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第二章 いざ江の島へ

九人それぞれの奮戦

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「は、始まってしまいました⁉」

 南武が戸惑いの声を上げる。北斗が軽く頭を抑える。

「いきなり段取りと違う展開だな……」

「うおおっ! 金銀お嬢様! お待ちください! 今参ります!」

 将司が木刀で果敢に誘拐犯たちに斬りかかる。

「ふん!」

「いいぶちかましだ、玄道! おらあっ!」

 飛虎が豪快な飛び蹴りを繰り出す。龍臣が声をかける。

「へへっ! 思い出すな、飛虎! 他校に殴り込んだあの時をよ!」

「そんなビーバップな思い出はないが……そらあっ! 雀鈴、待っていろよ!」

 龍臣が鋭い拳を放つ横で飛虎が叫ぶ。

「やれ……」

「「はっ!」」

 光ノ丸の号令で介次郎と覚之丞が勢いよく飛びかかる。

「兎に角も 奇襲の役目 果たしたり」

「それはそうだね。相手はすっかり混乱している」

 一超の冷静な呟きに北斗が頷く。南武が尋ねる。

「どうしますか? 黒駆さんの策では我々が先陣を切る予定でしたが……」

「そりゃあ、切るっしょ、先陣」

「か、軽いノリですね⁉」

「ただ、遅れをとっちゃったからね、なにかインパクトが欲しいな……」

 北斗が顎に手を当てて考え込む。一超が期待を込めた目で北斗たちを見つめて呟く。

「お得意の 空中技を お披露目か」

「空中技なんか無いですよ! そんなキラキラした目で見つめられても!」

 南武が思わず声を上げる。一超が露骨にがっかりとする。

「なんとまた 双子なのにも 関わらず」

「だからなんなんですか⁉ その双子への偏見は⁉」

「空中技か……よし、やれ! 南武!」

「兄上! なんで僕だけなのですか⁉」

「視聴者の期待に応えてこその人気動画配信者だ!」

「僕は動画配信者ではありません! って、何を⁉」

「いっけええええ!」

「どわあああっ⁉」

 北斗は大型のドローンに南武を結び付け、無理やり空中に飛ばす。意外と飛べた。

「おお、飛んだぞ!」

「こ、これでどうしろと⁉」

「そこはなんかこう……アドリブで!」

「ディレクションが雑! ええい、どうだ! かかってこい!」

「!」

 南武はやけくそ気味に手に持った木刀を振り回す。誘拐犯集団の視線がそちらに向く。

「注意を引けた! よし、今だ!」

 北斗も木刀を手に斬り込む。それを見た光太が珍しく声を上げる。

「見事な空中戦! 良いものを見せてもらいました! 私も負けてられません!」

「‼」

「うおお! ジムで鍛え上げた成果を見せる時です!」

 光太が手に持った木刀を豪快に振り回す。線の細い見た目に騙されたのか、誘拐犯集団は面食らい、押され気味になる。それを見ていた獅源が笑う。

「ほほっ……先生、随分とらしくないんじゃありませんか?」

「たまには……方程式から外れても良いでしょう!」

 光太が誘拐犯集団を押しのける。弾七が叫びながら走ってくる。

「うおおおっ! 燃えてきたぜ!」

「これは橙谷先生? 先生は黒さんと一緒じゃありませんでした?」

「こんな熱い戦いを見せられたら、居ても立っても居られないぜ! さあ、誰でもいいから俺と相撲を取ろうぜ! 魂と魂をぶつけ合おうじゃねえか!」

 弾七が思い切り飛び込んで、誘拐犯を吹き飛ばす。小細工無しの体当たりに誘拐犯たちは意表を突かれた形になる。

「⁉」

「相撲へのこだわりはなんなんですか、向こうも若干引き気味だし……ん?」

 獅源が誘拐犯集団に取り囲まれる。弾七が叫ぶ。

「獅源!」

「弱そうな方を狙う。まあ、道理には適っちゃいますね……」

「……!」

「ちょいとばかり本気を出させてもらいますよ!」

「……⁉」

 獅源が見事な舞で相手を翻弄し、手玉に取る。

「歌舞伎役者の立廻り、舐めてもらっちゃあ困ります!」

 啖呵を切った獅源が相手を次々と投げ飛ばしていく。

「へえ、獅源ちゃんもやるね! はっ⁉」

 北斗が目をやると、一超が相手に囲まれている。一超は自嘲気味に呟く。

「気が付けば 窮地となりし 油断かな」

「一超ちゃん! 今援護する!」

「無用なり 己のことに 専心を」

「い、いや、そんなこと言っても!」

 一超が自身を包囲する相手に対し静かに呼びかける。

「矛を置き 波音にでも 耳澄ませ」

「……!」

「母親の 体の温もり 思い出す」

「……‼」

「その仕業 大事な人を 悲します」

「……⁉」

 一超を取り囲んでいた誘拐犯集団が手に持っていた武器を次々と放り出し始める。

「こ、これは……言葉の力で説き伏せてしまった⁉」

 北斗があっけにとられる。

「どあっ⁉」

「⁉ 南武⁉」

 北斗が視線を向けると、南武が地面に落下し、飛虎たちも苦戦気味な様子が目に入る。

「くっ……明らかに強そうなやつらが出てきたぜ、飛虎!」

「ああ、どうやら本気を出してきたってわけか……」

 飛虎が苦い顔になる。龍臣の言葉通り、先程までとは体つきの違う屈強な男たちがその姿を現し、武器を振るう。押し気味の形勢が逆転され始めたことに北斗は舌打ちする。

「ちっ、マズいか……ん⁉」

「! ……⁉」

 どこからともなく弓矢の雨が降り注ぎ、屈強な男たちがややたじろぐ。北斗が目を向けると、そこには景元の姿があった。

「か、景元ちゃん!」

「僕も栄えある将愉会のメンバーだ! 忘れてもらっては困るな!」

「……」

 戦場にもかかわらず、その場に一瞬の静寂が訪れる。景元が叫ぶ。

「そ、その反応……ま、まさか……本当に忘れていたのか⁉」

 景元は近くにいた北斗を見つめる。北斗は目を逸らして叫ぶ。

「け、形勢再逆転だよ!」

「露骨に目を逸らすな!」

「そろそろ良いんじゃない⁉ 黒ちゃん!」

「そのつもりですが、赤宿はどうしたのです⁉」

 秀吾郎が北斗に向かって尋ねる。

「え? 分かんない!」

「分からないって! 貴方がたと同じ隊でしょう!」

「気が付いたらいなかったよ! 暑いからね、海で水浴びでもしているんじゃない⁉」

「そんな馬鹿な! って、な、なんだと⁉」

 海に視線を向けた秀吾郎が驚く。夜の海を猛烈な速さの犬かきで泳ぐ進之助の姿があったからである。進之助が雄叫びを上げる。

「うおおおおおっ!」

「な、なんで海に入る必要がある⁉」

「そこに海があるからだ!」

「答えになってない!」

 進之助が陸に上がって、名乗りを上げる。

「大江戸きっての火消し、赤宿進之助、只今参上! 争いの火は消火させてもらうぜ!」

「……?」

「あ、あれ? オイラなんかおかしいこと言った?」

「なにからなにまで全部おかしい!」

「そうか? ってか、そんなに叫んだら、奇襲バレちまうぞ?」

「むっ⁉」

 秀吾郎は誘拐犯集団の視線が自らに集まっていることに気付く。進之助は笑う。

「ははっ、もう遅いみてえだな」

 秀吾郎は頭を激しく掻きむしる。

「~~! ええい! 行くぞ、赤宿! 青臨殿!」

「おうっ!」

「待ちくたびれたぞ!」

 三方向から、秀吾郎と進之助、そして大和が相手に向かって飛びかかる。

「! ‼ ⁉」

 秀吾郎たちの強烈な攻撃で、屈強な男たちはあっという間に倒される。大和が叫ぶ。

「見たところ、もっとも強い者たちは倒れた! これ以上の抵抗は無駄である!」

「! ……」

 誘拐犯集団は次々と武器を捨てて、投降の意思を示す。

「……とにかく、この辺りの制圧は完了か……結果オーライとしておこう」

 秀吾郎がやれやれといった様子で首を振るのであった。
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