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第一章
第3レース(1)エリートと優等生と天才
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「くっそー! 勝てねえー!」
走り終えた炎仁は芝生に大の字になって寝転ぶ。そこに肩で軽く息をしながら嵐一がゆっくりと近づいてきて話す。
「……当たり前だろうが。お前いくつだ?」
「15だよ」
「俺は18だ。こないだまで中坊だったやつにそうそう負けるかよ……」
「えっ?」
「えっ?って何だ、知らなかったのか?」
「……このコースは15歳から20歳まで受講可能だから。年齢もばらけるよね~」
自身も走り終えたレオンが二人の元に歩み寄りやや呼吸を乱しながら口を開く。
「そういやそんな事も要項に書いてあったような……」
「それくらい確認しておきなよ。それに彼は高校野球のスター選手だったわけだからね……そうそう太刀打ち出来る相手じゃないよ」
「ええっ⁉ 本当か?」
「ああ、『群馬の四刀流』……聞いたことあるだろう?」
「そ、そういえば! どこかで見たことあると思ったら……」
「……おい、おしゃべりパツキン」
嵐一がレオンを睨む。
「ず、随分とひどいあだ名だな⁉」
「過ぎたことはどうでもいいんだよ、あんまりベラベラ喋るな……」
「そ、それは失敬……」
「分かりゃあいいんだよ……」
「お、俺だってサッカーで選抜に入ったことが……!」
「へえ、全国選抜かい?」
レオンが興味深そうに炎仁に尋ねる。
「じ、地元のさいたま市の……」
「市かよ、せめて埼玉県選抜に入ってからこいよ……じゃなくて、いちいち張り合おうとしてくんな……ただの体力測定だろうが」
嵐一が汗を拭いながらウンザリしたように呟く。炎仁は倒れ込んだままで答える。
「ただの体力測定でも、評価に含まれるかもしれないだろ」
「そうだとしたら助かるね、俺はトップ合格間違いなしだ」
嵐一が笑みを浮かべる。レオンが肩を竦める。
「これはまた大した自信だね」
「事実を言ったまでだ……いつまでも寝転んでいると印象悪いぞ」
嵐一は教官の方を見ながら、炎仁に声をかける。
「おっと!」
炎仁は慌てて立つ。その場から去りゆく嵐一の背中を見て、レオンが呟く。
「ドラゴンジョッキーもアスリートだ。運動能力があるに越したことはない……体格も立派なフィジカルエリート。自分で言うようにトップ合格は堅いかもね……」
教室でキッチリとしたパンツスーツ姿に着替えた鬼ヶ島が問う。
「……では、近代競竜の発祥について、答えられるものはいるか?」
「……」
「……♪」
「zzz……」
「分かりやすく視線を逸らすな、草薙、紅蓮。そして起きろ、天ノ川」
翔が欠伸をしながら目を開ける。
「体力テストの後に座学はどうしたって眠くなりますよ……」
「貴様はいつも眠そうだが」
「こういう授業って必要ありますか?」
「自分たちが取り組む競技の成り立ちくらい知っておけ……なんだ、誰もいないのか? 先程の女子クラスでは、ほぼ全員が挙手したぞ」
鬼ヶ島が呆れたように呟く。レオンが手を挙げる。
「教官」
「金糸雀」
鬼ヶ島に指名されたレオンが起立し、答える。
「正式なルールに基づいて専用の競技用施設である競竜場において行われる競竜、いわゆる近代競竜は16世紀の英国で基礎がつくられたとされ、17世紀から19世紀にかけて欧州全体に広まり、また17世紀以降は、欧州諸国の植民地であった国々を中心に、南北アメリカ、アジア、アフリカ、オセアニアなどの諸地域においても行われるようになりました」
「ふむ、良いだろう、座れ。諸君らもこれくらいはスラスラと答えられるようになってもらわんと思わぬ所で恥をかくことになるぞ。では続ける……」
「すげえな、レオン」
近くの席に座る炎仁が小声で称賛する。
「別に大したことじゃないさ」
レオンは髪をわざとらしくかき上げながら答える。
「向こうでも座学は優秀だったんだろうな……」
「!」
誰かがボソッと呟いた言葉にレオンの顔が一瞬曇る。
「どうした?」
「い、いや、別になんでもないよ」
炎仁の問いにレオンは首を振る。
「はいよ~次の組、スタート~」
いまひとつやる気のなさそうな男性教官の掛け声で4頭のドラゴンがスタートする。コーナーを一つ含めた約600mで行われる模擬レースである。
「ほい、ほいっと♪」
「はい、天ノ川、いっちゃ~く」
「よしよし、よくやったぞ、ヴィオラ」
翔が紫色のドラゴンの竜体を優しく撫でる。スタート地点に並んでその様子を見ていた嵐一が苦々し気に呟く。
「さすがは競竜一家出身の天才、レースセンスはずば抜けていやがるな……」
「それにあの『ステラヴィオラ』も良いドラゴンだよ」
嵐一の言葉にレオンが答える。
「珍しい色の竜体をしているが、あれはなんだ、座学優等生さん?」
「いや、本で見た気がするんだけど……なんだったかな」
「なんだよ、分かんねえのかよ」
「と、とにかくそれよりも注目すべきことがある」
「注目すべきこと?」
「入学してここ数日、ドラゴンに騎乗しての訓練は必ず模擬レースを何本かやって終わるようになっているよね」
「ああ、レースに慣れさせることと、俺たちを飽きさせないようにしようって狙いじゃねえのか。ドラゴンに乗りたくて集まったわけだからな」
嵐一は自嘲気味に笑う。
「教官殿たちの狙いはさておいて……この模擬レースで、彼、天ノ川翔は全て違う戦法で走っている。先行して逃げ切る、後方から追い込む、エトセトラ……」
「なんだと? ってことは……」
「ああ、彼はこの模擬レースで自分のドラゴンに様々な戦法、走り方を教えている……そして、あのドラゴンもそれに応えるだけの自在な脚質を持っているんだ……」
「ちっ、合格云々よりそのずっと先を見ているってことかよ……」
「はいよ~じゃあ、次の組、スタート~」
「うおおっ! 今度こそ勝つ! って、ま、また出遅れた!」
炎仁とグレンノイグニースは他の三頭から後れを取る。
「あいつはどうだ?」
「え? 運動神経は良いね。ただ、今の所それだけかな……悪い奴じゃないけど」
嵐一の問いにレオンは苦笑する。
「初日の模擬レースは良さそうだったが、あいつは気にしなくても良いか……」
嵐一は懸命に前の三頭を追いかける炎仁たちを見て呟く。
「くっそー! 勝てねえー!」
走り終えた炎仁は芝生に大の字になって寝転ぶ。そこに肩で軽く息をしながら嵐一がゆっくりと近づいてきて話す。
「……当たり前だろうが。お前いくつだ?」
「15だよ」
「俺は18だ。こないだまで中坊だったやつにそうそう負けるかよ……」
「えっ?」
「えっ?って何だ、知らなかったのか?」
「……このコースは15歳から20歳まで受講可能だから。年齢もばらけるよね~」
自身も走り終えたレオンが二人の元に歩み寄りやや呼吸を乱しながら口を開く。
「そういやそんな事も要項に書いてあったような……」
「それくらい確認しておきなよ。それに彼は高校野球のスター選手だったわけだからね……そうそう太刀打ち出来る相手じゃないよ」
「ええっ⁉ 本当か?」
「ああ、『群馬の四刀流』……聞いたことあるだろう?」
「そ、そういえば! どこかで見たことあると思ったら……」
「……おい、おしゃべりパツキン」
嵐一がレオンを睨む。
「ず、随分とひどいあだ名だな⁉」
「過ぎたことはどうでもいいんだよ、あんまりベラベラ喋るな……」
「そ、それは失敬……」
「分かりゃあいいんだよ……」
「お、俺だってサッカーで選抜に入ったことが……!」
「へえ、全国選抜かい?」
レオンが興味深そうに炎仁に尋ねる。
「じ、地元のさいたま市の……」
「市かよ、せめて埼玉県選抜に入ってからこいよ……じゃなくて、いちいち張り合おうとしてくんな……ただの体力測定だろうが」
嵐一が汗を拭いながらウンザリしたように呟く。炎仁は倒れ込んだままで答える。
「ただの体力測定でも、評価に含まれるかもしれないだろ」
「そうだとしたら助かるね、俺はトップ合格間違いなしだ」
嵐一が笑みを浮かべる。レオンが肩を竦める。
「これはまた大した自信だね」
「事実を言ったまでだ……いつまでも寝転んでいると印象悪いぞ」
嵐一は教官の方を見ながら、炎仁に声をかける。
「おっと!」
炎仁は慌てて立つ。その場から去りゆく嵐一の背中を見て、レオンが呟く。
「ドラゴンジョッキーもアスリートだ。運動能力があるに越したことはない……体格も立派なフィジカルエリート。自分で言うようにトップ合格は堅いかもね……」
教室でキッチリとしたパンツスーツ姿に着替えた鬼ヶ島が問う。
「……では、近代競竜の発祥について、答えられるものはいるか?」
「……」
「……♪」
「zzz……」
「分かりやすく視線を逸らすな、草薙、紅蓮。そして起きろ、天ノ川」
翔が欠伸をしながら目を開ける。
「体力テストの後に座学はどうしたって眠くなりますよ……」
「貴様はいつも眠そうだが」
「こういう授業って必要ありますか?」
「自分たちが取り組む競技の成り立ちくらい知っておけ……なんだ、誰もいないのか? 先程の女子クラスでは、ほぼ全員が挙手したぞ」
鬼ヶ島が呆れたように呟く。レオンが手を挙げる。
「教官」
「金糸雀」
鬼ヶ島に指名されたレオンが起立し、答える。
「正式なルールに基づいて専用の競技用施設である競竜場において行われる競竜、いわゆる近代競竜は16世紀の英国で基礎がつくられたとされ、17世紀から19世紀にかけて欧州全体に広まり、また17世紀以降は、欧州諸国の植民地であった国々を中心に、南北アメリカ、アジア、アフリカ、オセアニアなどの諸地域においても行われるようになりました」
「ふむ、良いだろう、座れ。諸君らもこれくらいはスラスラと答えられるようになってもらわんと思わぬ所で恥をかくことになるぞ。では続ける……」
「すげえな、レオン」
近くの席に座る炎仁が小声で称賛する。
「別に大したことじゃないさ」
レオンは髪をわざとらしくかき上げながら答える。
「向こうでも座学は優秀だったんだろうな……」
「!」
誰かがボソッと呟いた言葉にレオンの顔が一瞬曇る。
「どうした?」
「い、いや、別になんでもないよ」
炎仁の問いにレオンは首を振る。
「はいよ~次の組、スタート~」
いまひとつやる気のなさそうな男性教官の掛け声で4頭のドラゴンがスタートする。コーナーを一つ含めた約600mで行われる模擬レースである。
「ほい、ほいっと♪」
「はい、天ノ川、いっちゃ~く」
「よしよし、よくやったぞ、ヴィオラ」
翔が紫色のドラゴンの竜体を優しく撫でる。スタート地点に並んでその様子を見ていた嵐一が苦々し気に呟く。
「さすがは競竜一家出身の天才、レースセンスはずば抜けていやがるな……」
「それにあの『ステラヴィオラ』も良いドラゴンだよ」
嵐一の言葉にレオンが答える。
「珍しい色の竜体をしているが、あれはなんだ、座学優等生さん?」
「いや、本で見た気がするんだけど……なんだったかな」
「なんだよ、分かんねえのかよ」
「と、とにかくそれよりも注目すべきことがある」
「注目すべきこと?」
「入学してここ数日、ドラゴンに騎乗しての訓練は必ず模擬レースを何本かやって終わるようになっているよね」
「ああ、レースに慣れさせることと、俺たちを飽きさせないようにしようって狙いじゃねえのか。ドラゴンに乗りたくて集まったわけだからな」
嵐一は自嘲気味に笑う。
「教官殿たちの狙いはさておいて……この模擬レースで、彼、天ノ川翔は全て違う戦法で走っている。先行して逃げ切る、後方から追い込む、エトセトラ……」
「なんだと? ってことは……」
「ああ、彼はこの模擬レースで自分のドラゴンに様々な戦法、走り方を教えている……そして、あのドラゴンもそれに応えるだけの自在な脚質を持っているんだ……」
「ちっ、合格云々よりそのずっと先を見ているってことかよ……」
「はいよ~じゃあ、次の組、スタート~」
「うおおっ! 今度こそ勝つ! って、ま、また出遅れた!」
炎仁とグレンノイグニースは他の三頭から後れを取る。
「あいつはどうだ?」
「え? 運動神経は良いね。ただ、今の所それだけかな……悪い奴じゃないけど」
嵐一の問いにレオンは苦笑する。
「初日の模擬レースは良さそうだったが、あいつは気にしなくても良いか……」
嵐一は懸命に前の三頭を追いかける炎仁たちを見て呟く。
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