上 下
11 / 21
第一章

第3話(2)将棋バトル

しおりを挟む
「……」

「………」

 リビングのソファーで竜子がスマホとにらめっこし、それを太郎が横から覗いている。

「あれからしばらく経ったけど……すっかり大人しくなったわね……」

「ああ、助かったよ……」

 ママに話しかけられ、パパは笑顔を見せる。

「助かった?」

「そう」

「それはお財布的に?」

「それもあるけれど……精神的にさ」

 パパが胸に手を当てる。

「精神的に?」

 ママが首を捻る。

「うん……将棋道場ってなんだか独特な雰囲気があるから……緊張しちゃうんだよね。あれをほぼ毎日味わえとか言われたら……」

「こっちの身がもたないって?」

「そういうこと」

 パパが苦笑交じりに首をすくめる。

「……その道場の雰囲気に呑まれなかった竜子ちゃんはすごいわね」

「本当だよね」

「これは……」

「え?」

「ひょっとすると、ひょっとするかも……」

 ママが顎に手を当てる。

「い、いや、それはさすがに……」

「さすがに?」

「親バカが過ぎるんじゃないかな?」

 パパが苦笑する。

「あら、分からないじゃない。伊吹さんの娘さん相手にもいい勝負したんでしょ?」

「ああ、あれはね……」

「あれは?」

「いわゆるビギナーズラックみたいなものだったんじゃないかな?」

「ビギナーズラック?」

「うん」

 パパが頷く。

「どうして?」

「いや、将棋バトルを始めてから、対局を何局か見たけれど……」

「けれど?」

「全部負けていたよ……」

 パパが小声で呟く。

「あら、そうなの?」

 ママが意外そうにする。

「うん……」

「人気ゲームだけあって強い人が集まっているのね……」

「まあ、それもあるとは思うけれど……」

「なに?」

「単純に棋力不足なんだと思うよ」

「きりょく?」

「ああ、将棋の力のことだよ」

「ふ~ん……」

「そんなに甘くはないってことだよ……」

「……対戦相手が大人なんじゃないの?」

「それもあり得るけれど、基本的には初心者は初心者同士でマッチングするようになっているからね……」

「あ、そう……」

「そうだよ」

「そのわりには……」

「うん?」

「熱中しているようだけれど……」

 ママが竜子の様子を伺う。

「それは……確かにそうだね」

 パパが竜子の方を見ながら同意する。

「負けているのに楽しいのかしら?」

「う~ん……なんにせよ」

 パパがママの方に視線を戻す。

「なんにせよ?」

「打ち込めるものが出来たのは良いことなんじゃないかな」

「……ちょっとお手洗いに行ってくるのじゃ」

 竜子がソファーから離れる。

「マ、ママ!」

 太郎がスマホを持ってママたちの方に寄ってくる。

「どうかしたの?」

「ついでにパパ!」

「つ、ついでって⁉」

「こ、これ見て!」

 太郎がスマホの画面をママたちに見せる。

「! こ、これは⁉ ……どういうこと?」

「あ、あらら!」

「い、いや、リアクションおかしいから!」

 首を傾げるママに太郎とパパが思わずズッコケる。

「だって分からないんだもの」

「将棋バトル初段だよ!」

 太郎が声を上げる。

「こ、この短期間でもう初段に達するとは……」

 パパが口元を抑える。

「それってすごいの?」

「将棋バトル初段ってことは、現実でも大体アマチュア初段くらいの実力はあるっていうことだよ」

「へえ……」

 ママが感心する。

「で、でも、最初は負けっぱなしだったじゃないか……ちょっと貸してごらん……こ、この通算成績は⁉ 大幅に勝ち越している⁉」

「う、うん……」

「どういうことだい、太郎?」

「さ、最初は色々な戦法とかを手当たり次第に試していたみたいで……しばらくしたら、『ふむ、大体分かったのじゃ……』とか言って、そこから怒涛の如く勝ち始めて……」

「なっ……」

「……ひょっとするんじゃないの?」

 唖然とするパパを見ながら、ママが笑みを浮かべる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

泥々の川

フロイライン
恋愛
昭和四十九年大阪 中学三年の友谷袮留は、劣悪な家庭環境の中にありながら前向きに生きていた。 しかし、ろくでなしの父親誠の犠牲となり、ささやかな幸せさえも奪われてしまう。

疾れイグニース!

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 【#週刊少年マガジン原作大賞 奨励賞受賞作品】    世界中で広く行われている、騎手の乗ったドラゴンにより競われる競争競技『ドラゴンレーシング』。極東の島国、ジパング国でも『競竜』として、大衆に古くから親しまれている。  祖父の遺した小さな牧場『紅蓮牧場』を守る為、紅蓮炎仁は牧場に残ったただ一頭の競争竜『イグニース』号とともに、競竜界に飛び込んでいく。  人とドラゴンの熱血青春スポ根ストーリー、ここに出走!

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

千変万化のアングラーズ

かにサーモン
キャラ文芸
 北国で渓流釣りを嗜む少年、流渓太。高校卒業まで残り半年となったのにも関わらず、未だに進路が決まってない。  日課の釣りを終え、家に戻ると見知らぬ男が……その男の名は、相沢魚影!彼はパンフレットを手渡す。『フィッシングアカデミア』……!なんと、釣り専門学校のものだ!    これは様々な魚種が生息する島で、互いの知識と技術を駆使し、衝突し、高め合い釣り人(アングラー)として成長していく物語だ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...