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第一章
第10レース(3)交流レースに向けて
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「さて、今日は大事な話があるよ……」
12月もいよいよ残り後数日に迫ったある日、仏坂がいつになく真面目なトーンで話し始める。皆も緊張感を感じ、無言で聞いている……一人を除いて。
「zzz……」
「天ノ川君が寝ています」
「……起こしてくれる?」
「……」
海は端末を天ノ川の耳元に近づける。
「うわっ⁉」
翔が跳ね起きる。青空が驚く。
「おおっすげえな! 今までバイクの爆音とか聞かせても効果なかったのに!」
「天ノ川君、一体何を聞いたのですか?」
飛鳥の問いに翔が小さく震えながら答える。
「い、いや、思い出したくもないよ……」
「すっかり怯えている……」
「何を聞かせたんだよ?」
レオンが怪訝そうな目を海に向け、嵐一が首を傾げる。
「それは秘密です……」
「海ちゃんだけは敵にまわしたくない……」
「全くだな……」
真帆の言葉に炎仁が頷く。仏坂が咳払いを一つして、説明を再開する。
「年明けの1月7日、阪神レース場で『交流レース』が行われる。関東関西の両競竜学校の通常コース受講の三年生と短期コース受講の学生はよほどのことがなければ全員参加してもらう。さらに、各地方競竜学校の学生も何人かがゲストとして参加する」
「……」
「レースは全部で8レース、出走に関しては牝竜限定競争が一つあるが、それ以外の7レースに特に指定はない。一人で戦うも集団で戦うも自由だ」
「集団で戦う?」
炎仁が首を傾げる。仏坂は説明を続ける。
「少し言い方は良くないかもしれないが、例えば逃げ竜を捨て駒として、目茶苦茶なハイペースで逃がし、そのレースの本命竜を二、三頭でブロック、自分のペースに持ち込んだこちらのエースが確実に一着を狙う……とかね」
「ルール違反というわけではないのですね」
海が尋ねる。仏坂が答える。
「明らかな妨害行為など見られなければね。まあ、これは一つの考え方だ」
「例えば、Cクラスを二チーム四頭ずつに分けて、今おっしゃったような戦法を実行すれば、8レース中、2レースを勝てる可能性が高くなりますわね」
飛鳥が顎に手をやりながら呟く。仏坂が頷く。
「そういうことになるね」
「ただ、それだと……」
「ん? なんだい、紅蓮君?」
「勝った二人しか合格の可能性が高まりませんよね?」
「レース内容にもよるけど、今言ったようなレース運びだったら、そうなるね」
「だったら、俺はその作戦には乗れません。ここまで来たんだ、このCクラス全員が合格する可能性に賭けたい!」
「炎仁……」
翔が炎仁の方に振り返る。炎仁は苦笑いを浮かべる。
「分かっているよ、翔。甘いって言うんだろ?」
「いいや、僕も君と同じ考えだ」
「!」
翔の言葉に炎仁だけでなく、皆も驚く。翔は仏坂の方に向き直って告げる。
「策を弄し過ぎてもよくないと思います……幸か不幸か、このCクラスの注目度は関西の方ではさほど高くはありません。先の東京レース場での模擬レースも展開がハマっただけのまぐれ勝ちと評価する向きもある。つまり、全国的に見て……僕らは相変わらず『崖っぷち』の集まりに過ぎないということです」
「げ、現実は厳しいなあ……」
翔の説明にレオンが嘆く。それに構わず翔が説明を続ける。
「レース予想風に照らし合わせてみたら、僕らは『×(大穴)』か『☆(穴)』、せいぜい『注(注意)』と言ったところでしょう。1レースに何頭出るのかが今のところわかりませんが、せいぜい5~7番人気と言った所でしょうか」
「……下位の方ですね」
「間違っても上位ではないってことか」
海の言葉に青空が笑う。
「『崖っぷち』クラスだからな、大方そんなもんだろう」
嵐一も自嘲気味に笑う。翔が再び口を開く。
「僕らに出来ることは大穴竜として、文字通りレースに大穴をあけることです」
「それってつまり……」
真帆の言葉に翔が頷く。
「8レースそれぞれに一人と一頭が出走、各自好走して存在感を示すんだ! 君もそういう考えだろう炎仁?」
「ああ、俺たちのそれぞれ培ってきたものをぶつけるんだ!」
「……つまり、1レースに一人ずつエントリーということでいいんだね?」
「はい!」
全員が元気よく答える。仏坂は満足気に頷く。
「では芝が4レース、ダートが4レースだけど……」
「ちょっとよろしいですか?」
「ん? どうしたの、三日月さん?」
「私たちが勝利を目指す上で最大の障害になるのは関西競竜学校Aクラスの方々ですよね? 色々と因縁のある方もいると思いますし……」
「あ、ああ、それもそうだね……」
「相手のデータ等も踏まえて、各々出走するレースを決めても良いですか?」
「それは構わないけど、相手のデータなんかあるのかい?」
「独自のルートで入手しました」
「な、なんのルートかは聞かないでおくよ……」
眼鏡をキラッと光らせる海に対し、仏坂は苦笑を浮かべる。海が教室の前に進み出て、モニターに様々な映像データを表示させる。
「ではまず……ダート1800mですが、金糸雀君にお願いしたいのですが」
「えっ⁉ ジョーヌエクレールがダートか、走れなくはないと思うけど……」
「阪神のダート1800は逃げが有利だ。ハイペースで行って構わないと思うよ」
「教官がそう言うなら……でも正直ちょっと不安だな~」
レオンが不安そうに頷く。海が補足する。
「ちなみに関西はこの方がエントリーしています」
「え? TDLでブレイクダンスしていた気弱なマッチョさん⁉」
モニターに映った男性と檸檬色の竜体のドラゴンを見て、レオンは驚く。
「この方は安寧乱舞(あんねいらんぶ)さん、和歌山県出身の18歳。騎乗するドラゴンは『ブトウカイノハシャ』。巧みなステップワークで竜群を捌くのに定評があります」
「ドラゴンはなかなか良さげだけど、この人自身は体格に似合わず、なんだか気弱そうだったしな~うん、勝てそうな気がしてきたよ!」
「調子の良い奴だな……」
途端に強気になるレオンに嵐一が苦笑する。
「では、牝竜限定の芝2200mは私とミカヅキルナマリアが出走します」
「うん、逃げが有利とは言えないけど、ここは三日月さんに任せよう」
仏坂の言葉に海が頷く。
「ちなみに関西からはこの方が出走予定です」
「おっ、この間TDLで会った、派手な姉ちゃんじゃん!」
モニターを見て、青空が驚きの声を上げる。真帆が首を傾げる。
「この人、美人さんですね……どこかで見たことあるような……」
「桜花華恋(おうかかれん)さん、兵庫県出身の17歳、某有名歌劇団を退団され、ジョッキーを目指している異色の経歴の持ち主です」
「ああ、だから見たことがあったんだ」
「私はそちらには疎いので気付きませんでした……それはともかくとして、騎乗するドラゴンは桜色の竜体が特徴的なこの『トキメキエンプレス』、なんというか……華のある走りが印象的ですね」
「対策はあるのかしら?」
「派手さに惑わされず、あくまで堅実にレースを進めようと思っています」
飛鳥の問いに海は淡々と答える。飛鳥は笑う。
「三日月さんらしいお答えですわね」
「次はダート1400mですが……朝日さんにお願いしようかと……」
「アタシか? ダート?」
「ダート1400は意外と追い込みが来る、サンシャインノヴァの爆発力は面白いよ」
「教官が言うなら、それに乗っかるぜ。で、どいつを〆れば良い?」
青空が指の骨をポキポキと鳴らす。
「関西はこの方です」
モニターに黒髪短髪で、布で顔を半分隠した女性が映る。
「⁉ こいつもこないだTDLで会ったやつじゃねえか!」
「蛇尾(だび)ゆとりさん、三重県出身の15歳、本物のくのいちです」
「い、いや、くのいちって……」
「真帆、いいからそういうことにしておけ……」
青空が真帆を制す。海が説明を続ける。モニターに銀色の竜体が映る。
「騎乗するドラゴンは『メタリッククノイチ』、道中で存在感を消したかのように見せる走りが印象的ですね」
「そ、それは……消えるってこと?」
「金糸雀、そんなわけねえだろうが……アタシは後方待機型だから、後ろからは全部丸見えだっつーの。落ち着いて対処すれば問題は無えよ」
レオンの疑問に青空は呆れ気味に答える。
「……ダート2000mは草薙さんとアラクレノブシでお願いします」
「そうだね、力強さが求められるコースだし、草薙君が適任だろうね」
仏坂がうんうんと頷く。嵐一が尋ねる。
「関西は誰が出るんだ?」
「この方です」
「⁉ こいつは……TDLで会った坊主?」
「鳳凰院金剛(ほうおういんこんごう)さん。奈良県出身の16歳。騎乗するドラゴンは『サイキョウベンケイ』、大きい竜体をしています。道中のポジション取りで負けないように……」
「心配すんな、その辺で後れをとるつもりは無えよ」
「頼もしい限りですわね」
嵐一の言葉に飛鳥は笑みを浮かべる。
「芝1600mですが、天ノ川君とステラヴィオラにお願いしたいのですが……」
「果たして適正距離かなって気もするんだけどね」
仏坂が首を捻る。やや間を置いて翔が口を開く。
「……十分適応出来ますよ。それに……あいつが出てくるんでしょ?」
「ええ、天ノ川渡さんとステラネーロがエントリーしています。夏合宿での因縁を抜きにしても、勝負出来るのはやはり天ノ川君かと……」
「あいつに勝てるのは僕くらいだろうね~」
「大した自信ですわね。夏は結構な差があったように見えましたが?」
「僕は同じ相手に二度は負けないよ」
飛鳥の問いに対し、翔ははっきりと断言する。青空が口笛を鳴らす。
「おお~言うねえ~」
「芝2400mは撫子さんとナデシコハナザカリにお願いします」
「ラストの直線勝負になりがちだからね。撫子さんのペース配分に期待するよ」
「お任せ下さい」
海と仏坂に向かって飛鳥は力強く頷く。真帆が海に問う。
「ということは、関西の方は……」
「ええ、撫子グレイスさんとナデシコフルブルムが出てきます」
「天ノ川の心配をしている場合じゃねえんじゃねえか?」
嵐一がからかい気味に声をかける。
「わたくしは撫子家で一番、つまりジパングナンバーワンを目指しておりますの。これしきの壁、なんてことありません。軽々と乗り越えてみせます」
「す、凄い自信だ……」
レオンが感心する。
「ダート1200mは真帆さんとコンペキノアクアにお願いしたいと思います」
「ダートですか……」
「阪神のダート短距離は先行が有利だ、紺碧さんで良いと思うよ」
「教官がそうおっしゃるなら、それを信じるだけです」
「ちなみに関西はこの方、火柱ほむらさんとマキシマムフレイム、追い込みの脚に注意して下さい」
「あの威圧感は本当に凄かったです……」
「なんだよ、ビビッてんのか?」
青空の問いに真帆は首を左右に振る。
「いいえ、夏に対戦出来たことである程度のイメージは持てていますから、過度に恐れてはいません」
「流石、前向きですね」
真帆の言葉に海も満足そうに頷く。
「対戦を組んだ甲斐があったかな?」
仏坂も笑みを浮かべる。
「最後に芝2000m、炎仁君とグレンノイグニースにお願いします」
「ああ!」
「差しが決まりやすいコースだ。自信を持って大丈夫だよ」
「はい!」
仏坂の言葉に炎仁が力強く頷く。海が補足する。
「関西はこの方です。疾風轟さんとハヤテウェントゥス」
モニターに夏合宿で苦杯を舐めた相手が映し出される。
「炎仁、まさか、同じ相手に二度負けないよね?」
「もちろんだ、翔!」
「俺らの借りもまとめて返してくれよ」
「そのつもりだ、嵐一!」
「頼むよ、炎仁!」
「任せろ、レオン!」
「マイダーリン、一着でわたくしの元まで駆け抜けてくれるのを願っていますわ」
「ああ、期待していてくれ、飛鳥さん!」
「炎仁君、必ず勝って、私とのラブデータを解析して下さい」
「ああ、見守っていてくれ、海さん!」
「炎仁、熱いレースでアタシの心にも火を付けてくれよ」
「ああ、待っていてくれ、青空!」
「ちょ、ちょっと、女子陣、激励のベクトルおかしくないですか⁉」
真帆が声を上げる。女子三人が顔を見合わせる。
「なにかおかしいことがありまして?」
「いいえ……」
「別に?」
「ま、まあ、今は良いでしょう……炎ちゃん、必ず勝ってね!」
「ああ、勝利を願っていてくれ、真帆!」
炎仁は力強く声を上げる。
12月もいよいよ残り後数日に迫ったある日、仏坂がいつになく真面目なトーンで話し始める。皆も緊張感を感じ、無言で聞いている……一人を除いて。
「zzz……」
「天ノ川君が寝ています」
「……起こしてくれる?」
「……」
海は端末を天ノ川の耳元に近づける。
「うわっ⁉」
翔が跳ね起きる。青空が驚く。
「おおっすげえな! 今までバイクの爆音とか聞かせても効果なかったのに!」
「天ノ川君、一体何を聞いたのですか?」
飛鳥の問いに翔が小さく震えながら答える。
「い、いや、思い出したくもないよ……」
「すっかり怯えている……」
「何を聞かせたんだよ?」
レオンが怪訝そうな目を海に向け、嵐一が首を傾げる。
「それは秘密です……」
「海ちゃんだけは敵にまわしたくない……」
「全くだな……」
真帆の言葉に炎仁が頷く。仏坂が咳払いを一つして、説明を再開する。
「年明けの1月7日、阪神レース場で『交流レース』が行われる。関東関西の両競竜学校の通常コース受講の三年生と短期コース受講の学生はよほどのことがなければ全員参加してもらう。さらに、各地方競竜学校の学生も何人かがゲストとして参加する」
「……」
「レースは全部で8レース、出走に関しては牝竜限定競争が一つあるが、それ以外の7レースに特に指定はない。一人で戦うも集団で戦うも自由だ」
「集団で戦う?」
炎仁が首を傾げる。仏坂は説明を続ける。
「少し言い方は良くないかもしれないが、例えば逃げ竜を捨て駒として、目茶苦茶なハイペースで逃がし、そのレースの本命竜を二、三頭でブロック、自分のペースに持ち込んだこちらのエースが確実に一着を狙う……とかね」
「ルール違反というわけではないのですね」
海が尋ねる。仏坂が答える。
「明らかな妨害行為など見られなければね。まあ、これは一つの考え方だ」
「例えば、Cクラスを二チーム四頭ずつに分けて、今おっしゃったような戦法を実行すれば、8レース中、2レースを勝てる可能性が高くなりますわね」
飛鳥が顎に手をやりながら呟く。仏坂が頷く。
「そういうことになるね」
「ただ、それだと……」
「ん? なんだい、紅蓮君?」
「勝った二人しか合格の可能性が高まりませんよね?」
「レース内容にもよるけど、今言ったようなレース運びだったら、そうなるね」
「だったら、俺はその作戦には乗れません。ここまで来たんだ、このCクラス全員が合格する可能性に賭けたい!」
「炎仁……」
翔が炎仁の方に振り返る。炎仁は苦笑いを浮かべる。
「分かっているよ、翔。甘いって言うんだろ?」
「いいや、僕も君と同じ考えだ」
「!」
翔の言葉に炎仁だけでなく、皆も驚く。翔は仏坂の方に向き直って告げる。
「策を弄し過ぎてもよくないと思います……幸か不幸か、このCクラスの注目度は関西の方ではさほど高くはありません。先の東京レース場での模擬レースも展開がハマっただけのまぐれ勝ちと評価する向きもある。つまり、全国的に見て……僕らは相変わらず『崖っぷち』の集まりに過ぎないということです」
「げ、現実は厳しいなあ……」
翔の説明にレオンが嘆く。それに構わず翔が説明を続ける。
「レース予想風に照らし合わせてみたら、僕らは『×(大穴)』か『☆(穴)』、せいぜい『注(注意)』と言ったところでしょう。1レースに何頭出るのかが今のところわかりませんが、せいぜい5~7番人気と言った所でしょうか」
「……下位の方ですね」
「間違っても上位ではないってことか」
海の言葉に青空が笑う。
「『崖っぷち』クラスだからな、大方そんなもんだろう」
嵐一も自嘲気味に笑う。翔が再び口を開く。
「僕らに出来ることは大穴竜として、文字通りレースに大穴をあけることです」
「それってつまり……」
真帆の言葉に翔が頷く。
「8レースそれぞれに一人と一頭が出走、各自好走して存在感を示すんだ! 君もそういう考えだろう炎仁?」
「ああ、俺たちのそれぞれ培ってきたものをぶつけるんだ!」
「……つまり、1レースに一人ずつエントリーということでいいんだね?」
「はい!」
全員が元気よく答える。仏坂は満足気に頷く。
「では芝が4レース、ダートが4レースだけど……」
「ちょっとよろしいですか?」
「ん? どうしたの、三日月さん?」
「私たちが勝利を目指す上で最大の障害になるのは関西競竜学校Aクラスの方々ですよね? 色々と因縁のある方もいると思いますし……」
「あ、ああ、それもそうだね……」
「相手のデータ等も踏まえて、各々出走するレースを決めても良いですか?」
「それは構わないけど、相手のデータなんかあるのかい?」
「独自のルートで入手しました」
「な、なんのルートかは聞かないでおくよ……」
眼鏡をキラッと光らせる海に対し、仏坂は苦笑を浮かべる。海が教室の前に進み出て、モニターに様々な映像データを表示させる。
「ではまず……ダート1800mですが、金糸雀君にお願いしたいのですが」
「えっ⁉ ジョーヌエクレールがダートか、走れなくはないと思うけど……」
「阪神のダート1800は逃げが有利だ。ハイペースで行って構わないと思うよ」
「教官がそう言うなら……でも正直ちょっと不安だな~」
レオンが不安そうに頷く。海が補足する。
「ちなみに関西はこの方がエントリーしています」
「え? TDLでブレイクダンスしていた気弱なマッチョさん⁉」
モニターに映った男性と檸檬色の竜体のドラゴンを見て、レオンは驚く。
「この方は安寧乱舞(あんねいらんぶ)さん、和歌山県出身の18歳。騎乗するドラゴンは『ブトウカイノハシャ』。巧みなステップワークで竜群を捌くのに定評があります」
「ドラゴンはなかなか良さげだけど、この人自身は体格に似合わず、なんだか気弱そうだったしな~うん、勝てそうな気がしてきたよ!」
「調子の良い奴だな……」
途端に強気になるレオンに嵐一が苦笑する。
「では、牝竜限定の芝2200mは私とミカヅキルナマリアが出走します」
「うん、逃げが有利とは言えないけど、ここは三日月さんに任せよう」
仏坂の言葉に海が頷く。
「ちなみに関西からはこの方が出走予定です」
「おっ、この間TDLで会った、派手な姉ちゃんじゃん!」
モニターを見て、青空が驚きの声を上げる。真帆が首を傾げる。
「この人、美人さんですね……どこかで見たことあるような……」
「桜花華恋(おうかかれん)さん、兵庫県出身の17歳、某有名歌劇団を退団され、ジョッキーを目指している異色の経歴の持ち主です」
「ああ、だから見たことがあったんだ」
「私はそちらには疎いので気付きませんでした……それはともかくとして、騎乗するドラゴンは桜色の竜体が特徴的なこの『トキメキエンプレス』、なんというか……華のある走りが印象的ですね」
「対策はあるのかしら?」
「派手さに惑わされず、あくまで堅実にレースを進めようと思っています」
飛鳥の問いに海は淡々と答える。飛鳥は笑う。
「三日月さんらしいお答えですわね」
「次はダート1400mですが……朝日さんにお願いしようかと……」
「アタシか? ダート?」
「ダート1400は意外と追い込みが来る、サンシャインノヴァの爆発力は面白いよ」
「教官が言うなら、それに乗っかるぜ。で、どいつを〆れば良い?」
青空が指の骨をポキポキと鳴らす。
「関西はこの方です」
モニターに黒髪短髪で、布で顔を半分隠した女性が映る。
「⁉ こいつもこないだTDLで会ったやつじゃねえか!」
「蛇尾(だび)ゆとりさん、三重県出身の15歳、本物のくのいちです」
「い、いや、くのいちって……」
「真帆、いいからそういうことにしておけ……」
青空が真帆を制す。海が説明を続ける。モニターに銀色の竜体が映る。
「騎乗するドラゴンは『メタリッククノイチ』、道中で存在感を消したかのように見せる走りが印象的ですね」
「そ、それは……消えるってこと?」
「金糸雀、そんなわけねえだろうが……アタシは後方待機型だから、後ろからは全部丸見えだっつーの。落ち着いて対処すれば問題は無えよ」
レオンの疑問に青空は呆れ気味に答える。
「……ダート2000mは草薙さんとアラクレノブシでお願いします」
「そうだね、力強さが求められるコースだし、草薙君が適任だろうね」
仏坂がうんうんと頷く。嵐一が尋ねる。
「関西は誰が出るんだ?」
「この方です」
「⁉ こいつは……TDLで会った坊主?」
「鳳凰院金剛(ほうおういんこんごう)さん。奈良県出身の16歳。騎乗するドラゴンは『サイキョウベンケイ』、大きい竜体をしています。道中のポジション取りで負けないように……」
「心配すんな、その辺で後れをとるつもりは無えよ」
「頼もしい限りですわね」
嵐一の言葉に飛鳥は笑みを浮かべる。
「芝1600mですが、天ノ川君とステラヴィオラにお願いしたいのですが……」
「果たして適正距離かなって気もするんだけどね」
仏坂が首を捻る。やや間を置いて翔が口を開く。
「……十分適応出来ますよ。それに……あいつが出てくるんでしょ?」
「ええ、天ノ川渡さんとステラネーロがエントリーしています。夏合宿での因縁を抜きにしても、勝負出来るのはやはり天ノ川君かと……」
「あいつに勝てるのは僕くらいだろうね~」
「大した自信ですわね。夏は結構な差があったように見えましたが?」
「僕は同じ相手に二度は負けないよ」
飛鳥の問いに対し、翔ははっきりと断言する。青空が口笛を鳴らす。
「おお~言うねえ~」
「芝2400mは撫子さんとナデシコハナザカリにお願いします」
「ラストの直線勝負になりがちだからね。撫子さんのペース配分に期待するよ」
「お任せ下さい」
海と仏坂に向かって飛鳥は力強く頷く。真帆が海に問う。
「ということは、関西の方は……」
「ええ、撫子グレイスさんとナデシコフルブルムが出てきます」
「天ノ川の心配をしている場合じゃねえんじゃねえか?」
嵐一がからかい気味に声をかける。
「わたくしは撫子家で一番、つまりジパングナンバーワンを目指しておりますの。これしきの壁、なんてことありません。軽々と乗り越えてみせます」
「す、凄い自信だ……」
レオンが感心する。
「ダート1200mは真帆さんとコンペキノアクアにお願いしたいと思います」
「ダートですか……」
「阪神のダート短距離は先行が有利だ、紺碧さんで良いと思うよ」
「教官がそうおっしゃるなら、それを信じるだけです」
「ちなみに関西はこの方、火柱ほむらさんとマキシマムフレイム、追い込みの脚に注意して下さい」
「あの威圧感は本当に凄かったです……」
「なんだよ、ビビッてんのか?」
青空の問いに真帆は首を左右に振る。
「いいえ、夏に対戦出来たことである程度のイメージは持てていますから、過度に恐れてはいません」
「流石、前向きですね」
真帆の言葉に海も満足そうに頷く。
「対戦を組んだ甲斐があったかな?」
仏坂も笑みを浮かべる。
「最後に芝2000m、炎仁君とグレンノイグニースにお願いします」
「ああ!」
「差しが決まりやすいコースだ。自信を持って大丈夫だよ」
「はい!」
仏坂の言葉に炎仁が力強く頷く。海が補足する。
「関西はこの方です。疾風轟さんとハヤテウェントゥス」
モニターに夏合宿で苦杯を舐めた相手が映し出される。
「炎仁、まさか、同じ相手に二度負けないよね?」
「もちろんだ、翔!」
「俺らの借りもまとめて返してくれよ」
「そのつもりだ、嵐一!」
「頼むよ、炎仁!」
「任せろ、レオン!」
「マイダーリン、一着でわたくしの元まで駆け抜けてくれるのを願っていますわ」
「ああ、期待していてくれ、飛鳥さん!」
「炎仁君、必ず勝って、私とのラブデータを解析して下さい」
「ああ、見守っていてくれ、海さん!」
「炎仁、熱いレースでアタシの心にも火を付けてくれよ」
「ああ、待っていてくれ、青空!」
「ちょ、ちょっと、女子陣、激励のベクトルおかしくないですか⁉」
真帆が声を上げる。女子三人が顔を見合わせる。
「なにかおかしいことがありまして?」
「いいえ……」
「別に?」
「ま、まあ、今は良いでしょう……炎ちゃん、必ず勝ってね!」
「ああ、勝利を願っていてくれ、真帆!」
炎仁は力強く声を上げる。
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