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第一章
第9話(1)百戦錬磨な朱雀
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9
放課後の教室で椅子に座った朱雀が喋る。
「対策されていたとはいえ、八角さん一人に四天王が抑え込まれた形だ……これを日光くんがどのように評価したかは分からないが、あまり芳しいものではないだろう……」
「はあ……」
「八角さんを傘下に引き入れ、四天王の中で抜きんでるという目標は潰えてしまった……よって、別の手を考えなければならない……」
「へえ……」
「まあ、今のは独り言だ。気にしないでくれたまえ」
「い、いや、すごい気になるよ!」
赤みがかった髪の青年が立ち上がる。朱雀が落ち着かせる。
「……落ち着け、大城戸三兄妹次兄、大城戸紅二くん」
「は、はあ、悪い……」
紅二があらためて席に座る。朱雀とは隣の席なので、今は机同士をくっつけている。ごくごく自然な形だ。誰も密談をしているとは思うまい。
「それで……相談事とはなんだい、紅二くん?」
「い、いや、それがその……」
紅二が言いよどむ。朱雀が笑う。
「男同士のことなら、やはり長兄に頼むのがベストだと思うが?」
「いや、蒼太兄はダメだ!」
「ダ、ダメなのか……」
「ああ」
「では、妹君のみどりさんは?」
「もっとダメだ!」
「もっとダメなのか……」
「ああ、そうだ」
「良ければ理由を教えてくれないかな?」
「そ、蒼太兄もみどりも……絶対からかってくるに決まっている!」
紅二が顔を両手で覆う。朱雀が首を傾げる。
「からかってくる?」
「ああ!」
「よく分からんが、話をまともに取り合ってはくれないだろうと? ふむ……それで僕に相談に来たというわけか……分かった」
「相談に乗ってくれるんだな!」
「ここでクラスメイトの懸案事項を片付けたとあれば、日光くんも僕も無下には出来ないだろうからね、相談に乗らせてもらおうじゃないか」
「本音がダダ漏れだが、頼もしそうなオーラは醸し出している……さすが四天王!」
「それで? 相談とは?」
「えっと……」
紅二が声をひそめる。朱雀が耳を澄ます。
「うん? なんだい? よく聞こえないのだが……」
「き、気になっている女子がいて……」
「なっ⁉」
朱雀が椅子ごとのけぞり、廊下側の壁にぶつかる。紅二が心配する。
「だ、大丈夫か?」
「あ、ああ……これくらいなんともない」
朱雀は後頭部をさすりながら、体勢を戻す。
「詳しく話すと、2年F組のある女子のことが前から気になっていて……もう最近は彼女のことばかり考えていて夜しか眠れないんだ」
「……ちゃんと眠れているじゃないか」
朱雀は机に頬杖をつく。
「ま、まあ、それはともかく、彼女との関係性を進展させたいんだ」
「進展?」
「た、例えば、こ、告白とか……」
「⁉」
朱雀が椅子ごと倒れる。紅二が慌てる。
「だ、大丈夫か⁉」
「あ、ああ、な、なんでもない……」
「なんでもないということはないと思うが……」
「で? その、こ、告白が上手くいくように手伝って欲しいということかい?」
「そうだ」
「ふ、ふむ……何故僕にその話を?」
「四天王は恋も百戦錬磨だというじゃないか!」
「初耳だが」
「え?」
「いや、なんでもない、続けてくれ」
「だからその力を是非ともお借りしたいんだ!」
「むう……」
「頼む!」
紅二が両手を合わせて頭を下げてくる。
「……分かった。頭を上げてくれ、紅二くん」
「おおっ! ということは……?」
「力になろうじゃないか」
「ありがとう!」
協力するとは伝えたが、朱雀は軽く額を抑える。思い返してみると、求愛のようなものを受けたことはこれまで何度かある――ほぼ全て女子生徒からであるが――自分から告白ということはしたことがなかった。ぶっちゃけなくても恋愛ビギナーである。朱雀は呟く。
「さて、どうするか……?」
「何かアイデアはあるかい?」
「そ、そうだな……そのF組の子の連絡先は?」
「ああ、昨年度、ある委員会で一緒になってね、LANE交換はしてある」
「ほう! それならば話が早い。共通の話題などで話を盛り上げ、親睦を深めよう」
「共通の話題か……」
「趣味とか無いのか、その子は?」
「あ、食べるのが好きだと言っていたな……」
「それだ!」
朱雀は指を差して立ち上がる。紅二がビクッとする。
「な、なんだよ……」
「思い出してみたまえ、君の微能力……」
「あっ! 『飯テロ』!」
「そうだ! その能力を駆使し、美味しそうな、食欲をそそりそうな画像を送るんだ。それで興味を引きつけつつ、よりパーソナルな話に持っていく。好きな映画や音楽などだ。それを聞き出したら、映画鑑賞やライブにもスムーズに誘えるだろう」
「なるほど! 分かった、早速今夜からやってみるよ! 悪いな、放課後付き合わせて!」
紅二が教室を飛び出していく。朱雀はにこやかにその後ろ姿を見送りながら呟く。
「今夜からが少し気になるが……我ながら無難な助言が出来たのではないだろうか」
翌日。紅二が廊下で朱雀に声をかける。
「おい! 井伊谷!」
「ど、どうした、紅二くん……?」
「夜中に飯の画像を送ったら、『私ダイエット中なのに、嫌がらせ?』って言われたぞ!」
「む……それは」
「ただ、『つまりこれは試練に打ち勝てっていうことなのね!』とも言われたぞ!」
「ん?」
「……というわけで、まずはお友達からだが、お付き合いを始めることになりました!」
「そ、そうか、それは良かったな……」
頭を下げて礼を言う、紅二に手を振り、朱雀は教室に向かおうとする。
「……なんだ、思ったより大したことなさそうだね。所詮はB組か」
「⁉」
朱雀は声のした方に振り返る。そこには誰もいない。
「こっち、こっち」
「‼」
朱雀の背後に中性的な雰囲気を纏った、長い黒髪を後ろで一つにまとめた小柄な生徒が立っている。朱雀が問う。
「き、貴様、ここに何の用だ?」
「ちょっと挨拶にね……ただ……」
「!」
「ボクの動きに反応できないようじゃ、問題外かな~?」
生徒が朱雀の背後に立っている。朱雀はそれに気づくことが出来なかった。
「ぐっ……」
右手で銃の形を作る朱雀を見て、生徒は笑う。
「それも姿を捉えられないとね~。そこら辺が微能力って感じだね~」
「くっ……」
「ボクらC組……『超能力組』の敵ではなさそうだね……それじゃ」
「なっ⁉」
胸の内ポケットに入れていた生徒手帳がいつの間にか抜き取られ、手に握らされていた。朱雀は周囲を見回すが、その小柄な生徒の姿は既になかった。
放課後の教室で椅子に座った朱雀が喋る。
「対策されていたとはいえ、八角さん一人に四天王が抑え込まれた形だ……これを日光くんがどのように評価したかは分からないが、あまり芳しいものではないだろう……」
「はあ……」
「八角さんを傘下に引き入れ、四天王の中で抜きんでるという目標は潰えてしまった……よって、別の手を考えなければならない……」
「へえ……」
「まあ、今のは独り言だ。気にしないでくれたまえ」
「い、いや、すごい気になるよ!」
赤みがかった髪の青年が立ち上がる。朱雀が落ち着かせる。
「……落ち着け、大城戸三兄妹次兄、大城戸紅二くん」
「は、はあ、悪い……」
紅二があらためて席に座る。朱雀とは隣の席なので、今は机同士をくっつけている。ごくごく自然な形だ。誰も密談をしているとは思うまい。
「それで……相談事とはなんだい、紅二くん?」
「い、いや、それがその……」
紅二が言いよどむ。朱雀が笑う。
「男同士のことなら、やはり長兄に頼むのがベストだと思うが?」
「いや、蒼太兄はダメだ!」
「ダ、ダメなのか……」
「ああ」
「では、妹君のみどりさんは?」
「もっとダメだ!」
「もっとダメなのか……」
「ああ、そうだ」
「良ければ理由を教えてくれないかな?」
「そ、蒼太兄もみどりも……絶対からかってくるに決まっている!」
紅二が顔を両手で覆う。朱雀が首を傾げる。
「からかってくる?」
「ああ!」
「よく分からんが、話をまともに取り合ってはくれないだろうと? ふむ……それで僕に相談に来たというわけか……分かった」
「相談に乗ってくれるんだな!」
「ここでクラスメイトの懸案事項を片付けたとあれば、日光くんも僕も無下には出来ないだろうからね、相談に乗らせてもらおうじゃないか」
「本音がダダ漏れだが、頼もしそうなオーラは醸し出している……さすが四天王!」
「それで? 相談とは?」
「えっと……」
紅二が声をひそめる。朱雀が耳を澄ます。
「うん? なんだい? よく聞こえないのだが……」
「き、気になっている女子がいて……」
「なっ⁉」
朱雀が椅子ごとのけぞり、廊下側の壁にぶつかる。紅二が心配する。
「だ、大丈夫か?」
「あ、ああ……これくらいなんともない」
朱雀は後頭部をさすりながら、体勢を戻す。
「詳しく話すと、2年F組のある女子のことが前から気になっていて……もう最近は彼女のことばかり考えていて夜しか眠れないんだ」
「……ちゃんと眠れているじゃないか」
朱雀は机に頬杖をつく。
「ま、まあ、それはともかく、彼女との関係性を進展させたいんだ」
「進展?」
「た、例えば、こ、告白とか……」
「⁉」
朱雀が椅子ごと倒れる。紅二が慌てる。
「だ、大丈夫か⁉」
「あ、ああ、な、なんでもない……」
「なんでもないということはないと思うが……」
「で? その、こ、告白が上手くいくように手伝って欲しいということかい?」
「そうだ」
「ふ、ふむ……何故僕にその話を?」
「四天王は恋も百戦錬磨だというじゃないか!」
「初耳だが」
「え?」
「いや、なんでもない、続けてくれ」
「だからその力を是非ともお借りしたいんだ!」
「むう……」
「頼む!」
紅二が両手を合わせて頭を下げてくる。
「……分かった。頭を上げてくれ、紅二くん」
「おおっ! ということは……?」
「力になろうじゃないか」
「ありがとう!」
協力するとは伝えたが、朱雀は軽く額を抑える。思い返してみると、求愛のようなものを受けたことはこれまで何度かある――ほぼ全て女子生徒からであるが――自分から告白ということはしたことがなかった。ぶっちゃけなくても恋愛ビギナーである。朱雀は呟く。
「さて、どうするか……?」
「何かアイデアはあるかい?」
「そ、そうだな……そのF組の子の連絡先は?」
「ああ、昨年度、ある委員会で一緒になってね、LANE交換はしてある」
「ほう! それならば話が早い。共通の話題などで話を盛り上げ、親睦を深めよう」
「共通の話題か……」
「趣味とか無いのか、その子は?」
「あ、食べるのが好きだと言っていたな……」
「それだ!」
朱雀は指を差して立ち上がる。紅二がビクッとする。
「な、なんだよ……」
「思い出してみたまえ、君の微能力……」
「あっ! 『飯テロ』!」
「そうだ! その能力を駆使し、美味しそうな、食欲をそそりそうな画像を送るんだ。それで興味を引きつけつつ、よりパーソナルな話に持っていく。好きな映画や音楽などだ。それを聞き出したら、映画鑑賞やライブにもスムーズに誘えるだろう」
「なるほど! 分かった、早速今夜からやってみるよ! 悪いな、放課後付き合わせて!」
紅二が教室を飛び出していく。朱雀はにこやかにその後ろ姿を見送りながら呟く。
「今夜からが少し気になるが……我ながら無難な助言が出来たのではないだろうか」
翌日。紅二が廊下で朱雀に声をかける。
「おい! 井伊谷!」
「ど、どうした、紅二くん……?」
「夜中に飯の画像を送ったら、『私ダイエット中なのに、嫌がらせ?』って言われたぞ!」
「む……それは」
「ただ、『つまりこれは試練に打ち勝てっていうことなのね!』とも言われたぞ!」
「ん?」
「……というわけで、まずはお友達からだが、お付き合いを始めることになりました!」
「そ、そうか、それは良かったな……」
頭を下げて礼を言う、紅二に手を振り、朱雀は教室に向かおうとする。
「……なんだ、思ったより大したことなさそうだね。所詮はB組か」
「⁉」
朱雀は声のした方に振り返る。そこには誰もいない。
「こっち、こっち」
「‼」
朱雀の背後に中性的な雰囲気を纏った、長い黒髪を後ろで一つにまとめた小柄な生徒が立っている。朱雀が問う。
「き、貴様、ここに何の用だ?」
「ちょっと挨拶にね……ただ……」
「!」
「ボクの動きに反応できないようじゃ、問題外かな~?」
生徒が朱雀の背後に立っている。朱雀はそれに気づくことが出来なかった。
「ぐっ……」
右手で銃の形を作る朱雀を見て、生徒は笑う。
「それも姿を捉えられないとね~。そこら辺が微能力って感じだね~」
「くっ……」
「ボクらC組……『超能力組』の敵ではなさそうだね……それじゃ」
「なっ⁉」
胸の内ポケットに入れていた生徒手帳がいつの間にか抜き取られ、手に握らされていた。朱雀は周囲を見回すが、その小柄な生徒の姿は既になかった。
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