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第一章
第9話(4)勉強熱心な青龍
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♢
「む、難しい……!」
「図書室ではお静かに……」
青龍が注意する。
「こっちの棟の図書室なんて人がいないからいいだろう?」
「駄目です。マナーの問題ですよ」
「マナーね……」
「そう、マナー。さあ、続けて下さい」
「うむ……む、無理だ!」
「音を上げるのが早いですね」
青龍が思わず苦笑する。
「わ、分からん!」
「どこが分からないのですか?」
「分からないところが分からない……」
「どうやら問題外のようですね……」
青龍が立ち上がろうとする。
「み、見捨てないでくれ~」
青みがかった髪の男子が情けない声を上げながら青龍にすがりつく。大城戸三兄妹の長男、大城戸蒼太である。青龍がため息をつく。
「……真剣な顔で相談があるというから何かと思えば、勉強を見てくれとは……」
「大事なことだろう?」
「まあ、学生の本分ですからね」
「まさか追試ありの小テストが五教科分もこの短期間で一斉に行われるなんて……」
蒼太が頭を抱える。青龍が首を傾げる。
「抜き打ちではない分、かなり良心的だと思いますが……」
「それでも五教科分はきつい!」
「範囲内も決まっていますよ?」
「それでもきついものはきついんだ!」
「はあ……」
まるで駄々っ子のような蒼太を見て、青龍は呆れ気味にため息をつく。
「頼む! 助けると思って!」
蒼太が両手を合わせて懇願する。青龍は首を傾げる。
「仲の良い弟妹がいらっしゃるではないですか?」
「紅二はダメだ」
「何故?」
「あいつは俺と似たり寄ったりの学力だ」
「ああ……」
「それに最近はなにやら悩み事があるようで心ここにあらずだからな」
「悩み事?」
「色々あるんだよ、色々と」
「ふむ……それでは妹さんは?」
「みどりはもっとダメだ」
「どうして?」
「どうしてもだ」
「それでは全然答えになっていませんよ。彼女はいつも良い点を取っているようなイメージがありますが……」
「……あいつは末っ子だろう?」
「はあ……」
「末っ子に頼るなんて長兄の恥だ!」
「他人に頼るのは恥ではないのですか……?」
青龍が困惑気味に呟く。
「クラスきっての秀才に頼るのは知恵というものだ」
蒼太が自身の側頭部を指でトントンと叩く。青龍が肩をすくめる。
「物は言いようですね……」
「というわけで頼む!」
「しかし……」
「しかし?」
「貴方の勉強を見て、私になんのメリットが?」
「ぐっ……そ、そういうことを言い出すか……?」
「大事なことですから」
「赤点を回避できたら、食堂で何か奢ってやるよ」
「却下。クラスメイトに借りは作りたくないので」
「お、女の子を紹介してやるよ!」
「却下。女性とはもっと自然な形で知り合いたい主義なので」
「ちっ!」
蒼太が思い切り舌打ちする。
「特にメリットは無さそうですね……」
青龍が再び席を立とうとする。蒼太が慌てて止める。
「ま、待った! 赤点を回避出来たら、お前のお陰だと喧伝する!」
「……それで?」
「さすがは本郷青龍だということになるだろう。お前の名声もさらに高まる。四天王筆頭としての地位がより盤石になるんじゃないか?」
「……四天王内での争いをご存知で?」
「ご存知もなにも、傍から見ていても思いっきり伝わってくるぞ、お前たち四人が漂わせているバチバチ感」
「そ、そうでしたか……」
青龍は少し恥ずかしそうにしながら、席に座り直す。蒼太が笑みを浮かべる。
「どうだ? シンプルだが悪くない話だろう?」
「……まあ、私にとっても復習になると思えば……」
「ありがとう! それじゃあまずは国語からなんだが……」
「これを見て下さい」
青龍がノートを広げて、机に置く。蒼太が尋ねる。
「これは?」
「私のノートです」
「え⁉ びっしりと書かれているけど、それでも綺麗で見やすい……さすが優等生はノートの取り方も違うな!」
「欠席気味でしたから、ほぼ独学ですけどね。要点は抑えているつもりです」
「すごいな」
「これを写して下さい。五教科分ありますから」
青龍はさらに複数のノートを机に広げる。蒼太が困惑する。
「え? う、写せって……この量をか?」
「一々教えている時間もないですし……それが一番手っ取り早いです」
「い、いや、それも結構無茶じゃないか?」
「……貴方の微能力を使えば良いでしょう」
「! そうか、『コピペ』!」
蒼太は青龍のノートをコピーし、自分のノートにペーストする。青龍は頷く。
「そうです……」
「し、しかしだな……」
「どうかしましたか?」
「これでしっかり身についているのか?」
蒼太の問いに、青龍は首を捻る。
「まあ……身についてはいないでしょうね」
「ダ、ダメじゃないか!」
「小テストまでこのコピペした内容を熟読するのです」
「熟読?」
「そう、繰り返しね」
「だ、大丈夫なのか?」
「要点はきちんと抑えてありますから、赤点回避には十分なはずです。つまるところ学校の勉強というのはほとんど暗記ですから」
「そ、そうか、分かったぜ!」
コピペを終えた蒼太はノートを読み始める。しばらくして青龍が席を立つ。
「それではこれで……健闘を祈ります」
「ああ、どうもありがとう!」
「失礼します……」
「……どこもかしこも図書室ってのは苦手だぜ」
「!」
図書室を退室しようとした青龍に筋肉質の短髪な男が声をかけてくる。驚く青龍を見て男は鼻で笑う。
「はっ、部屋に入ったのに気付かなかったのか? 噂の『スパダリ』も大したことねえなあ」
「……C組、『超能力組』の方が何の御用ですか?」
「いやあ、ちょっと挨拶にな……」
男は手を差し出す。青龍も手を出し、二人は握手をかわす。
「……!」
「鍛え方がなってねえなあ……そんじゃあ、あばよ」
「くっ……」
痛む右手を抑えながら、青龍は去っていく男の背中を見つめる。
「む、難しい……!」
「図書室ではお静かに……」
青龍が注意する。
「こっちの棟の図書室なんて人がいないからいいだろう?」
「駄目です。マナーの問題ですよ」
「マナーね……」
「そう、マナー。さあ、続けて下さい」
「うむ……む、無理だ!」
「音を上げるのが早いですね」
青龍が思わず苦笑する。
「わ、分からん!」
「どこが分からないのですか?」
「分からないところが分からない……」
「どうやら問題外のようですね……」
青龍が立ち上がろうとする。
「み、見捨てないでくれ~」
青みがかった髪の男子が情けない声を上げながら青龍にすがりつく。大城戸三兄妹の長男、大城戸蒼太である。青龍がため息をつく。
「……真剣な顔で相談があるというから何かと思えば、勉強を見てくれとは……」
「大事なことだろう?」
「まあ、学生の本分ですからね」
「まさか追試ありの小テストが五教科分もこの短期間で一斉に行われるなんて……」
蒼太が頭を抱える。青龍が首を傾げる。
「抜き打ちではない分、かなり良心的だと思いますが……」
「それでも五教科分はきつい!」
「範囲内も決まっていますよ?」
「それでもきついものはきついんだ!」
「はあ……」
まるで駄々っ子のような蒼太を見て、青龍は呆れ気味にため息をつく。
「頼む! 助けると思って!」
蒼太が両手を合わせて懇願する。青龍は首を傾げる。
「仲の良い弟妹がいらっしゃるではないですか?」
「紅二はダメだ」
「何故?」
「あいつは俺と似たり寄ったりの学力だ」
「ああ……」
「それに最近はなにやら悩み事があるようで心ここにあらずだからな」
「悩み事?」
「色々あるんだよ、色々と」
「ふむ……それでは妹さんは?」
「みどりはもっとダメだ」
「どうして?」
「どうしてもだ」
「それでは全然答えになっていませんよ。彼女はいつも良い点を取っているようなイメージがありますが……」
「……あいつは末っ子だろう?」
「はあ……」
「末っ子に頼るなんて長兄の恥だ!」
「他人に頼るのは恥ではないのですか……?」
青龍が困惑気味に呟く。
「クラスきっての秀才に頼るのは知恵というものだ」
蒼太が自身の側頭部を指でトントンと叩く。青龍が肩をすくめる。
「物は言いようですね……」
「というわけで頼む!」
「しかし……」
「しかし?」
「貴方の勉強を見て、私になんのメリットが?」
「ぐっ……そ、そういうことを言い出すか……?」
「大事なことですから」
「赤点を回避できたら、食堂で何か奢ってやるよ」
「却下。クラスメイトに借りは作りたくないので」
「お、女の子を紹介してやるよ!」
「却下。女性とはもっと自然な形で知り合いたい主義なので」
「ちっ!」
蒼太が思い切り舌打ちする。
「特にメリットは無さそうですね……」
青龍が再び席を立とうとする。蒼太が慌てて止める。
「ま、待った! 赤点を回避出来たら、お前のお陰だと喧伝する!」
「……それで?」
「さすがは本郷青龍だということになるだろう。お前の名声もさらに高まる。四天王筆頭としての地位がより盤石になるんじゃないか?」
「……四天王内での争いをご存知で?」
「ご存知もなにも、傍から見ていても思いっきり伝わってくるぞ、お前たち四人が漂わせているバチバチ感」
「そ、そうでしたか……」
青龍は少し恥ずかしそうにしながら、席に座り直す。蒼太が笑みを浮かべる。
「どうだ? シンプルだが悪くない話だろう?」
「……まあ、私にとっても復習になると思えば……」
「ありがとう! それじゃあまずは国語からなんだが……」
「これを見て下さい」
青龍がノートを広げて、机に置く。蒼太が尋ねる。
「これは?」
「私のノートです」
「え⁉ びっしりと書かれているけど、それでも綺麗で見やすい……さすが優等生はノートの取り方も違うな!」
「欠席気味でしたから、ほぼ独学ですけどね。要点は抑えているつもりです」
「すごいな」
「これを写して下さい。五教科分ありますから」
青龍はさらに複数のノートを机に広げる。蒼太が困惑する。
「え? う、写せって……この量をか?」
「一々教えている時間もないですし……それが一番手っ取り早いです」
「い、いや、それも結構無茶じゃないか?」
「……貴方の微能力を使えば良いでしょう」
「! そうか、『コピペ』!」
蒼太は青龍のノートをコピーし、自分のノートにペーストする。青龍は頷く。
「そうです……」
「し、しかしだな……」
「どうかしましたか?」
「これでしっかり身についているのか?」
蒼太の問いに、青龍は首を捻る。
「まあ……身についてはいないでしょうね」
「ダ、ダメじゃないか!」
「小テストまでこのコピペした内容を熟読するのです」
「熟読?」
「そう、繰り返しね」
「だ、大丈夫なのか?」
「要点はきちんと抑えてありますから、赤点回避には十分なはずです。つまるところ学校の勉強というのはほとんど暗記ですから」
「そ、そうか、分かったぜ!」
コピペを終えた蒼太はノートを読み始める。しばらくして青龍が席を立つ。
「それではこれで……健闘を祈ります」
「ああ、どうもありがとう!」
「失礼します……」
「……どこもかしこも図書室ってのは苦手だぜ」
「!」
図書室を退室しようとした青龍に筋肉質の短髪な男が声をかけてくる。驚く青龍を見て男は鼻で笑う。
「はっ、部屋に入ったのに気付かなかったのか? 噂の『スパダリ』も大したことねえなあ」
「……C組、『超能力組』の方が何の御用ですか?」
「いやあ、ちょっと挨拶にな……」
男は手を差し出す。青龍も手を出し、二人は握手をかわす。
「……!」
「鍛え方がなってねえなあ……そんじゃあ、あばよ」
「くっ……」
痛む右手を抑えながら、青龍は去っていく男の背中を見つめる。
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