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第一章
第4レース(3)トラブルメーカー
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「ああ! もう!」
鏡の前で飛鳥が苛立った声を上げる。隣に立つ青空が眠い目を擦りながら尋ねる。
「んだよ……うるせえなあ、朝からなにをイライラしてんだよ……?」
「また目覚ましが鳴らなかったのです!」
「目覚まし?」
「そうです、目覚まし時計! わたくし朝は弱いから、必ず起きることが出来るようにセットしておいたのに……また作動しませんでしたわ! 不良品かしら?」
飛鳥が憤慨した様子で歯を磨き、口をゆすごうと水を含む。
「ああ、悪い、それ、アタシが壊したわ」
「ぶふっ!」
「うわ、汚ねえなあ! こっち向いて水吐くなよ!」
「……壊した?」
「え? ああ、音があまりにうるせえからよ。こうガンっと叩いて……」
しばらくの間、沈黙が流れる。そのころコースでは……。
「えっと、Cクラス全員揃ったかな、クラス長?」
「……クラス長を拝命した覚えが全くないのですが」
仏坂の問いに海が眼鏡を触りながら不服そうに答える。
「いや~なんだかんだ一番真面目そうだからさ」
「異議なし!」
レオンが拍手する。皆もそれにつられて拍手する。海はため息をつく。
「私が異議ありなのですが……これも経験です。クラス長のお役目承ります」
「さすが! 頼もしい!」
「……例えば副クラス長を私が決めても良いですか?」
「あ、ああ、それは構わないよ。誰にする?」
海は周囲を見渡した後、呟く。
「……その件に関しては保留とさせて頂きます」
「あ、そう……ま、いいや、決まったら教えて。それで全員揃ったのかな?」
「朝日さんと撫子さんがまだです……」
「ああ、せっかく天ノ川君が寝坊しなかったのに、今日はあの二人か……」
「信じられませんわ! うるさいからって目覚まし時計を壊す⁉」
「だから悪かったって言ってんだろ!」
飛鳥と青空が言い争いをしながらコースに現れる。仏坂が笑顔で告げる。
「……二人とも、罰走ね」
「貴女のせいですわ!」
「起きなかったのはてめえの責任でもあるだろうが!」
二人は言い争いを続けながら、走り出す。仏坂がため息をつく。
「今日が合同訓練じゃなくて良かったよ……」
「三日月さん、やっぱり起こしてあげた方が良かったんじゃ……?」
真帆が海に尋ねる。
「お二人とも寝起きが絶望的に悪いですから、私は一度蹴られました……辛抱強く待っていては私たちまで遅刻です。はっきり言って付き合っていられません」
海は二人に構うつもりはないと断言する。
「……」
「おい、カンペキちゃんよ」
ドラゴンを順繰りで先頭を走らせるローテーション走法訓練を行っている最中、青空が真帆に語りかける。
「……紺碧ですよ。なにか?」
「勝負しねえ?」
「は?」
「ただ単純に走ってるのも飽きてきたんだよ」
「そういう訓練ですから」
「まあ、そうお堅いこと言うなって!」
「ちょ、ちょっと、競り掛けないで下さい!」
サンシャインノヴァが外側から竜体を併せに行き、コンペキノアクアもやや興奮した様子を見せ、先頭のミカヅキルナマリアを躱そうと前に進み出す。
「!」
「ああ、もう!」
「へへ、やる気あるみたいじゃねえか、そんじゃ、あそこのハロン棒まで競争だ!」
「くっ!」
二頭は列から離れて、激しいマッチレースを始めてしまう。青空が笑う。
「お嬢や眼鏡ともまた違う走りのドラゴンだ! 前目の脚質でも色々あんだな!」
(振り切れそうで振り切れない……一瞬の爆発力が武器かと思ったけど、長い脚も使えるのね……それに鞍上の朝日さん、でたらめな騎乗に見えるけど、ドラゴンを気持ち良く走らせているわ。こういうスタイルもあるのね、野生的というか……)
真帆は内心、青空とサンシャインノヴァに感心する。
「よっしゃ! 差し切った!」
「くっ……」
「え~見事なマッチレースだったけど、訓練中に勝手なことしちゃ駄目だよ~二人とも一旦ドラゴン降りて、コース内側で腕立てと腹筋50回ずつね」
仏坂が注意する。真帆はつまらない誘いに乗ってしまったことを後悔する。
「よお、眼鏡クラス長、隣良いか?」
その日の夕、食堂で飛鳥と真帆と三人で食事をしている海に青空が話しかける。
「……どうぞ」
青空が海の隣に座る。
「へへっ、今日の飯も美味そうだな」
「ご用件は?」
「え?」
「いえ、なにか用事があって来られたのではないですか?」
「……ああ、副クラス長の件だけどよ、どうするんだ?」
「……クラス長自体も別に大した仕事があるわけではないということを、先程仏坂教官に改めて確認しました。なにかあった時にお手伝い頂きたいので、男女一人ずつお願いしようかと思っていますが」
「アタシがやってやってもいいぜ」
「は?」
「だからアタシがやってやっても良いって、副クラス長」
「……いえ、実はたった今、撫子さんにお願いしようと話がまとまった所で……」
「う~ん、アンタとお嬢だと真面目過ぎるな」
「わ、わたくしでは不服だと⁉」
海の向かいに座る飛鳥が声を上げる
「そう怒るなよ……なんつーか、ちょっと面白味に欠けると思ってな」
「つまり、人の上に立つ器ではないということですの?」
「そういうことは言ってねえよ」
「そういう風に聞こえます。不愉快です、失礼します!」
「……勝手に話を進めてしまったことは申し訳ありませんが、私なりに考えた上でのことです。貴女の思い付きでかき回されては堪りません」
飛鳥と真帆が勢いよく席を立ち、その場を離れる。青空が頬杖をつく。
「ちっ、分からねえ奴らだな~」
「……真帆、どうかしたのか?」
近くの席に座っていた炎仁が真帆に小声で尋ねる。
「炎ちゃん……実は……」
「……ふ~ん」
「このままだと朝日さんが孤立してしまう。良くないわ……」
「今日は真帆も結構被害被っていたじゃないか」
「確かに……でも、彼女の実力はかなりのもので学ぶべき点は多いとも思ったわ」
「そうか……」
炎仁が立ち上がって、青空に近づく。
「……なんだよ」
「明日、俺とマッチレースしてくれないか?」
「え、炎ちゃん⁉」
炎仁の突然の申し出に真帆は驚く。
「タイマンか? 面白え、その話乗ったぜ!」
「う、受けた⁉」
笑顔を浮かべ、その申し出を受ける青空にも真帆は重ねて驚く。
鏡の前で飛鳥が苛立った声を上げる。隣に立つ青空が眠い目を擦りながら尋ねる。
「んだよ……うるせえなあ、朝からなにをイライラしてんだよ……?」
「また目覚ましが鳴らなかったのです!」
「目覚まし?」
「そうです、目覚まし時計! わたくし朝は弱いから、必ず起きることが出来るようにセットしておいたのに……また作動しませんでしたわ! 不良品かしら?」
飛鳥が憤慨した様子で歯を磨き、口をゆすごうと水を含む。
「ああ、悪い、それ、アタシが壊したわ」
「ぶふっ!」
「うわ、汚ねえなあ! こっち向いて水吐くなよ!」
「……壊した?」
「え? ああ、音があまりにうるせえからよ。こうガンっと叩いて……」
しばらくの間、沈黙が流れる。そのころコースでは……。
「えっと、Cクラス全員揃ったかな、クラス長?」
「……クラス長を拝命した覚えが全くないのですが」
仏坂の問いに海が眼鏡を触りながら不服そうに答える。
「いや~なんだかんだ一番真面目そうだからさ」
「異議なし!」
レオンが拍手する。皆もそれにつられて拍手する。海はため息をつく。
「私が異議ありなのですが……これも経験です。クラス長のお役目承ります」
「さすが! 頼もしい!」
「……例えば副クラス長を私が決めても良いですか?」
「あ、ああ、それは構わないよ。誰にする?」
海は周囲を見渡した後、呟く。
「……その件に関しては保留とさせて頂きます」
「あ、そう……ま、いいや、決まったら教えて。それで全員揃ったのかな?」
「朝日さんと撫子さんがまだです……」
「ああ、せっかく天ノ川君が寝坊しなかったのに、今日はあの二人か……」
「信じられませんわ! うるさいからって目覚まし時計を壊す⁉」
「だから悪かったって言ってんだろ!」
飛鳥と青空が言い争いをしながらコースに現れる。仏坂が笑顔で告げる。
「……二人とも、罰走ね」
「貴女のせいですわ!」
「起きなかったのはてめえの責任でもあるだろうが!」
二人は言い争いを続けながら、走り出す。仏坂がため息をつく。
「今日が合同訓練じゃなくて良かったよ……」
「三日月さん、やっぱり起こしてあげた方が良かったんじゃ……?」
真帆が海に尋ねる。
「お二人とも寝起きが絶望的に悪いですから、私は一度蹴られました……辛抱強く待っていては私たちまで遅刻です。はっきり言って付き合っていられません」
海は二人に構うつもりはないと断言する。
「……」
「おい、カンペキちゃんよ」
ドラゴンを順繰りで先頭を走らせるローテーション走法訓練を行っている最中、青空が真帆に語りかける。
「……紺碧ですよ。なにか?」
「勝負しねえ?」
「は?」
「ただ単純に走ってるのも飽きてきたんだよ」
「そういう訓練ですから」
「まあ、そうお堅いこと言うなって!」
「ちょ、ちょっと、競り掛けないで下さい!」
サンシャインノヴァが外側から竜体を併せに行き、コンペキノアクアもやや興奮した様子を見せ、先頭のミカヅキルナマリアを躱そうと前に進み出す。
「!」
「ああ、もう!」
「へへ、やる気あるみたいじゃねえか、そんじゃ、あそこのハロン棒まで競争だ!」
「くっ!」
二頭は列から離れて、激しいマッチレースを始めてしまう。青空が笑う。
「お嬢や眼鏡ともまた違う走りのドラゴンだ! 前目の脚質でも色々あんだな!」
(振り切れそうで振り切れない……一瞬の爆発力が武器かと思ったけど、長い脚も使えるのね……それに鞍上の朝日さん、でたらめな騎乗に見えるけど、ドラゴンを気持ち良く走らせているわ。こういうスタイルもあるのね、野生的というか……)
真帆は内心、青空とサンシャインノヴァに感心する。
「よっしゃ! 差し切った!」
「くっ……」
「え~見事なマッチレースだったけど、訓練中に勝手なことしちゃ駄目だよ~二人とも一旦ドラゴン降りて、コース内側で腕立てと腹筋50回ずつね」
仏坂が注意する。真帆はつまらない誘いに乗ってしまったことを後悔する。
「よお、眼鏡クラス長、隣良いか?」
その日の夕、食堂で飛鳥と真帆と三人で食事をしている海に青空が話しかける。
「……どうぞ」
青空が海の隣に座る。
「へへっ、今日の飯も美味そうだな」
「ご用件は?」
「え?」
「いえ、なにか用事があって来られたのではないですか?」
「……ああ、副クラス長の件だけどよ、どうするんだ?」
「……クラス長自体も別に大した仕事があるわけではないということを、先程仏坂教官に改めて確認しました。なにかあった時にお手伝い頂きたいので、男女一人ずつお願いしようかと思っていますが」
「アタシがやってやってもいいぜ」
「は?」
「だからアタシがやってやっても良いって、副クラス長」
「……いえ、実はたった今、撫子さんにお願いしようと話がまとまった所で……」
「う~ん、アンタとお嬢だと真面目過ぎるな」
「わ、わたくしでは不服だと⁉」
海の向かいに座る飛鳥が声を上げる
「そう怒るなよ……なんつーか、ちょっと面白味に欠けると思ってな」
「つまり、人の上に立つ器ではないということですの?」
「そういうことは言ってねえよ」
「そういう風に聞こえます。不愉快です、失礼します!」
「……勝手に話を進めてしまったことは申し訳ありませんが、私なりに考えた上でのことです。貴女の思い付きでかき回されては堪りません」
飛鳥と真帆が勢いよく席を立ち、その場を離れる。青空が頬杖をつく。
「ちっ、分からねえ奴らだな~」
「……真帆、どうかしたのか?」
近くの席に座っていた炎仁が真帆に小声で尋ねる。
「炎ちゃん……実は……」
「……ふ~ん」
「このままだと朝日さんが孤立してしまう。良くないわ……」
「今日は真帆も結構被害被っていたじゃないか」
「確かに……でも、彼女の実力はかなりのもので学ぶべき点は多いとも思ったわ」
「そうか……」
炎仁が立ち上がって、青空に近づく。
「……なんだよ」
「明日、俺とマッチレースしてくれないか?」
「え、炎ちゃん⁉」
炎仁の突然の申し出に真帆は驚く。
「タイマンか? 面白え、その話乗ったぜ!」
「う、受けた⁉」
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