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第二章 いざ江の島へ
迷ったらアレ
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「ショーグンの称賛を受けて良かったナ……」
昼食後の休憩時間中、宿舎近くでイザベラが憂に声をかける。
「う~ん……」
「どうかしたのカ?」
憂が首を傾げて呟く。
「な、なにか釈然としないんだけど……?」
「ふっ、そんなことカ。例えバ……大事なことを忘れているのではないカ?」
「大事なこと?」
「ショーグンが口にするものを作るということをよく考えてみロ……」
「はっ⁉」
憂が愕然とする。
「気づいたカ……貴様は絶好の機会をふいにしてしまったのダ……」
「ど、毒を盛るとか、さすがにそこまではしなくても痺れ薬を混入させるとか、惚れ薬を飲ませるとか……やり様はいくらでもあったのに……」
「惚れ薬についてはよく分からんガ……」
「私としたことが……普通に料理を作ってお出しするとか……何をやっているのよ……」
憂が頭を抱える。
「まあ、少しでもおかしな動きを見せたら、私が黙ってはいなかったがナ」
イザベラが笑う。
「それにしてもよ……なんとも情けないことを……」
憂がうなだれる。
「果たすべきことを果たせずに終わってしまった辛さは理解出来なくもないナ……」
「……」
「今、貴様は自分のことを不甲斐ないと思っているだろウ?」
「不甲斐ない……それも勿論あるけど、情けないという思いが強いわね」
「ほう、情けないカ……」
イザベラは憂の答えに興味を示す。
「何を平和ボケしてしまっているのか……」
「フム……」
「自分の将軍位に懸ける想いなんて所詮そんなものだったの? というような感情も湧き上がってきているわ」
「成程ナ……」
イザベラが頷く。
「自分で自分に腹が立つというか……あ~なんて言えば良いのかしら!」
憂が自分の頭を掴んで、髪をわしゃわしゃっとする。
「今、私が言えることハ……」
「え?」
「そのような状態に至った原因を取り除くのダ……」
「原因?」
「ああ、今の貴様は迷いを抱えていル……その迷いをどうにかしなければならなイ……」
「そんなことを言われても……どうすれば良いのよ⁉」
憂が叫ぶ。
「まあ、落ち着ケ……それを解決出来る人材を呼んでおいタ……」
「え?」
「……来たようだナ」
「……いやいや、改めてこんにちは、いや、ハローって言うべきかな? 西東イザベラちゃんだっけ? お呼び出し頂いて光栄だよ」
弾七がその場に姿を現す。憂が驚く。
「橙谷弾七! ……さん?」
「ああ、有備憂ちゃんだね、さっきの調理実習ではどうも」
「ど、どうも……」
「で? 美女二人が揃って何の用だい?」
「橙谷弾七……貴様には我々と相撲を取ってもらウ……」
「えっ⁉」
「はっ⁉」
弾七と憂が驚きの声を上げる。
「そ、それは……」
「ちょ、ちょっと! どういうことよ⁉」
「相撲を取れば分かル……騙されたと思ってやってみろ」
「な、なんでそんなことを……」
戸惑う憂を余所に、イザベラが声をかける。
「休憩時間も残り少なイ……橙谷、まずはこの女と相撲を取レ」
「い、いいのかい?」
「ああ、遠慮なくナ」
「美女と合法的にくんづほぐれつ……こんなことがあるとは……合宿最高!」
「では、行くゾ……はっけよい……のこっタ!」
「よしっ!」
「!」
「なっ⁉ ぐえっ!」
組み合う間もなく、弾七の体は宙を舞い、地面に落ちた。
「こ、これは……」
「分かったカ? よし、橙谷、次は私と勝負ダ」
「くっ、こんなはずは……次は勝つ!」
弾七は勢いよく立ち上がる。
「はっけよイ……」
「のこった‼」
「フン!」
「どえっ⁉」
弾七の体は先程よりも高く舞い、地面に叩き付けられた。イザベラは憂に尋ねる。
「どうダ?」
「な、なんだかスカッとしたわ!」
「それダ」
「え?」
「あまり難しく考え過ぎるナ……何事も意外と単純なものダ」
「よ、よく分かったような、分からないような……何故そんなことを教えてくれるの?」
「似たような立場だからかナ……何だか放ってはおけなくてナ……」
「ア、アンタ、結構良い奴ね! お礼に飲み物でも奢ってあげるわ!」
どうやら妙なところで意気投合したらしい憂とイザベラはその場を去った。
「ぐっ……ん⁉」
身体を起こした弾七は驚いた。やや軽蔑するような眼差しで自分を見つめる葵の姿がそこにあったからだ。
「お、女に抱き付こうとするなんて……破廉恥だとは思っていたけど……」
「ま、待ってくれ、大変な誤解をしている……!」
弾七の制止も虚しく、葵は足早にその場を去ってしまった。横から爽が淡々と呟く。
「葵様の誤解はそれとなく解いておきます。なんらかの事情があるようですからね……」
「た、助かるぜ」
「ですがそれはそれ。橙谷弾七さん、これはややマイナスポイントですね……」
「し、審判はするのか⁉」
「厳正かつ公平な審判をお願いされておりますので……失礼致します」
「ぐっ……」
爽もその場を去り、弾七は再びガクッと倒れ込む。それを物陰から見た将司は呟く。
「流れが分かりませんが、橙も塗り潰せましたよ……ええ、金銀お嬢様にお伝え下さい」
昼食後の休憩時間中、宿舎近くでイザベラが憂に声をかける。
「う~ん……」
「どうかしたのカ?」
憂が首を傾げて呟く。
「な、なにか釈然としないんだけど……?」
「ふっ、そんなことカ。例えバ……大事なことを忘れているのではないカ?」
「大事なこと?」
「ショーグンが口にするものを作るということをよく考えてみロ……」
「はっ⁉」
憂が愕然とする。
「気づいたカ……貴様は絶好の機会をふいにしてしまったのダ……」
「ど、毒を盛るとか、さすがにそこまではしなくても痺れ薬を混入させるとか、惚れ薬を飲ませるとか……やり様はいくらでもあったのに……」
「惚れ薬についてはよく分からんガ……」
「私としたことが……普通に料理を作ってお出しするとか……何をやっているのよ……」
憂が頭を抱える。
「まあ、少しでもおかしな動きを見せたら、私が黙ってはいなかったがナ」
イザベラが笑う。
「それにしてもよ……なんとも情けないことを……」
憂がうなだれる。
「果たすべきことを果たせずに終わってしまった辛さは理解出来なくもないナ……」
「……」
「今、貴様は自分のことを不甲斐ないと思っているだろウ?」
「不甲斐ない……それも勿論あるけど、情けないという思いが強いわね」
「ほう、情けないカ……」
イザベラは憂の答えに興味を示す。
「何を平和ボケしてしまっているのか……」
「フム……」
「自分の将軍位に懸ける想いなんて所詮そんなものだったの? というような感情も湧き上がってきているわ」
「成程ナ……」
イザベラが頷く。
「自分で自分に腹が立つというか……あ~なんて言えば良いのかしら!」
憂が自分の頭を掴んで、髪をわしゃわしゃっとする。
「今、私が言えることハ……」
「え?」
「そのような状態に至った原因を取り除くのダ……」
「原因?」
「ああ、今の貴様は迷いを抱えていル……その迷いをどうにかしなければならなイ……」
「そんなことを言われても……どうすれば良いのよ⁉」
憂が叫ぶ。
「まあ、落ち着ケ……それを解決出来る人材を呼んでおいタ……」
「え?」
「……来たようだナ」
「……いやいや、改めてこんにちは、いや、ハローって言うべきかな? 西東イザベラちゃんだっけ? お呼び出し頂いて光栄だよ」
弾七がその場に姿を現す。憂が驚く。
「橙谷弾七! ……さん?」
「ああ、有備憂ちゃんだね、さっきの調理実習ではどうも」
「ど、どうも……」
「で? 美女二人が揃って何の用だい?」
「橙谷弾七……貴様には我々と相撲を取ってもらウ……」
「えっ⁉」
「はっ⁉」
弾七と憂が驚きの声を上げる。
「そ、それは……」
「ちょ、ちょっと! どういうことよ⁉」
「相撲を取れば分かル……騙されたと思ってやってみろ」
「な、なんでそんなことを……」
戸惑う憂を余所に、イザベラが声をかける。
「休憩時間も残り少なイ……橙谷、まずはこの女と相撲を取レ」
「い、いいのかい?」
「ああ、遠慮なくナ」
「美女と合法的にくんづほぐれつ……こんなことがあるとは……合宿最高!」
「では、行くゾ……はっけよい……のこっタ!」
「よしっ!」
「!」
「なっ⁉ ぐえっ!」
組み合う間もなく、弾七の体は宙を舞い、地面に落ちた。
「こ、これは……」
「分かったカ? よし、橙谷、次は私と勝負ダ」
「くっ、こんなはずは……次は勝つ!」
弾七は勢いよく立ち上がる。
「はっけよイ……」
「のこった‼」
「フン!」
「どえっ⁉」
弾七の体は先程よりも高く舞い、地面に叩き付けられた。イザベラは憂に尋ねる。
「どうダ?」
「な、なんだかスカッとしたわ!」
「それダ」
「え?」
「あまり難しく考え過ぎるナ……何事も意外と単純なものダ」
「よ、よく分かったような、分からないような……何故そんなことを教えてくれるの?」
「似たような立場だからかナ……何だか放ってはおけなくてナ……」
「ア、アンタ、結構良い奴ね! お礼に飲み物でも奢ってあげるわ!」
どうやら妙なところで意気投合したらしい憂とイザベラはその場を去った。
「ぐっ……ん⁉」
身体を起こした弾七は驚いた。やや軽蔑するような眼差しで自分を見つめる葵の姿がそこにあったからだ。
「お、女に抱き付こうとするなんて……破廉恥だとは思っていたけど……」
「ま、待ってくれ、大変な誤解をしている……!」
弾七の制止も虚しく、葵は足早にその場を去ってしまった。横から爽が淡々と呟く。
「葵様の誤解はそれとなく解いておきます。なんらかの事情があるようですからね……」
「た、助かるぜ」
「ですがそれはそれ。橙谷弾七さん、これはややマイナスポイントですね……」
「し、審判はするのか⁉」
「厳正かつ公平な審判をお願いされておりますので……失礼致します」
「ぐっ……」
爽もその場を去り、弾七は再びガクッと倒れ込む。それを物陰から見た将司は呟く。
「流れが分かりませんが、橙も塗り潰せましたよ……ええ、金銀お嬢様にお伝え下さい」
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