかしこもうるさいが……貴様が正しいな」

 三丸が笑ってタバコをしまう。

「生意気なことを申し上げました」

 大海が頭を下げる。三丸が片手を挙げる。

「別に構わんさ……」

「はっ! ふ、二人とも敬礼よ!」

「!」

「おっと!」

 月に促され、大海と慶が三丸に向かって慌てて敬礼する。

「失礼しました!」

 大海が声を上げる。三丸が軽く手を左右に振る。

「敬礼などいらん……楽にしろ」

「はっ‼」

「はっ!」

「ははあっ!」

 三丸の言葉に従い、大海たちは敬礼を解く。

「意外と硬い連中だな……自分にない部分を補った人選か?」

 大海たちを見て、三丸がボソッと呟く。

「え?」

 月が首を傾げる。三丸が小さく首を振る。

「いや、なんでもない……それよりも貴様ら、あの馬鹿はどこだ?」

「え……」

 三丸の問いに月が戸惑いながら慶を指し示す。慶が声を上げる。

「いや、だから酷くない⁉」

「その馬鹿ではない」

「酷い!」

「馬鹿、もとい……夜塚の奴はどこにいる?」

 三丸は再度問う。
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