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第一章

第4話(1)演目を決める

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「今のところ大勢には大きく影響なしか……」

 校舎の窓から外を見ながら日光がポツリと呟く。

「井伊谷さんが力を貸してくれるからといって、派閥の全員がそのままこっちについてくれるわけではなかったわね。様子見って感じだわ」

「別に僕は派閥を形成していたつもりはないのだがね。周りが勝手にそうとらえただけだ。そして、中立の位置につくのも彼らの自由だ」

 照美の発言に朱雀が応じる。照美が首を傾げる。

「もっと厳しく締め付けているのかと思ったわ」

「厳しく接していたのは、クラスの雰囲気が弛緩していると感じたからさ」

「……誰かさんの仕切りが悪かったとでも言いたいわけ?」

「そういうわけではないが、まあ、どのように受け取ってくれても構わないよ」

「ふ~ん……」

「……」

 照美と朱雀が無言で見つめ合う。聡乃が慌てて口を開く。

「と、とはいえ、四天王のお一人がこちらについてくれるのは大事なことだと思います」

「それもそうだな」

 聡乃の言葉に日光が頷く。照美が尋ねる。

「当面は方針に変更なし?」

「ああ、四天王と協力関係を結ぶ……四人全員がこちらにつけばさすがにクラスの風向きも変わってくるだろう」

「それはまた大きく出たね」

 朱雀が笑みを浮かべる。日光が問う。

「無理だと思うか?」

「いいや、お手並み拝見といこう」

「そろそろホームルームよ、教室に入りましょう」

 照美が呼びかけ、四人は教室に入る。しばらくして、担任の地山が入ってくる。

「皆さん、おはようございます……今日のホームルームですが、『新入生歓迎会』について話し合って頂きます。司会進行はクラス長と副クラス長にお願いします。東さんと本荘さん、前に出てきて下さい」

「はい」

「は、はい……」

 照美と聡乃が前に出て、教壇に上がる。

「聡乃さん、書記をお願い出来る?」

「え、ええ、分かりました……」

 照美が正面に向き直る。

「それでは今度行われる新入生歓迎会について話し合いたいと思います」

「……はい」

「どうぞ仁子君」

 挙手する日光を照美が指名する。

「……のっけから話の腰を折るようで申し訳ないのだが、その新入生歓迎会というのはどういう行事なのだ?」

「新入生を歓迎する行事です」

「いや、それくらいは分かる……」

 日光は照美の答えになっていない答えに苦笑する。

「冗談です。きちんと説明しますと、基本はこの学園は中等部からの持ち上がりが多いので、今更という感も否めないのですが、この時期は高等部への新入生に対し、レセプションパーティーを開きます」

「パーティー……飲食を伴うのか?」

「パーティーに出る飲食物に関しては生徒会の中で結成された実行委員会が責任をもって準備されています」

「そ、そうか……」

「よって、我々クラス単位で行うことは……余興ですね」

「余興?」

「そうです」

「例えば、劇を披露したり、演奏を披露したり……でしょうかね?」

 照美が黒板に文字を書いている聡乃に問いかける。聡乃は頷く。

「そ、そうですね、皆さん、大体そんな感じの演目です」

「ふむ……」

「ご理解頂けましたか?」

 照美は腕を組む日光に尋ねる。

「ああ、大体は分かった……」

 教壇の脇に座っていた地山が口を開く。

「聞いた話なのですが……」

「あ、はい、先生、なんでしょうか?」

「すでにこのB組は昨年度の内から演目を決めているとか……?」

 地山の問いに照美が笑顔を浮かべる。

「さすが先生、お耳が早い」

「昨年度の内から……?」

 首を傾げる日光に照美が説明する。

「この学園はクラス替えがないから、1年からほとんど同じ顔ぶれなんです」

「ああ、なるほど……」

 説明を受けた日光は頷く。照美は説明を続ける。

「準備期間も限られますし、我々2年B組は『朗読会』を行うと決めております」

「……はい」

 朱雀が挙手する。照美が指名する。

「はい、井伊谷さん」

「却下を希望する」

「はい、却下に一票……って、ええっ⁉」

 朱雀の言葉に照美が驚き、あらためて朱雀の方に視線を向ける。朱雀が笑顔で頷く。

「却下を希望」

「な、何故にそのようなことを?」

「一言で言えば……地味だね」

「じ、地味って……」

「他のクラスも様々趣向を凝らした出し物を行うだろうに、朗読会では派手さやインパクトに欠けると思われる」

「……学ランで眼帯の生徒や全身真っ赤な男装女子がいる時点で十分に目立っているかと思いますが?」

 照美の言葉に朱雀は首を傾げながら呟く。

「もう一押し欲しいところだね。プラスアルファというか……」

「……具体的なことを申し上げて下さい」

 照美は若干ムッとしながら、朱雀の発言を促す。

「演奏などはどうだい? ロックやポップスの方がウケるだろう?」

「却下です。楽器が出来る生徒が少ないです。大体準備期間も足りません」

「それならば……」

「はい、仁子君……」

 照美は既にウンザリしながら、挙手した日光を指名する。

「合唱ならばどうだ?」

「それも却下です。繰り返しになりますが、準備期間が足りません」

「いやいや、ちょっと待ってくれ。“魂の”合唱だぞ?」

「いや、そんなご存知みたいに言われても知りませんよ!」

「魂さえこもっていれば、多少の準備不足など取り返せる!」

「どういう理論よ……」

 照美が頭を抱える。地山が口を開く。

「そろそろまとめに入ってもらって……」

「あ、はい。それでは……ん?」

「ウェーイ、何だか随分と楽しそうなホームルームやっちゃってんじゃん?」

 全身を黒ずくめの服で決めた金髪の生徒が教室に入ってきた。
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