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第三章 九つの州へ

ファントムオブツシマ

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「おっ、いたねえ、デニスさんも……」

 ユエが不敵な笑みを浮かべる。タイヤンが頷く。

「まさかわざわざ対馬に来てくれるとはな……」

「ほんとそれ、手間が省けるというものだね……!」

 兵士たちがユエとタイヤンも包囲する。

「何者か知らんが、そいつらもついでに取り押さえろ!」

「いや、ついでにって……」

 統率する男の言葉にユエが苦笑する。

「こいつらは何者だ?」

「さあ……」

 タイヤンの問いにユエが首を傾げる。

「はあっ!」

「!」

 爽が兵士を数人投げ飛ばす。包囲網がわずかに破れる。爽が声を上げる。

「皆さん! 落ち着いてここからどうぞ抜けて下さい! これはアトラクションなどではありません!」

「‼」

 爽の声に応じ、舞台を見物していた人々がその場から離れる。比較的混乱は少なく、人々は包囲から抜けることが出来た。爽が安堵のため息をつく。

「ほっ……」

「サワっち、ナイス!」

 葵が右手の親指をグッと立てる。統率する男が声を上げる。

「気にするな、目的はあくまで舞台上の女王だ!」

「女王?」

「どうやら勘違いしているようですね……」

「あらら……」

 獅源が口を抑える。

「とにかく獅源さんを守ろう!」

「ええ!」

 葵と爽が構えを取り直す。

「それっ!」

「えいっ!」

 葵と爽が向かってくる兵士たちを次々となぎ倒す。

「くっ!」

「上様たちに守られている……なんだか複雑な心持ち……」

 統率する男が顔をしかめ、獅源は目を細める。

「女王? どういうことだ?」

「それについて調べるのは後よ、タイヤン」

「それはそうだな……だが、この数……いちいち相手にするのは厄介だぞ?」

「それならばあれを利用するまで……」

「あれを?」

「ええ……それっ!」

「⁉」

 ユエが地面に向かって手をかざすと、地面から半透明の姿をした古の武将や、異国の兵隊が多数現れる。ユエがふっと微笑む。

「思った通りね……」

「こ、今度は何⁉」

「これは元寇⁉」

「ええっ⁉」

 爽の言葉に葵が驚く。ユエが感心する。

「へえ、なかなか鋭いわね、眼鏡のお姉さん。そう、ここ対馬はいわゆる『元寇』で、日本の武士と元の兵隊が激しく戦った場所……その霊たちを呼び起こしたわ……」

「そ、そんなことが……」

「……それがあなたたち組織の目的ですか?」

 絶句する葵の横で爽が冷静に尋ねる。

「そうよ。厳密にはその地にまつわる霊的エネルギーの抽出が目的なのだけど、このよく分からない集団を片付ける為に、霊の方々にちょっと頑張ってもらうわ……」

 ユエが淡々と答える。爽が首を傾げる。

「……一体どういう組織なのですか?」

「これ以上は教えるつもりはないわ」

「……そうでしょうね」

「さあ、かかりなさい!」

「くっ、迎えうて!」

 統率する男が叫ぶ。タイヤンが笑う。

「ふっ、無駄なことを……」

「なっ、こちらの攻撃がすり抜ける⁉」

「霊だぞ? 普通のやり方で倒せると思うな……」

「上杉山流奥義……」

「武枝流奥義……」

「む?」

「『凍刃』!」

「『炎波』!」

 銀髪のポニーテールの女性が竹刀を振るい、金髪のショートボブの女性が軍配を振るうと、氷の刃と炎の衝撃波が、迫りくる元寇の霊たちを一掃した。

「なっ⁉」

「上杉山雪鷹(うえすぎやまゆたか)さんと武枝(たけえだ)クロエさん⁉」

「上様、ご無事ですね」

「なにより……」

 クロエと呼ばれた女性が笑顔を浮かべ、雪鷹はボソッと呟く。

「な、何者よ⁉」

「大江戸城学園の体育会副会長と書記です……ちなみに私が書記」

 ユエの問いにクロエが落ち着いて答える。

「が、学園……学生ってこと⁉ ただの学生が霊を一掃するなんて……」

「……やってみたら出来た」

「だそうです」

 雪鷹の呟きにクロエが肩をすくめる。タイヤンが唖然とする。

「そ、そんな馬鹿なことが……」

「ユエ! タイヤン! 貴様らの企みもここまでだ!」

「むっ⁉」

 ユエたちが視線を向けると、ティムを抱えたデニスの姿があった。

「この近くに船を停泊させている読みが当たった! 大方人質にでも使うつもりだったのだろうが、当てが外れたな!」

「くっ、混乱の隙を突かれたか……どうする?」

 タイヤンがユエに目配せする。

「隙が出来たのはそちらも同じ……! 妹ちゃんを確保すれば、プラマイゼロよ!」

 ユエがエマに向かって飛び込む。

「そうはさせん!」

「むう⁉ ちっ、アンタもいたか、ここは撤退するわ!」

 エマの前に立ったヒヨコが炎を巻き起こし、ユエを退ける。ユエたちは撤退する。

「そ、それは火の力⁉ 忌々しい巫女め、こんなところにおったか!」

 兵士たちを統率する男が驚きながらヒヨコに向かって声を上げる。
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